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午時葵に抱かれて  作者: 雲雀 聖瑠
一章 一節 ブレスブルク王国 王都ベイランズ
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3夜.私にとっての親孝行

フラン公爵邸。といっても本邸は王都近くのフラン領にある。ここは王宮で働く父と学園に入学したばかりの妹、そして私が住んでいる。母はフラン領にて父に代わり領地運営を任され、普段は本邸の方に暮らしているが私の卒業式ということもあり一時的にこちらへ来ていた。

代々宰相を担ってきた家柄で、仕事人間が多いためか他の公爵家と比べると内装は質素なものが多い。とはいえ他の家にも劣らぬくらいの豪邸であることは確かだ。過敏な装飾がない分、落ち着ける空間を私は気に入っている。


父とともに家に入ると、真っ先に妹が出迎えてきた。


「お姉様!」


当主の父を無視して私に駆け寄ってくる。淑女らしからぬ行為だが今回ばかりは私も父も多めにみた。

まだまだ幼い顔。瞳には薄っすらと膜が張り、頬は林檎のように真っ赤だ。


「ふふ、ただいま。イザベル」


「おかえりなさい……ではなく! 聞きましてよお姉様! あの王女中毒がとうとうやらかしたと」


「はいはい。その話はお母さまも交えて話し合うから。今日はもう遅いから寝ましょう」


ね? と優しく言い聞かせればイザベルは頷き、みっともない姿を見せたことをわびた。

私のためにあんなにも感情をむき出しにしてくれていると思うと胸が温かくなる。

侍女に付き添われて部屋に戻るイザベルと見送ると何も言わずに見守っていた父と向き合った。


「イザベルには明日話すとは言ったが、私とお前だけで一度話し合うぞ」


「はい。お父様」


父の執務室に行き、侍女に飲み物を頼んだ。

向き合った父は今回のことでだいぶ疲れてしまったようだ。


「グランの若造め……王女のこととになると馬鹿だ馬鹿だとは思っていたがよもやこれほどとは」


「まあまあお父様。リリィの入れてくれた紅茶でもいかが?」


「何故お前はそうも落ち着いているのだ……。ユールラテス殿下と婚約を結んだとはいえ、一度あんな観衆の前で婚約破棄などという恥以外の何物でもないものをかかされたというのに」


「あら、そのおかげでフランはグランと王家に貸しができたのでしょう?」


さらりと言ってのけた私に父は愕然とした様子だった。

もちろん父の言わんとしていることはわかっている。

婚約破棄は通常内々に行うものだ。婚約自体が家同士の利害関係による政略的なもの。あのように大々的に行うべきものではない。

一方的に婚約を破棄された私は社交界では傷物のレッテルが貼られることだろう。

それに加え、他国の王族と婚約をしたとなればまごうことなき注目の的だ。


「お父様だってグラン公爵家との婚姻には反対だっただから良いではありませんか」


「何故、そうだと?」


「レオニクス様の歴代の婚約者たちを見れば、手塩にかけた傑作を手放したくないと私ならそう考えるからです。

それに近親婚で勇者の血を保とうとする国の制度にかねてより我が家は反対派ですから」


古の勇者と聖女の血を保つために王家と公爵家はと時折近親婚を重ねながら其の血を保ってきた。

だが、近年医学の進歩によって近親婚はし過ぎると生まれてくる子供が弱くなってしまうということが発見されている。

王家と公爵家の半分はそれを真っ向から否定。

私たちフラン家をはじめとする半数の公爵家や分家の侯爵家がそのことを肯定し、改革に向けているところだ。


そんな状況でなぜフラン家とグラン家が婚約したのかというと。まあ言わずとも理由はお察しの通り、よもや恋愛中毒となっているレオニクス様とアリシア殿下のことだ。

改革とこれからの政務を慎重に天秤にかけ、我が家がだいぶ有利な条件でグラン家と婚約する運びとなった。

グラン公爵も頭皮が薄くなるくらいの苦労をしていたというのに。親の心子知らずとはこのことだ。


なにより現在公爵家の中で未婚の女性がいるのは我がフラン家のみなのだ。他の家は男児か既婚かのいずれかでグラン公爵も我が家に頭を下げるほかなかった。

そこで私に白羽の矢が立った。というか私が立たせた。だって私の可愛いイザベルを不幸にしたくはなかった。誰があんな野郎にくれてやるものか。おっと失敬つい口調が。


「ともあれユールラテス殿下と再度交渉をし、婚約を結ぶ。殿下が提示した条件は我々にも利点があるからな」


「そうそうその意気ですわお父様」


「しかし、お前はそれでいいのか?」


「…………」


「もし、お前が嫌だというなら私は」


私は震える父の拳をそっと握った。心配しなくても大丈夫です。この婚約はあちらもこちらも打算によるもの。それにどことなく私と彼は野心家という面で同類なのだから。

独立国家を作る上で彼との婚約は必ず私にとって莫大な利益をもたらす。


「心配しないで。私ももう18です。自分の幸せくらい自分でつかみ取ってみせますわ」


そういってほほ笑むと父はもう何も言うまいと私の手を強く握り返した。


「やるなら思いっきりやってこい。そして私を超えて見せろ」


「はい!」


いつか、あなたが自慢できるような娘になり、ぎゃふんと言わせて見せる。それがフラン流の親孝行なのです。

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