パラレルワールド?
……………………………
音が聞こえる?
ガーン、ガーンって、響くような音。
瞼から光を感じる?
どこか明るい所にいるような…
陽の当たる所?
朝なのかな?
「う…ぅ…」
目を開けようとしているんだけど、瞼が重くて全然開かない……というか、眩しいんだ。薄目にすると光の衝撃を感じる。
「おはよう。」
声がした…誰か居るの?
ここは?…家の中なの?
僕…どうしたんだっけ?
意識が誰かの声に反応すると、瞼がだんだん軽くなってきた。光の衝撃も気にならず、少しずつ周りの様子が明らかになっていく。
「あれ?」
ここは…お母さんの部屋だ。でも、何かいつもと雰囲気が違う。
…そうか、綺麗に片付いているんだ。
片付いている?
以前は、そうだったような…
何だか…よく分からないけど、お母さんのベッドに寝かせてもらえているみたい。ということは、目の前にいる女性はお母さん?
変だな…お母さんの顔がぼんやりとしていて、よく分からない。
「痛たた…」
少し動いただけなのに、体のあちこちが痛くてびっくりした。きっと、昨夜もあの人に酷い暴行を受けて気絶したんだろう。記憶が曖昧なのは、そのせいに違いない。
「今日は、学校に行くの?」
学校?!
「か、体が痛いから。」
「そうね……痛そうね。」
学校には確か、1週間か随分行ってない…と思ったけど。お母さんから学校の話があるとは思わなかったな。そもそも、僕に関心があったなんて…
「お腹空いたでしょ?お味噌汁と玉子焼き作ったから、食べたら?」
「作ったの?…朝ご飯?」
「そうよ、変な子。持ってきてあげる。」
変なのはお母さんだよ…もう何年もご飯作ってないじゃないか!
やっぱり、この世界はおかしい。
家なのに、家じゃない!
パラレルワールド?
「召し上がれ。」
お母さんじゃないかもしれないけど、目の前には白米とお味噌汁と玉子焼きがあって、それを見たら何も考えられなくなってしまった。
「痛!」
ダメだ…体を動かすと激痛がする。
「ごめんなさい。体が痛くて、起き上がれないんです。」
「そう…でも、体力をつけないと乗り越えられないわ。これなら、どうかしら?」
乗り越える?…何を?
「…わあ!」
あれ?起きれた…でも、腰から下の感覚が全くないし、腕は痺れて動かせない。
「少しずつ、運ぶわね?ゆっくりでいいから…食べましょう。」
「あ、ありがとうございます。」
お母さんのような人?…ぼんやりとした顔の表情から、穏やかな優しさを感じる。
「いただき…ます。」
僕を支える手が、優しくて温かくて…
お母さんかどうかというよりも、人の温もりが嬉しくて…
忘れていた…人って、温かいんだな。
涙のせいか、何もかもがしょっぱい味だったけど、この幸せな時間がもっと続きますように…
………………………………………………
「ご馳走さまでした。」
口の中も痛くて、あまり食べられなかった。
「お母さん、ありがとう。」
「どういたしまして。」
否定しなかった?お母さんで…いいの?
ぼんやりとした顔の表情が、何となく笑顔だったような…
でも、何でこんなにもぼんやりとしているんだろう。
ドクンッ─
あれ?
急に…眠くなってきた…
体が揺れて…いる?
ドクンッドクンッ───ドクンッ─ドクンッ──
「ダメよ!!」
…え?
「寝てはダメよ!」
「え?」
「まだよ!あの御方と話をするまでは、眠ってはいけないの!」
あの御方?誰かいるの?
お母さんが向かった先には、確かに誰かがいるように見える。背が高くて黒っぽい人影が、段々お母さんと近づいて来るのが分かる。
まさか……
「お、お父さん…?」
ああ… また殴られる… 嫌だ!
逃げたいけど体が動かない…
「ごめんなさい… ごめんなさい… ごめんなさい… 」
来ないで………
「君は何故、謝っているんだい?」