表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想絵巻  作者: パンドミ
3/31

第一話「ゴブリン襲撃」

 息を殺す。

 殺気を殺す。

 自分の存在を空間に調和させる。


 --ライトがこの世界に生を受けてから七年が経っていた。


 ライトは木の上で身を隠し、鹿によく似た動物に鋭い眼光を向けていた。


 手には狩猟におよそ必要と思われる弓などの武器は一切持っていなく、その代わりに自分の右手に妖力を巡らせると、『バチバチ』っと青白い小さなスパークが迸った。

 そしてタイミングを見計らい、殺気を解き放ち、稲妻を放つ。


 雷鳴を轟かせ放たれたその莫大なエネルギーは、一瞬で空気中に稲妻の通り道を作り、その影響で空気が音速以上の速さで熱せられ爆音を鳴らした。それとほぼ同時に数メートル先の鹿を一瞬で絶命させた。


「ふぅ」


そう言うとライトの体はふわりと宙に浮き、文字通り風にのって、仕留めた鹿まで飛んで行く。


「よっと」


 死にたてほやほやの鹿を肩に担ぎ、近くの沢まで運ぶと慣れた手つきで鹿を近くの木に吊るし、妖気をめぐらせると爪が『バキバキ』っと不快な音を立てながら獣の如き鋭さに変わり、名刀よろしく鹿の頸動脈を切り裂いた。


「前世でもジビエ料理は食べた事あるけどクセがあってちょっと苦手だったけど、この鹿もどき結構うまいんだよなーー」


 最近めっきり独り言が多くなってきたライトは、血抜きが終わった後に内臓を出す為の準備をしようとしていたところに、幼い女の子の悲鳴が聞こえた。


「キャー! ライト助けてー!」

「リズだな……」


 声のした方に行ってみると、赤い髪でショートヘアの女の子が二匹の野犬に牙を向かれていた。


「ライトー!」


 ライトはリズと野犬の間に立ち、ひと睨みすると野犬は目の前の少年と自分の戦闘力を考えたのか、一目散に逃げて行った。


「リズ、一人で森の中に入ってきたらまた村長に叱られるよ?」

「……だって、森に入らないとライトと遊べないじゃん」


 そう言うとリズは少し拗ねたようにして顔を俯かせた。


 ライトとリズは村で唯一の同い年で幼馴染だ。

 昔からよく一緒に行動していてライトが村を出て森に住むようになってからも、ちょくちょく訪ねて来ていた。


「……まあいっか。よし! じゃあ鹿を仕留めたから内臓を出すの手伝ってくれる?」


 ライトがそう言うと、満面の笑みで「うん!」と答え、「しょうがないなーー」などと言っている。




 二人が大方鹿を解体し終わる頃、


『ガシャーン!』


 馬の悲鳴とともに大きな音が森に響いた。


 ライトとリズが音のしたところまで行くと、子供ほどの背丈に緑色の皮膚の醜い顔をしたモンスターと人間の死体が数体転がっていた。


「あれは多分、というか間違いなくゴブリンってやつだな……」


 馬車がゴブリンの襲撃に合い、人間は一人の女性を残し全滅しているようだ。

 高そうなローブを身に着けており、出で立ちは魔術士といった感じだ。


 ライトはおもむろにゴブリン達に掌を突き出し、女性魔術士に迫るゴブリンに稲妻を撃ち込んだ。


 そこから伝播した稲妻は数十体のゴブリン達を一瞬で皆殺しにする。側雷撃と呼ばれる現象だ。


「えっと……大丈夫ですか?」


 ライトが女性魔術士の前に降り立ち、声を掛けるも女性魔術士は、綺麗な顔が台無しになるぐらい口を半開きにしてあっけにとられいたが、すぐに我に返り、


「……! そうだ! ユーリ!」

「もう大丈夫だよ? 悪いモンスター達はライトがみんなやっつけちゃったよ?」

「い、いや攫われた……あれはゴブリンキング……ユーリ!」


 おそらくそのゴブリンキングの攻撃によるものだろう、肩から結構な量の血を流し、アッシュ系の茶色い髪にも血が付着している、それ以外にも全身いたる所を怪我していて薙刀のような武器を杖代わりにして、よろよろと立ち上がりユーリが攫われたであろう方角に歩き出そうとしていた。


「リズ、この山道から村長と怪我の手当てができる人を呼んできてくれないかな?」

「うん! 分かった! まかせといて! ……ライトはどうするの?」

「攫われた人がいるみたいだから様子を見に行ってくる」

「なっ! 無茶だ! 子供がどうこうできる相手じゃないぞ!」

「じゃあどうするの?」

「近くに村があるなら、君もこの少女と一緒に行って助けを呼んで来てくれ!」


 ライトは大人しく従おうか一瞬迷ったが、傷だらけのこの人がユーリとやらを助けられるとは思わないし、考えるのが面倒くさくなり。


「いいよ、僕行ってくるよ。お姉さん怪我してるし、僕村の人に嫌われてるからリズだけの方がすぐ助けが来てくれると思うよ?」

「しかし……」


 女性魔術士は苦々しく負傷した肩を抑えていた。


「危なそうだったらすぐ戻ってくるよ! じゃあそう言うことでリズ、行ってくれ。くれぐれも山道を通るんだよ? 森を突っ切ったらダメだよ?」


 女性魔術士はまだ何か言おうとしたが、それをライトが遮り山道を通ることを念押ししてリズに言うと


「分かった! ライトも気を付けてね!」


 それにライトは笑顔で頷き、ユーリ救出に向かった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ