第七話「とりあえずの和解」
カカは二体のレッドベア相手に激しい攻防を繰り広げていた。
だが、二対一の状況から徐々に防戦一方になってきていた。
「ちっ! このままじゃジリ貧だ」
その時、カカの周りに轟音と共に複数の稲妻が落ちた。
レッドベアは即座にカカから飛び退き距離をとった。
「おじさん! ごめん! 遅くなった、加勢する!」
「ライト! すまねぇ! リズたちは無事か?」
「うん! 宮廷魔術士さんもいるしね! それよりもこいつらを!」
「よし! 1体は任せたぞ!」
そう言うとカカは戦斧を振り下ろし地面を割り、その衝撃がレッドベアがいる所にまで伸びていき二体を分散させた。
すぐさまライトは一体の注意を自分に向けるため稲妻を放つ。
レッドベア(左)は稲妻を受け、雄叫びを上げるもその目に怒りの炎を灯しライトに突進しその勢いのまま上段からフルスイングで拳を振り下ろした。
ライトはそれを拳の外側に身を躱し、振りぬいたレッドベアの拳を爪で引き裂きながら上空へと距離をとった。
レッドベアは怒りと更に憎しみを目に宿らせ上空のライトに火炎を吐き出した。
ライトは掌を火炎に向け、風で火炎を包むように操ると風ごと火炎の軌道を変え更に稲妻をプラスして、レッドベアに撃ち返した。
「ガァアァァーーーー!」
断末魔を上げながらも火に耐性があるのか絶命することなく上空へ視線を向けるもそこにライトの姿はなく、
「こっちだ!」
ライトは既にレッドベアの下に潜り込み、変化した爪でレッドベアの首を撥ね飛ばした。
一方カカ。
衝撃でレッドベアを分散させたあと、ライトと同じように自分に注意を向けるためレッドベア(右)に水球を撃ち出していた。と、同時に距離を詰め左薙ぎの一撃を繰り出す、
「おらぁぁ!」
が、紙一重で躱され致命傷には至らず、
「グゥアァァァ!」
逆に攻撃後の隙をついたレッドベアが拳を振り下ろした、斬撃で言うところの袈裟斬りの一撃だ。
「ちっ!」
舌打ちと同時にカカは軽く地を蹴ると、そこから土の壁を出現させこの一撃を防いだ。瞬間、途中まで破壊された土壁が瓦礫となって霧散し、レッドベアの視界を防ぐ。
「これで終わりだ!」
カカはこの隙をつき、唐竹の斬撃を繰り出しレッドベアを真っ二つにした。
魔物退治を終え、カカが皆の無事を確認している時、家に隠れていた村人が戦闘の終わりを感じぞろぞろと集まってきた。
「村長! モ、モンスターは?」
「ああ、俺とライトとソフィアさんでなんとか倒したぜ」
「あ、ああ、ライトか……」
爪から血を滴らせるライトを村人たちは獣を見るような目を向け、ひそひそと何やら囁いている。
「お前らいい加減に――」
「いい加減にしなよみんな!」
言いかけたカカを遮り、声を荒げたのはリズだった。
突然のリズの大声に何かを言いかけていたカカはそのまま黙ってしまった。
「ライトはみんなを守るために戦ってくれたんだよ? なんでありがとうって言えないの!?」
リズは嗚咽し言葉を繋げられなかった。
「……」
「そうですね、皆さんのライトに対する対応は少々不快に感じてしまいます。七歳の子供にする対応ではありませんよ」
一瞬沈黙した場で、リズの代わりに声を出したのはユーリだった。そのユーリの言葉を受け村人たちはか細い声で「姫さんはあの事を知らねえから......」と口々に囁いていた。
「……ということはこれには何か理由があるのですね。……村長さん、ライト、部外者なのは重々承知していますが聞かせて頂けませんか?」
「……いいよ村長、僕のことユーリ達に聞かせてあげて」
渋るカカにライトは声を掛けた。
「ライト……分かった」
そう言うとカカは重々しく口を開いた。
「これは俺もこいつらから聞いた話になるんだが……今から二年前、この村は野盗に襲われたんだ。ちょうどその時、俺は不在で戦える者もいたんだがそいつらには少々手に負える相手ではなくてな、野盗どもに好き放題されたんだ……たくさん殺された……
ライトもその時はちょっと強めの静電気を出す程度でよ」
「……」
「リズの母親もライトの両親もその時……殺された」
「そうなんですか……申し訳ありません。でもそれなら……」
「その時、ライトの両親が殺された時、ライトの様子が変わったらしい」
「……?」
「皆が言うには……」
ライトを前にして少し言いよどみながらカカは続けた。
「その姿はまるで化け物だったと……」
「……」
「そして様子が変わったライトは野盗どもを一人残らず皆殺しにした。そのあとも錯乱し暴れ回ったそうだ」
「でも! ライトは誰も傷つけてないよ? お母さんの仇を打ってくれたんだよ? ライトがいなきゃみんな死んでたんだよ!?」
目から大粒の涙を流しながらリズは訴えた。
「分かりました……皆さんはライトの所属属性はご存じですか?」
「え? い、いや知らねえけど、急にそれがどうしたんだ?」
唐突なユーリの問いに困惑している村人たちに代わりカカが質問を返した。
「先ほどライトの所属属性をたまたま調べたところ、ライトは無属性でした」
「え? な、何言って――」
それまで、黙って聞いていたライトが困惑の表情でユーリに何か言いかけたところでユーリと目が合い、その目が「いいから、黙ってて」と言っている気がしたのでとりあえずライトは口をつぐんだ。
「ソフィア」
ユーリに促され、ユーリの意図を瞬時にくみ取ったソフィアが続きを説明する。
「無属性の魔術については、いまだ分からない事が多くあるが、その中には自らの姿を変身させる魔術の存在が報告されている」
「そ、それじゃあライトのあれは魔術か?」
「おそらくそういうことだろう。感情の爆発が魔力を暴走させるのはよく聞く話だ」
「そ、そうだったのか」
そう聞いた村人はまるで落としどころを見つけたかのように口々にそう言っていた。
「し、しかしあれはもっと別の――」
村人の中の一人がそう言いかけた時、ユーリがひと際大きくした声で遮った。
「実際、あなた方の村を守ったのは紛れもなくライトですよね?」
「そ、それは……」
「子供に全ての責任を被せて大人として恥ずかしいとは思いませんか?」
「……」
「仮にライトが異質の力を持っていたとしても、ライトはその力で何をしましたか?」
「……」
「ライトは私の命の恩人でもあります。これ以上王家の恩人を侮辱するとそれ相応の対応をしなくてはなりませんが?」
「も、申し訳ありません……」
中身が30過ぎの自分を10歳の女の子が擁護してくれている状況をただ呆然と見ているしかなかった。
情けなくも思いつつも、この子が王女になった国を見てみたいなと思った。