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午時葵に抱かれて  作者: 雲雀 聖瑠
一章 一節 ブレスブルク王国 王都ベイランズ
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4夜.初デート

翌日、私は泣いて、泣いて、泣き続ける妹と母を父とともになだめすかせるのに労を費やした。

母と妹が感情をむき出しにするので調停役に回らなければならなかった父も内心は腸が煮えくり返る思いだろう。

元々グラン公爵側からの申し出で結ばれた婚約を向こう側からさらし者に等しい状態で破棄してきたのだ。

いくら向こうのほうが歴史が古かろうと身分は同じ公爵。父は示談金と慰謝料をたんまりもぎ取る算段でいる。


そして私の元へ一通の招待状が届いた。

送り主は私の新たな婚約者となるユールラテス・ヘブンリース。


『ミアラレーズ=フラン様。

前略。

 まずは、我が甥、ウィズワードの軽率な行動により場の混乱を招いたことをお詫び申し上げる。

ヘブンリース皇国の見解として、ブレスブルク王国に形式上の抗議は行うが、慰謝料以外の何かを要求することはないことを伝えておく。

貴殿ならすでに存じているかと思うが、王女殿下と公爵子息の婚姻は内定が決まった。

 ひいては新たに貴殿との婚約にあたって内密にご相談願いたい。

 次の満月の夜、『クレイン・スター』にて待つ。護衛は貴殿の好きなように。

別件の用事があるならば、この手紙は焼却するように。


ユーフラテス=ヘブンリース』


固いな。なんかこう氷みたい。内容もそうだが字も一糸乱れなさ過ぎて恐怖すら感じる。

手紙には『クレイン・スター』の招待状が同封されていた。

これをみて私は目を疑った。だってあの、『クレイン・スター』の予約券。しかもVIPフロアなのだ。

世界最大のギルドにして商会「ティスター」の会長・セインの長女クレノが運営する高級料理店なのだから。

下級の貴族はまず料理の代金すら払えないのが当たり前。それでも予約で常に二年は埋まっている状態。

王族ですら狙った日に予約を取るのが難しい。ティスター商会は権力に媚びることはしないからだ。

社交界では予約がとれただけでも自慢の種になるくらいだ。

彼はどうやって予約を取ったのだろうか。

ヘブンリースの王族がブレスブルクへ留学に来たのが二年前。その時にはすでにアリシア王女との婚約は決まっていた。

まさか卒業式を狙って予約したのだろうか。アリシア王女のために。


私は胸が痛むよりも感心に似た何かを覚えた。

人付き合いが苦手そうなイメージだったけれど意外と女性を喜ばせることができるのだなと。


次の満月の夜は7日後。

準備をするには充分な時間だろう。


父にこのことを報告し、イザベルにも伝えると彼女は目を丸くしていた。


「えぇ―――!!! あの『クレイン・スター』ですか!? 絶対に予約取れないってことで有名なのに!? ユールラテス殿下はどうやって予約とったんですか!?」


「うーん、こっちに来てすぐに……とか?」


「お姉様! あのお店は未成年は予約取れないんですよ! いったいどんなコネクションをお持ちやら! 王女中毒よりずっと価値があるお方かもしれませんよ! 捨てる神あらば拾う神ありですわね!」


「そうね。さすが目の付け所がいいわ! この調子で技術を磨いて目指せ女性初の宰相!」


「はい! お任せあれ! お姉様を傷つけたあの二人を馬車馬のように働かせられるようになって魅せますわ!」


私の妹が世界一可愛くて賢い!

何やら侍女のリリィが白い目で見てくるが知ったことではない。

可愛いは正義なのだから!



―――――――――――――

約束の日。

私は質素で落ち着いたドレスと小さな宝石のついたネックレスを一つ身につけた。

母は地味じゃない? と首をかしげたが、相手がヘブンリース人ならこれでいいのだ。

絢爛豪華な装飾を好む我が国と違い、向こうの国は質素で細やかな美にこだわる。

宗教上の違い故からか、それとも土地柄なのか。


護衛としてリリィを同行させ、私たちは王都で最も敷地の高い地域へ足を踏み入れた。

『クレイン・スター』の外観は想像していたよりもずっと質素なものだった。

だが、その前には長蛇の列。服装から見て貴族からの使者が代理で予約を取りに来たのだろう。


「どこから入れば……」


予約の列に並ぶのだろうか。いや、それだと絶対日が暮れてしまうだろう。

というかユールラテス殿下にエスコートしてもらえばよかった。

リリィも勝手がわからずおろおろしている。


「ど、堂々としていればいいのよ」


こんなところでうろたえていて何が独立だ。

そう思いたち、私は正面から乗り込んだ。


「申し訳ありません。ご予約は順番を守ってくださいますか」


「本日、予約を入れたものです」


そういって受付の者に招待状を渡すと、彼はすぐさま頭を下げた。


「失礼いたしました。オーナーをお呼びいたしますので少々お待ちください」


え? オーナー? なんで?

普通に席に通してくれればいいのに。

周囲の目も痛い。「なんでお前みたいな小娘が」って目してるよ。


「ようこそ『クレイン・スター』へ。メサイアはすでにお待ちですよ」


現れたのは『クレイン・スター』のオーナーにしてシェフ・クレノ。思わぬ人物の登場に私は淑女らしくなく開いた口がふさがらない。

彼女は女性にしては背が高い。シェフの服装をしていてもそのスタイルの良さがわかるくらいに出るところは出ている。

そしてちょっと筋肉質な体型。ティスペタ人の特徴だわ。

だが、彼女は肌が白く、髪は赤かった。これはブレスブルク人の特徴だ。

ということはハーフだろうか。

この国で赤毛は王家によくある特徴の一つだ。だが、アリシア王女の深紅と違い、彼女は黒髪に一部を赤く染めただけのようだ。

瞳の色は紫。

人の瞳孔の色は遺伝よりも当人の魔力濃度によって変色する。虹彩の色は遺伝によるが、魔力濃度が高すぎると瞳孔と同じ色彩を持つ。

上から順に紫、青、赤、黄、白、黒で、それぞれ濃薄の二段階に分かれる計12種の色だ。彼女のそれは、上から二つ目の薄紫に該当する。国お抱えの魔法使いになれるレベルの魔力濃度ということだ。

ティスターの会長の子息子女は全員紫目という噂は本当だったのか。


ちなみに私は薄い赤。光の加減で桃色にも見える。


赤より上位の瞳はそうそういるものではない。



彼女に案内され、一番奥の部屋へ通される。

そこには彼女の言った通りユールラテス殿下がすでにいた。


「こんばんは。ミアラレーズ=フラン殿」


「本日はお招き下さりありがとうございます。ユールラテス殿下」


部屋は派手な装飾はないが、色合いのセンスは高貴な印象を受ける。本当に最高級の部屋なのだろう。

部屋の中央にテーブルが置かれ、彼と向かい会うように座る。

壁際にリリィは控えた。


目の前にいるユールラテス殿下の表情はいつもながら人形や彫刻を思わせる。

ヘブンリース皇家特有の青い髪は、肩まで伸ばし後ろで軽くひとまとめ。釣り目でもたれ目でもない瞳はなにかを映しているようで何も映していない。

色は最上位の紫だ。アメジストが霞むその瞳を持つのは世界で彼一人。その色合いは世界で最も美しい色の一つに挙げられる。

一つ一つのパーツをとっても美しく、それがバランスよく配置されたご尊顔は美を超越しすぎていた。

本人が人付き合いを好まないのも相まみえて、彼に恋慕する女性は少なかったと記憶している。

ようはきれいすぎて近寄りがたいというやつだ。

男性のドレスコードでなければ女性にだって見えるだろう。





瞳の色別ランク順


上位紫……最上位の魔力濃度を示す色。世界で救世主の血族だけが有する。

下位紫……薄紫色。上位の魔人に多く、人族には滅多にない。

上位青……普通の人間が持てる最高位の色とされる。百年に一人の天才魔術師レベル。

下位青……水色。全属性の魔術を行使できる素質がある。

上位赤……魔術に特出した才能のある貴族に多い色。

下位赤……橙色や桃色。魔術師になる上で職には困らないレベル。

上位黄……濃い黄色。見方によっては黄金。下級魔術師レベル。

下位黄……黄緑やレモン色。人における平均的な色。

上位白……純白。学園の魔法科に入学するうえでの最低基準。

下位白……灰色。下級魔術は使えるが、中級魔術は使えない。

上位黒……純黒。下級魔術をかろうじて使える。

下位黒……焦げ茶色。魔術を使えない人間に多い。


基準として

黒~白⇒一般人。黄~赤⇒貴族や魔術師。青⇒天才。紫⇒規格外。

という認識でいれば大丈夫です。

これまで登場した人物の色は、

ミアラレーズ:下位赤

ユールラテス:上位紫

レオニクス:下位赤

アリシア:上位赤

ウィズワード:下位青



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