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午時葵に抱かれて  作者: 雲雀 聖瑠
一章 一節 ブレスブルク王国 王都ベイランズ
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6夜.招待状

千年祭。

勇者と救世主の盟約による婚姻と祝う行事。

勇者の子孫、つまりは私・ミアラレーズ=フランと救世主の子孫・ユールラテス=ヘブンリースは、主賓として祭りに参加しなければならない。

各国を回ることはもちろん、その地で行われるパレードやパーティにも参加する。

アリシア王女の予定も見たが、鬼のようなスケジュールだった。

千年祭は、同時に魔王を倒し平和を取り戻したことへのお祝いでもある。

来年の夏に始まり、冬に終わる。およそ半年も続くお祭りなのだ。

はっきり言って長いだろう。

何も私たちが各国回っている間もお祭りしなくては良いのではとも思う。

千年祭まで一年と二か月。

まさかの主役交代という事態に関係各所は大慌てということにはならなかった。


変更点といえば、せいぜい私の正装を作らなければならないのと式典での演説、そしてその他の微調整。


ほとんどのことにアリシア王女が手をまわしていた。

まず、各国の予算で作られた式典用のドレス。全部私のサイズで作るように根回し済み。試着してびっくり。あの人に完全にしてやられた感が否めないくらいのぴったりサイズ。

演説も元々決めているのは各国重鎮。そこもアリシア王女の息がかかっていたのだ。

この先あの人を相手取るとなると気が重い。


あれだけの大騒動を起こして混乱を最小限にとどめている。

アリシア王女も間違いなく王としての器があるのだ。

ただレオニクス様と組むと残念になるだけで。

彼も彼で単独でなら頼れる人物なのだ。

先日も謝罪の手紙と慰謝料と今後の領地運営においてこちらに有利な条約を結ぶことを約束してくれた。


なんやかんやと親戚だったこともあって私のことわかってるんだな。


父も丸く収まりつつあることに安どしている。

母と妹はこの際ほっといた方が早く立ち直る。常に私の幸せを願っている人たちだ。


「お姉様、それで殿下はどのような方でしたの?」


私は千年祭までの半年間、『テランリース』の地にてユール様とともに領地を治めることとなった。

半年では大したことはできないだろうが、事前調査ということになる。

下手に事を荒立てないためにも王都にはなるべくいない方がいいだろうという判断もある。


それに向けた荷物整理を行う中、手伝ってくれていたイザベルにそう尋ねられた。


「どんな方……変わった方よ」


「とても不敬ですね」


「だって他に適切な言い方が思いつかないんだもの。イザベルはユール様と会ったことはあるかしら?」


「いいえ。入国の際に遠目から見た程度です。歩く美術品かと思いました」


「あなたもだいぶ不敬よ。せめて美男といいなさいな」


「いいえ、あれは美男という分類の者ではありませんよ。なんですかあの顔の構造。殿下が本当に美術品なら国宝の価値が付きます!」


「納得だわ。シェヘラニーヌ大神殿の最奥の像とかが佇んでそうよね」


「ですです。整いすぎて作り物めいてます。

それで、性格の方はどうだったのです? 何かおありでしょう。優しいとか怒りっぽいだとか」


「そうね……。話してみた感じだと感情の起伏が乏しいように感じたわ。肝が据わってるのね。

あとは良くも悪くも箱入りのお坊ちゃまね。女性をエスコートしたこともないみたい」


「それは仕方がありませんよ、お姉様。救世主の子孫は、かの国にとっては至宝も同然です。猫かわいがりなんて生易しいと聞きます」


「そうね。常識の欠如は見られたけど悪い方ではないわ。学園でもわがままを言っているのなんて聞いたことがないし……むしろ問題は」


あのウィズワードのほうだ。

卒業したならとっとと帰国すればいいのに、未だ王都で遊び惚けている。それに加え、ヘブンリースから恋人の男爵令嬢もやってきて我が物顔で歩いているのだから質が悪い。

ユール様がこの国に残るのは事前に決められていたことだから問題ない。だが奴は違う。式典を手伝う訳でもないのだから早急に帰国してほしいというのは上層部の総意だ。

ヘブンリースからは強制帰国の通知が来ているのだが、身分を立てに居座っている。

対応策について本国に連絡を入れても航路の関係で返事が来るのは一月後だろう。

むしろあっちの方が箱入りな気がする。

ユール様は常識を知らないだけで学ぶ気はある。エスコートも次は満足のいくものをして見せると言ってくれた。あれはだいぶ酔っている。スピリトゥスなんたらをボトル二本も飲んだのだからあたり前か。

フランは代々酒にも強いので私も酔わない方だが、匂いだけでもあれはそうとうなものだった。

あの人の胃袋は鉄でできているんだろう。


「ミアラレーズお嬢様、よろしいでしょうか」


大体の荷物まとめが終わったところでリリィが呼びにきた。どうやらお母さまが呼んでいるらしい。イザベルに「またあとで」といい、お母さまの部屋へ向かう。

私の母・ジョセフィーヌは、金色の髪が輝く美女だ。フラン公爵夫人にふさわしく情報網に長け、王妃様に劣らぬほどに社交界を掌握している。

ただ身内に対する溺愛っぷりが難点で、少々涙もろい。ともあれ人前ではそのような顔などみじんも見せないのだから流石歴戦の猛者。

イザベルはお母さまににて将来は絶世の美女となるだろう。

ちなみに私はお父さま似。見た目然り性格然り。


お母さまの部屋の前で三回ノックする。すると「どうぞ」と入室の許可が下りる。


「失礼いたします。お母さま、お体の具合はいかがですか」


「ミア。えぇ、もう大丈夫よ。大変な時に私がいつまでも泣いているわけにもいかないもの」


婚約破棄騒動の一件で、お母さまはあの後体調を崩されてしまった。気丈に振舞っているがまだ本調子ではないはず。


「ともあれグランの王女中毒にはしてやられたわ。公衆の面前でというのは愚策この上ないというのに後始末は完璧だったわ。王女殿下の入れ知恵ね」


お母さまと向かいの席に座り、リリィが用意してくれた紅茶を飲む。


「せめてユールラテス殿下が愚鈍でないことを祈るばかりだわ」


そういうとお母さまはいくつかの招待状を取り出した。まだ社交界シーズンには早い気がするが。

ヘブンリース皇室とコネクションのできたフラン家に媚びを売っておきたいというものだろう。

味方派閥はいつものごますり。敵対派閥は媚び売り。宰相の家柄で遠からず近からず王家の血を引き、最近他国皇家の血も混ざる。

極上の餌か何かかなこの家は。


「情勢が変わる以上、新たなコネクション作りも必要よ。特に千年祭期間中はこの国にいない事の方が多いんだから」


「そうですね。殿下がティスターとのコネクションをお持ちのようですので、彼との連携も重要です」


「あの『クレイン・スター』に行ったんでしょう? どう? 美味しかった?」


「それはもう、極上の味わいでしたよ」


ぶっちゃけ、殿下の奇行のせいで半分以上覚えてないけど、今まで食べた中で一番おいしかったのは確かだ。

ただ私は料理に関してはあまり関心がない。シェフが作った時間のかかる料理よりも仕事の合間に手っ取り早く食べられるものの方が好き。


「ふふ、私もイザベルが結婚するまでには旦那様と言ってみたいわ。そうね、殿下との関係も考慮するなら、ヘブンリースと交流の深いところがいいわね」


「とすると、グリール侯爵家などどうでしょう?」


グリール侯爵夫人はヘブンリースから嫁いできた方だ。

派閥としては中立派なので、派閥問題の優先順位を下げて殿下と親交を深められると思う。


「流石、目の付け所がいいわ。他にはどこがいいかしらね」


敵対派閥の家を除いても結構な数の招待状が残るが、ヘブンリースと交流があるのを踏まえると数はぐっと少なくなる。

まだ航路の開発がうまくいっていないせいだ。


「あら、知らないものだわ」


お母さまが示したのは一通の招待状。薄く花柄で縁取られた便せんに印鑑は蝶の紋章。


「『タルバ』……。家名がないわね」


差出人の名には「タルバ」と書かれていた。

ただし家名が書かれていない。


「変ね……。どこかで聞いた気がするんだけど」


同感。私もどこかで聞いた。でもどこだったかはっきりしない。

紫の蝶……。紫? うーん…………あ!


「レディ・ラストゥスですよ!」


「! それだわ!」


レディ・ラストゥス。流行に敏感なウラン公爵夫人が今年重宝しているデザイナーだ。その本名がタルバ。国籍は他国の平民らしく、家名がないのもそのせいだ。

デザインの幅は貴族向けから平民向けまで幅広く取りそろえ、服だけでなく建物のデザインまで引き受けている。店の紋章に紫色の蝶が使われていたはずだ。

でもうちは彼女の店のものを購入したことはあっても、彼女個人と面識はない。

それなのになぜうちに?


「内容は事業成功のお祝いね。身分的にはあれだけども、悪くない相手だわ」


「私も彼女には会ってみたいですわ」


「ちょうどいいわ。フラン家へというよりあなた個人宛のようだしね。

ともあれ、時間を考えるとこの二つが限界かしら?」


「十分ですわ。殿下にもお伺いしてきます」


こうして、久しぶりのパーティー巡りが開始する。とはいえ二つだけなんだけども。

ユール殿下にエスコートをお願いしたところ、意外にも二つ返事で了承された。


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