第二話「ゴブリンキング」
ライトは風を頼りにゴブリンキングの住処を見つけた。
「いかにもって感じの洞窟だけど、そんなに深くはなさそうだな……住処というよりは住み着いてるって感じだ」
「キャー! 来ないでー!」
洞窟に入るとひと際大きいゴブリンを筆頭に無数のゴブリン達が蠢き、ライトと同じ年ぐらいの少女に群がっていた。
だが、ゴブリン達は少女から発せられる光に遮られ触れられないでいるようだ。
しかし、その光は徐々に弱まってきている様に見えた。
「あれは、魔法? 結界魔法ってやつか?
んであのデカいのが多分、ゴブリンキングだな」
ライトは標的を確認すると掌を向け、特大の稲妻をゴブリンキングに撃ち込んだ。
するとさっきと同様に側雷撃によって、他のゴブリンにも雷撃が伝播していき三分の二のゴブリンを即死させた。
「ガルルルル!」
が、ゴブリンキングのダメージは片膝をついた程度で、鋭い殺気をライトに叩きつけてきていた。
「やっぱ、デカい分頑丈なのかな」
そう言いながら、ライトは目にも止まらぬ速さで少女とゴブリンキングの間に入り込んだ。
「え? あの……」
「大丈夫? 怪我はしてない?」
「え? あ……はい大丈夫、です……」
少女は突然登場した少年に戸惑い言葉を失った様子だったが、ライトの顔を見ると若干頬を赤く染め、消え入りそうな声で答えると視線を逸らしてしまった。
状況は何も変わっていないが少女からは幾分か安心した空気を感じた。
「ガルゥァァァァァア!!」
その空気を切り裂くようにゴブリンキングは腹に響く咆哮を上げた。
「き、君! 危ないから逃げて!」
その咆哮に少女は焦りを覚えたのか、ライトに避難するように訴えた。
ライトは落ち着いた様子で『バキバキ』っと爪を変化させる、その眼前には優に三メートルはありそうな巨軀のモンスター。
(モンスターと戦うのはこいつらが初めて……
小さいゴブリンは何匹いても何とかなりそうだけど、このデカい奴……
七歳の子供になんとかできるか?)
次の瞬間、悠然と構えていたライトは瞬時に行動を開始した。
(先手必勝!)
体格差から考えても力では圧倒的に不利、そう考えたライトはスピード勝負に出る。緩慢な動きからの速攻で、一瞬の虚を突きゴブリンキングの背後を獲った。が――
「くっ!」
生き残っていた他のゴブリンが人骨をライトの動きのタイミングに合わせ投擲をした。
「グオォォォォオ!!」
更にその攻撃の防御ため空中で一瞬動きが止まったライトに合わせ、ゴブリンキングは半回転し遠心力を乗せた拳打をライトに繰り出した。
「ッ!!」
凄まじい勢いでぶっ飛ばされたライトは轟音をまき散らかし、洞窟の奥の岩肌に派手に叩きつけられた。
「あ……あぁ……そ、そんな……」
恐怖と絶望に彩られた少女の心は結界を張るのも忘れ、無意識に涙が溢れていた。
そんな少女にゴブリン達は嫌らしい笑みを浮かべ舌なめずりをしながら、一歩一歩と近づいていた。
(この子を助けて死ねば、それは満足な死で天寿を全うしことになるのかな……)
「た、助けて……」
少女は誰に言ったものではない、声にならない声を上げる。
それをかき消すように下卑た声で呻きながらゴブリン達が少女に群がってゆく。
「ギャギャギャ!」
ゴブリンが少女に手を伸ばした瞬間、ライトが埋もれている瓦礫が爆ぜた。
そして少女に『ビュッ』と突風が吹きこみ、群がっていたゴブリン達を吹き飛ばした。
びっくりしたのと風で、思わず目を閉じた少女が次に見たものは、左足を切断されたゴブリンキングと右手を血で赤く染め稲妻をスパークさせながら宙に浮くライトだった。
陽の光がライトの透き通るような金髪を照らし、スパークする稲妻と相まって金色に輝いているようだった。
「このロリコンモンスターが!」
ライトは拳打を食らう寸前に回避を諦め、小さい暴風の障壁を作り衝撃を和らげていた。
「グ……グギギギ!」
「悪いな……」
足を切断されたゴブリンキングは地面に這いつくばり、呻き声をあげながら憎しみのこもった目でライトを睥睨していた。
「ガっ……」
それをライトは電光石火の一撃で首を刎ねると、そのまま少女を抱きかかえ出口まで飛んで行く。そして、洞窟に暴風を巻き起こし特大の稲妻を放った。
「ギャー!」
ゴブリン達の断末魔の悲鳴と共に洞窟は崩壊した。
「えーと……初めまして! 僕はこの近くのアークス村出身のライト・レオンハルトといいます」
ライトは少女に向き直ると何を喋ろうか迷い、とりあえず自己紹介する事にした。
「ライト……
あ! 頭、怪我してる……ちょっと動かないでね」
そう言うと少女はライトの頭に手をかざした。
「ヒーリング!」
少女がそう言うと、心地いい光がライトの身体を包み込んだ。
そして頭だけではなく、ライトの全身いたるところにあった痛みが嘘のように引いていった。
(凄い…これが魔法か……)
ライトは魔法は初見ではなく村に住んでいた時に何度も目にしていたが、村人たちが日常的に使う魔法は生活魔法と呼ばれ、せいぜい薪を燃やす火種を作りだす程度だった。
それでも初めて見た時は興奮したが、目の前の少女が使った魔法はまさに奇跡だった。
「ッ! っと!」
魔法を使った少女は気を失ってしまった。
それをライトは咄嗟に支えた。少し焦りを覚えたが寝息のような呼吸音が聞こえると、ほっとした気持ちで少女を村へ送り届けるライトであった。