第五話「世界の事」
「で、この世界の何が知りたい?」
「そうだなーじゃあまず世界情『はいっはいっ!』」
世界情勢と聞こうとしたライトにリズが割って入る。
「魔法の事!」
「ふむ、まずは魔法の事だな、ライト、いいか?」
「うんいいよ、それも教えて欲しかったし、基本の基の字からお願いします!」
そうして、ソフィアによる魔法の授業が始まった。
「まず魔法……正確には魔法術と呼ぶ、魔法術、氣功術、機械術これらの総称を魔術と言う。更に魔法術は付与魔術とに分けられる」
「へー魔法は魔法だけじゃないんだ」
「うむ、だが魔術や魔法と言うと一般的には魔法術の事を指す事が殆どだ」
「なるぼどね……機械術も魔術なんだ」
機会と魔術は真逆な印象を受ける為ライトは思わずそう呟いた。
「魔法はこの世界の人類が誕生した時から既に使用していた痕跡が多々残っている。それ以前に存在していた人類や同時期に存在していた人類にはその痕跡が見つからないのだ」
「つまり、進化の過程で魔法を使う人類が誕生した。そしてその進化が他の人類との決定的な差を生み、結果生存競争に勝ってこの世界を支配する種になったって事か……」
「……」
「……」
「……」
そう一人納得していたライトを他の者達は無言で見つめていた。
「え? なに?」
「いや、君は時より、おそよ子供らしくない時があるなと思ってな」
「え? そ、そうかな?」
(あぶない、あぶない!)
「まあとにかくその通りだ、魔法というものは我々にとって重要な能力で馴染み深いものだ。だが同時に未だ解明されていない部分も多く、未知の力でもある」
この世界ではほぼ全ての人が魔法を使っているがその殆どが生活魔法で、小さい頃に言葉を覚えたり、歩けるようになるようにいつの間にかできるようになるそういう類いのものであった。
「まず、魔法にはそれぞれ属性というものがある」
更にソフィアは続けた。
「火、水、風、土、木、そしてこれに無と個、この二つを加えた物が魔術における属性だ。これを五行二個思想という、この世界の基本的概念だ」
(昔の中国にそんな考え方があったような気がするな……)
「さらに人には所属属性というものがある」
「所属属性?」
「そうだ、所属とは言うが単純にその人の相性の問題であり、所属属性と関係なく全属性の魔法を習得可能だ」
ソフィアは続ける。
「だが、例えば、全く同じ経験値の者がいて、所属属性がそれぞれ火と水だった場合、その二人が火の攻撃魔法のファイヤーボールを同時に撃ったとしよう、その場合、勝負を決するのは所属属性だ。無論この場合火の所属属性の者が勝つ。そして所属属性は一人にひとつだけという法則がある」
「じゃあ所属属性は他人に知られるべきじゃないね」
ソフィアの説明を受けてライトが答える。
「そうだな、だがそれは戦いを生業としている者に限られるな。魔術研究者や付与魔術士は自分の所属属性を他人に知られるのはさほど忌避していない、一般人なら尚更な、それに有名な魔術士の場合は自ら語らずとも知られている者もいるしな」
「ふーん……じゃあ無と個は?」
「うむ、さっきは所属に限らず全ての系統を習得可能だと言ったが無属性は例外だ、無属性の魔術は無属性の所属じゃなければ習得できない」
ふとライトがリズとユーリを見ると飽きたのか二人して全く関係ない話に花が咲いていた。
「無属性に多いのは人の精神や魂といっものに干渉する魔術だな。あと光や闇を象徴するような魔法も無属性の場合が多い」
「魂ね……」
「そして個だが」
「うん」
「これは属性ではない」
「え?」
「固有魔術の個だ。誰でも発現する事が分かっているが、大体が無属性の者がある発現する事が多い。そしてこれは研究や鍛錬などによって習得できるものではなく、その発現方法も未だ分かっていない」
「……未だ解明されてない能力ね。確かにこの二つに関しては後付け感が半端ないね」
ライトは顎に手を当ててソフィアの説明を反芻している。
「さらに、固有魔術に目覚めた者は全ての属性が所属になる、というおまけ付きだ」
「……なにそれ?」
意外な話にライトは虚を突かれた。
「だから、固有魔術に目覚めていなくても無属性というだけでどの組織にも重宝されている」
「でしょうね……」
「ねーねー! その所属属性はどうやったら分かるの?」
今まで無関心に見えたリズだったが、一応は話を聞いていたみたいで自然と会話に入ってきた。
「いくつかあるが最も簡単でポピュラーな方法は……ちょっとこっちに来てくれ」
そう言うソフィアに皆で付いて行くと、一本のそれほど高くない木の前まで移動した。
「このユグドラシルの木はこの世界で最も多く生えてる木だ」
ソフィアはおもむろに手の届く部分の枝をポキリと折った。そしてその枝をしばらくソフィアが持っていると、じわりと葉の部分に夜露の様な水滴が滲み出てきた
「このユグドラシルの木の枝をしばらく持っているとその者の魔力に反応して、属性のそれぞれの反応を示してくれる、水属性の反応は葉から水滴が滲み出てくる。ではクイズだ、他の反応はどんなものだと思う?」
突然、クイズ大会が始まってしまった。
「ユーリは知っているな、内緒だぞこれはクイズだからな。では、まず火属性だ! どれも結構そのまんまな反応だぞ」
「はいっ! はいっ!」
「お! 早いな! ではリズ!」
「木が燃える!」
「惜しい! ちょっとそのまんま過ぎるなー、燃えるとどうなるか」
「じゃあ、灰になる?」
「おお! ライト正解だ!」
「ライトずるい! あたしの答えを踏み台にした!」
「ちょっ! 人聞きの笑い表現やめてよ、ヒントにしたんだよ」
「では、続いて! 風はどうなる!?」
(なんだよこのノリ、急にどうした?)
「はいっ! はいっ!」
「早い! リズ!」
「枝が折れる!」
「惜しい! 枝じゃない!」
「じゃあ」
「はい! ライト!」
「葉っぱが落ちる」
「正解!」
「……」
恨みのこもった目でライトを睨みつけるリズにライトは困った声を上げた。
「いやいや、リズが答えを出すのが早すぎるんだって!」
「リズ、今度はまず先にライトの答えを聞いてみよ、ねっ!」
ユーリがリズを励ますように言う。
「では、続いて! 木はどうなる!?」
「……ライトが先に答えてよ」
「いや、いいけど……リズ、目が怖いって」
「では、ライト!」
「うーん、木でそのまんまなんでしょ……枝か成長するとか?」
「正解だ!」
「うわーん! ライトのインチキ!」
「何でだよ」
半笑いで突っ込むライトにリズは半泣きになりながら最後の問題を要求した。
「では、最後! 土はどうなる!?」
「はいっ!」
「リズ!」
「リズ大丈夫?」
「うん! 土が……」
ユーリの心配をよそにリズは一拍置いて答えた。
「つく!」
「残念! ではライト!」
「えぇー? 僕、もういいよー」
「ライト答えなよ」
リズは逃がさない。
「じゃあ、根っこが伸びるとか?」
「正解だ!」
リズはもう半泣きではなく涙を流して悔しがっていた。
「リズは相変わらず負けず嫌いだなー」
ライトがしみじみと言う。
「ライトが……あたしを踏み台にして……」
「おいおい、言い方! ていうか、号泣じゃないか。ん? ……そういえば無属性は?」
「はいっ!」
「おお! ではリズ!」
「何も起こらない!」
「……良くやった。正解だ!」
「よっしゃああ!」
リズはめちゃくちゃ喜んだ。
「ふふーん! どう!?」
「何がだよ、良かったな最後に正解できて」
「リズ凄い!」
「へへーん!」
リズはここぞとばかりのドヤ顔を晒していた。