第三話「帰還」
到着したライトは村に入るのに、一瞬躊躇したが少しの覚悟を決め足を踏み入れた。
ライトの生まれ育った村は特別裕福ではないものの、周りの豊かな森のお陰で飢えの心配はそれほどない。
それでも厳しい冬の年はあるし、たまに森から獣やモンスターが現れる。それを村人達は力を合わせ乗り越え、それなりに幸せに暮らしていた。
ライトが村に入った瞬間、村の空気が変わった。
「ライト……」
「本当に生きていたのか……」
「七歳の子供が一人で森に住めるものなの?」
「やはり、鬼の子か……」
ひそひそと村人達は言い合う、そんな完全アウェーな雰囲気の中少女を背負い、村長宅まで歩き扉に手をかける、
「その傷じゃ無理だ! 森に住むモンスターはゴブリンだけじゃないんだぞ!」
「離せ! ならばなおさら助けに行かないと!」
「とにかく今、村の男連中が森を捜索しとるからもう少し待つんだ!」
「待てん!」
村長の声と女性魔術士の声が聞こえてきたと思うとすぐに、『バンっ!』っと目の前の扉が勢いよく開きライトの顔面に直撃した。
「痛ってぇー」
「ライト……」
「ライトー!」
「……久しぶり、おじさん」
どこか複雑な表情の村長と屈託のない笑みのリズ、対照的な二人に声をかけられたライトはそれだけ言うと女性魔術士に向き直り、背負った少女を見せた。
「お姉さん、この子がユーリって子だよね?」
「ユーリ!」
少女を見せると女性魔術士はすぐさま駆け寄った。
「村長、この子ベッドに寝かしてもいいかな?」
「あ、ああ! 勿論だ! こっちに運んでくれ」
村長の了解を得て、ユーリをベッドに寝かすと真剣味を帯びた顔で女性魔術士は話しかけてきた。
「ゴブリンキングは……まさか倒したのか?」
「いやー……
なんか運が良かったんだ」
「馬鹿な……子供に倒せるなど……君は一体」
ライトは詮索されるのが嫌で適当に誤魔化した。
女性魔術士も色々納得できなかった様子だがとりあえずの現状に安堵した表情を見せた。
「私は宮廷魔術士のソフィア・ヴェルナイズ。
正直、色々聞きたい事はあるが今はユーリを救ってくれた事、心より感謝する。おそらく褒美が出ると思うが」
「あー、いいよそんなの!
僕はライト・レオンハルト、この村の出身です。
ご褒美なんか要らないよってユーリにも言っておいてね!」
(宮廷魔術士ってことはお姫様か!?)
ライトは褒美ってなんだろうと思いつつも、それを受け取るのに色々ややこしい手続きとかあるんだろなと言う考えに至り辞退した。
「それよりもおじさん、この子を探しに行った男の人達、もう呼び戻した方がいいよ」
「ああ、そうだなもう必要もないしな。カルタ、残ってる男何人か連れて呼び戻しに行ってくれないか?」
「ああ、わかった!」
指示を受けたカルタは駆け足で家から出て行った。
ライトは森に住んで一年、ゴブリンキングなど見た事もなかった。
ライトが住んでる西の森は動物が多く、ゴブリンキングがいた東の森にはモンスターが多く、自然と棲み分けができていた。
ライトは東の森は極力避けてはいたが、狩りなどで入る事もありその際モンスターを見る事はあったが、あんな強力なモンスターは見たことがなくもしかしたら他にもいるかも知れないと思い、村長にそう提案した。
「じゃあ僕は帰るね」
「……ライト、村に戻ってこないか?」
帰ろうとするライトを村長は引き留めた。
「お前の事だ、七つと言えど一人で十分暮らして行けてるんだろう、でもそれでもお前はまだ七つだ……独りになるにはあまりに早すぎる。村の連中には俺が説得しておく、一緒に生活していれば村の皆だって受け入れられるはずだ!」
「いや……いいよ。村に余計な混乱を招くだけだよ……それに一人は気楽だし、リズもたまに遊びに来てくれるしね」
ライトがそう言うとリズは慌てた様子で人差し指を口に当てて「シー、シー!」とやっていて。
そんなリズがライトには可愛くて可笑しかったので、少し笑った。
「じゃあリズそういうことだから、この事の顛末をまたお喋りしに来てよ」
「てんまつ……? あ、うん!」
リズは顛末の意味は分かりかねたが、またおいでという意味は理解できたので笑顔でライトを見送った。