3、事実
『キャリーバック借りに、午後からそっち行くね』
休日に母から受け取ったLINE。
キャリーバック?
旅行でも何か予定してたっけ。
『はーい。準備しとく』
『〇〇くんは今日休み?』
『いや、仕事かな』
私は結婚して旦那と2人で暮らしている。
実家からは車で1時間くらい。
『ね、ね、お昼だしごはん食べ行こ』
『いかないー』
『えー』
あまり綺麗とも言えない部屋をぼちぼち片付けて、母を待っていると車のエンジン音が聞こえてきた。
「ごはんは〜?」
「今日はキャリーバック借りに来ただけだから」
「てか、お父さんは?」
「家にいる」
「ふーん」
「どっか行くの?」
「…………」
母はストンと側にあるソファに座った。
「?」
「あのねー」
「なに?」
俯いた母は、どこかに目を逸らして、呟くように声を出した。
「お父さんね、膵臓癌だった。」
……は?
なにそれ?
膵臓癌?ああ、病気か。
お父さん腰痛いって言ってたしなー。
そっかー。
母の表情からして良くない病気なのは確かみたいだ……。
いや、ちょっと待って。
膵臓癌って癌、だよね。
癌……?
お父さんが、癌?
「ばかじゃないの」
私の口から出た一言目は、そんな身も蓋もない安易な言葉だった。
評価を付けてくださった方、ありがとうございました。
今ある時間を文章として残していければ、いいなと思いながら書いていますが、実はこれは自分のためでもあります。
夜、寝る前。
父のことを思い浮かべます。
残されていくであろう母のことを思い浮かべます。
すると目の奥が熱くなるのです。
それでは眠れませんから、私は文字を打つことにしました。
文字を打っている間は何故か冷静になれるようです。
文字として残せているという事実が、少しだけほんの少しだけ安心感を与えてくれるのです。