表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

僕のこと



「賢斗、お母さん…会社に戻るわ。また明日、来るね。」



「うん。お母さん、行ってらっしゃい!」



「行ってきます!」





……………………………………





「ふぅ……」



お母さんを見送った後、張り詰めていた緊張感が一気に解けたように…体が緩むのを感じる。


この短時間に、色んなことがあったから……



「疲れたな……」



直ぐに病室に戻る気になれず、廊下の突き当たりにある小さな窓辺に車椅子を止めてもらうと、少しだけ一人になれる時間をもらった。


外の景色をぼんやり眺めて、雲がゆっくりと流れていく様子を見ていると、色々…思い出してくる。



家で起きたこと…

学校で…起きたこと……



僕にとって、学校での記憶も…辛いことばかりだった。


3年生までは、時々、話しかけてくれるクラスメイトがいたり、担任の先生も…僕のことを心配して、家庭訪問をしてくれたから、それ程…酷い環境ではなかった。


4年生でクラス替えがあると、話しかけてくれた人達が全員、他のクラスに行ってしまって…担任は、初めてクラスの担当になったという、まだ若い男の人が…先生になった。


最初の頃は、普通に話してくれる人もいたけど…徐々にそれがなくなって、話しかけても返事が来なくなって…


次第に、バイ菌扱いされるようになった。



「理由は、今なら分かるかな…」



みんなの会話に…ついていけなかった。


ゲームや映画、遊園地…みんなには、普通に買ってもらえたり、連れて行ってもらえることが、僕にはなかったこと。



そして、僕の外見にも…問題があった。


いつも…薄汚れたシミだらけの服と、踵を潰して穴の空いた泥だらけの靴で登校していたことが…不潔に見えたのだろう。


どんなに頑張って明るく話しかけても…

一度でも、人に与えた嫌悪感を変えることは、とても難しい。


突然、誰かが僕を無視するようになったら、その連鎖がクラス中に広まって、いつの間にか僕の席が、一番後ろのゴミ箱の隣にされて…


その事を先生に相談したら…



《仕方がないんじゃないかな?…そんなことよりも、給食費払ってないの君だけなんだけど? お母さんに言ってくれないかな?》



僕は…何も言えなかった。


でも先生は、僕の姿を上から下に…じっくりと見て、言ったんだ。



《あぁ…そうか!ごめん、ごめん。それのお陰で君は…生き長らえて、いたんだったね?》



先生の言葉に耳を疑った…


でも…先生は、いつも悪気のない笑顔で話すから、僕の方が悪いことをしているんだと…


そう思うことしか…できなかった。


ある朝、登校してすぐに上履きがなくなっていることに気がついて、裸足で教室に入ると…いつものように僕に対する冷たい視線の他に、嘲笑しながらひそひそ話をする人がいて…


一番後ろの席に向かう途中、ずっと視線を感じていた。


席まで辿り着いた時に、隣のゴミ箱から見覚えのある物が見えて…妙に納得したんだ。


そこには「ゴミ」「死ね!」と、左右に大きな字で書かれた、上履きがあったから…


僕は…ゴミなんだ……


上履きを取り出して履くと、その様子を見ていた人達から、笑い声が聞こえてくる。


他人の不幸は…見ている側からすれば、滑稽で楽しくて仕方がないのだろう。


もう…どうでもよくなっていた。


僕は、その場に黙って立っているしか…できずにいた。

一人のクラスメイトが、僕に近づいて来るまでは…



《これっ!みんなからのメッセージだから!》



手渡されたメモ用紙には、「死んでくれ!」と一言書かれていた。


僕の机を蹴り飛ばされ…倒れた机の中から、無数の虫の死骸が散乱して……


初めて、逃げなきゃって…思った。


殺気を感じたんだ…


僕は人間ではなく、害虫でゴミ同然で…生きる資格が無いんだって…


無我夢中で学校を飛び出して、走って、走って…

その先に偶然、図書館を見つけて逃げ込んだ。


そこには、学校の図書室には無いような…様々なおもしろい本が沢山あって、時間と嫌なことを忘れることができた。


それ以来、学校には行っていない。


怪しまれないように、午後から図書館で本を読んで過ごすことが、唯一の楽しみになっていた。


でも、その楽しい一時(ひととき)も束の間だった。学校に行っていないことが、お父さんに知られたから…


きっと…急に学校に行かなくなったから、学校から連絡があったのだろう。


でも…その時、お父さんに…学校に行かなくてもいいと言われたんだ…



《お前…どうせ、虐められてんだろ?…行かなくていいよ…そんなもん。》



珍しく…優しい言葉だった。



「でも……それが…」



…本当の地獄の始まりだった。



学校はおろか、外出できないくらいに…毎晩、顔を殴られるようになったからだ。


学校に行っていた時は、痣が見つけられないように、背中や太腿を殴られていたけど…


本当は…顔を殴りたかったらしい。


あんなに瞼が腫れてしまっては…本は読めない。

図書館に行くことを諦めて、監禁されているような日々を過ごした。


あれから、一ヶ月くらい経つだろうか…

生死について…真剣に考えるようになったのも、この頃からだった。



人はなぜ生まれ、なぜ死ぬのだろう。

何のために生きて…

生きて行かなければ、いけないのだろう。

こんなに…辛い思いをしてまで…



誰に言うともなく、自分に対して問いかける。


答えは当然、返ってこない。

だから、自分自身に答えを出す。



この世界に、僕は…いらないと思います。



僕がいなくても誰も困らない。

寧ろ、喜ばれるかもしれない。

面倒な人間みたいなモノが、いなくなるんだから…


生まれてこなければ良かった。


なら、戻ればいいだけのこと…

どうせ還るなら、誕生日にしよう。


誰も祝ってくれない誕生日に、お気に入りの大切なTシャツを着て…



…そうしよう。



そうして僕は、覚悟を決めたんだ…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ