10、家族旅行(2)
しばらく弟の近状を聞いてから温泉に入りに行ったんだけど、
「俺は後から入る」
と言ってお父さんは部屋にいることになった。
身の回りのことは自分でできるけれど、なかなか動くのは辛いみたいだ。
温泉の扉を開けてみると、思ったよりも人が少ない。というか今出て行った人で最後だ。
なんと貸し切り状態。
「誰もいないね〜」
「良かったね」
身体を軽く流してから、すいーっと泳ぐ素振りをしてまったり温泉に浸かる。
「お父さんさぁ」
お母さんは口をへの字にして、
「やっぱり5年はもたないのかな」
と言った。
5年。
5年か……。
膵臓癌と申告された人の余命は、僅かしかない。
5年も生きられるのは全体の約1%だという。
お母さんも毎日YouTub○で膵臓癌のことを見ているから、知っている知識ではあった。
……希望を持ちたいのだ。
お母さんはなんとか希望を持ちたくて、頑張って、お父さんがなるべく長く生きられる道を探しているのだ。
でも、普段のお父さんの様子を見て薄々気づき始めているのだろう。
もう……気づいているのかもしれない。
受け止めたくない現実を。
私はなんだか、あんなに止まらなかった涙も落ち着いて、お父さんのことを冷静に見ていられる……と思っている。
……嘘。
そんなはずはさ、
ないのにね。
あんまり考えないようにしているだけなのかもしれない。
目を背けているのかもしれない。
直視できないの。
きっとお母さんはもっと辛い。
何度も言う。
「もっと一緒に……居られると思っていたのに……」
って。




