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化粧




 父が亡くなって、2ヶ月が経った。


 たまに父のことを思い出す。


 写真を見る。


 写真を見るとあの日の情景が、あの2週間での出来事が鮮明に思い出されるから、もしかしたら写真なんてない方がいいんじゃないかとさえ思う、


 それでも消せずにいる。

 まだフォルダに残っていて、時々見返しては父のことを思う。


 …………。






 他界した直後、看護師さんから化粧道具を手渡しされた。


「これでお父さんのお顔を作ってあげてください」


「………?」


「女性がするような化粧ではなくて、お父さんが生きていた頃のようなお父さんらしい化粧をしてあげてくださいね」


 パレットを見ると、ファンデーションとチーク、アイシャドウだけの小さなメイク道具が入っていた。


「………はい、、わかりました。私でいいんですか?」


 父の方を見ると、すっかり顔は白くなって、黄疸による黄色っぽさも見られた。


(お父さんの、顔…………)


「女の方のほうがいつもメイクしている分、上手だと思いますので」


 そう言って父の側にいてくれた看護師さんは立ち上がって、手続きやドクターへの連絡を済ませていた。




「あとででも、良いですか?」


「ええ、明日でも大丈夫ですよ」


 まだ描けそうになかったから、私はパレットをそっと横の机に置いた。




 次の日しばらくしてから、


「お父さんの化粧しよっかな」


 と、父の顔の上にかかっている白い布をそっと取った。


 相変わらず父は動かなくて、真っ白くなっていた。


 開いていた口は死後硬直の前にタオルで押さえてもらっていたこともあり、ちゃんと閉じられている。


(よかった……!)



「………………」


 私は慎重にファンデーションをとる。


(女性とは違う化粧。お父さんのいつもの顔みたいに……)


 まずは頬骨や、鼻筋、眉上などハイライトがあたりそうなところに、ゆっくりと粉を乗せていった。


 硬い感触。


 肉感はなく、骨に沿って筆を滑らせているような感覚だった。


 頬はゴツゴツとしていて、瞼は飛び出してしまいそうになる目を皮一枚で覆っているような感じだ。


 触れていいものかと少し不安になる。


 ゆっくりと塗り重ねると、だんだん…だんだんと生きている頃の父の面影が出てきたように感じられた。


「………………」


 口紅を薄く引く。


 父の唇は乾燥していてか、皮が剥けていてカサカサしていた。


 唇に色が着くと、一気に生きていた頃のように見える。


(綺麗な顔になった………かな)


 涙が出そうになるけれど、くっと堪えた。




 遠目で別の部屋にいる母親が見えたので、


「ねぇ!ねぇ!どう?お父さんの顔?!」


 とから元気で聞いてみた。

 すると、


「あら、上手」


 その言葉にほっと胸を撫で下ろす。


「薄くないかな?」


「これぐらいがお父さん生きている時みたいで、ちょうどいいわ」


「上手?」


「上手上手」


(それはよかった)


 私は安心すると、弟にも同じように「どう?」と聞きてみた。


「おーーいいんじゃない?お父さんみたいだわ」


「でしょ?」


「おー」






 お父さんの顔に色が着いて、最後にぐるりと確認すると、またそっと白い布を被せた。


 お父さんの顔は、また見えなくなった。




「……………」



 少し寂しくなって、またそっと布をあげる。


 そして、顔をまじまじと見つめてから、またゆっくりと被せた。






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