第四話「お礼」
翌日。
ユーリは朝から森の中を歩いていた。
隣にはこの村に住むリズという女の子と宮廷魔術士のソフィアだ。
リズがライトの所に行こうとしたのを二人で付いてきた形だ。
ユーリはライトに改めて感謝を伝えたかった。
「きれい……」
ユーリは心を奪われ思わず呟いた。
透き通るような金髪を靡かせた少年は、渓流の中にある岩の上で釣竿を振っていた。
木々の隙間から漏れた木漏れ日が人型のシルエットを作り、水面はキラキラと輝き、その陰陽のコントラストは幻想的な情景を生み出していた。
「ライトー!」
「ん? おおーリズ。今日は山道を通って来ただろうな?」
「うっ……通って来たよ! 昨日はたまたま森を通っちゃったただけなのに……あ!」
後半ほど声が小さくなっていったリズは、途中思い出したように声を上げた。
「ライト、今日はユーリとソフィアも来てくれたよ!」
ユーリは少しおどおどしたようにリズの隣に立っていた。
「おはよう、ユーリ」
「お、おはようございます」
(もしかして、俺にびびってるのか?)
などと考えていたライトを見透かしソフィアがフォローを出した。
「ユーリは普段あまり近い歳の子と接する機会がないんだ、だから仲良くしてやってくれ」
「ふーん、なるほどね……
じゃあ早速お友達になろう!」
「ふぇ?」
ユーリは唐突にそう言われて素っ頓狂な声を上げた。
「本当はお姫様に対して無礼なんだろうけど、子供同士だし友達になってもいいだろ?」
「う、うん。お友達になりたい!」
同年代の友達……というか友達らしい友達はいないらしいユーリは、戸惑いつつも凄く嬉しそうだった。
「えー! ライトだけズルい! 私もお友達になる!」
「リズもお友達になってくれる?」
「うん!」
そして暫しの雑談あと、4人はすっかり打ち解けることができた。
「ところで、今日はどうしたの? 僕に用事?」
リズはともかく二人が訪ねてくる理由が浮かばなかった。
「改めてお礼を言いたくてライトのところに行くっていうリズに付いてきたの」
「そっか、わざわざどうもありがとう」
「いえ、お礼を述べるのはこちらの方です。昨日は危ない所を命懸けで助けて頂きありがとうございました」
「なんだよ、急に畏まるなよ」
「それとこれとは別ですから」
そう言うとユーリはころころと可愛らしい笑顔で笑った。
「あ、昨日の頭の傷は大丈夫だった?」
再び砕けた口調に戻ったユーリは昨日の怪我の様子をライトに聞いた。
「うん。全然大丈夫! ユーリのあの魔法で一発で治ったよ!」
「良かった、もしまだどこか怪我してたら言ってね」
「うん。ありがとう! でも本当にもう大丈夫だよ」
実際、あの魔法で身体にあった全ての傷は治っていた。
「ところで、昨日はなんであんな所にいたの?」
「王都に帰る途中だったんだ」
ライトの問いに答えてくれたのはソフィアだった。
「ユーリは来年からプーリアにある魔術士学園に入学するからその下見に行った帰りだ」
「へー、魔術士の学校とかあるんだ」
「あ、そうだ! ライトは欲しい物とかある?」
感心していたライトにユーリは唐突にそんな事を言った。
「ん? お礼って事?」
「うん。王都に着いてからになるから、もう少し待って欲しいんだけど……」
「いやいや、そんなの要らないよ!」
「え? でもそれじゃ王族としての……」
「いい! 要らない、要らない! ただ、もしリズや村の連中が何か要求したら出来るだけ叶えてあげて」
今回の一件ではリズも活躍したので当然の権利と思いライトはリズにも話を振った。
「んーリズも別に要らないかなー……あとはお父さんに聞いて!」
「そっか……じゃあお父様に聞くね」
ライトはふと疑問に思った事を聞いてみた。
「ていうか帰れないって、まだ何か問題があるの?」
それに答えてくれたのはソフィアだった。
「崖崩れがあってな、山道を塞いでしまって馬車が通れないんだ。土砂を片して山道を整えるのにもう暫くこの村に滞在させて貰う事になったのだ、まだ迷惑をかけるがよろしく頼む」
「いや、それは全然いいよ! 気の済むまでゆっくりしていって!」
(……そう言えば、俺がぶっ壊した洞窟の裏っ側って山道に繋がってたような……)
「ライト、私は王族ではないがこれでも貴族だ。
何かライトとリズに何か感謝の気持ちを伝える手段はないか?」
「んー別にいいってのに……」
暫し、ライトは考え
「あ、じゃあ色々教えて欲しいな」
「ほう、容易い事だ、何が知りたい?」
「この世界の色々」