光の行方
……………………………………………
「…はっ」
僕…眠っていたの?
昨日、目覚めてからずっと…こんな感じだ。
いつの間にか寝てしまって…起きて…を繰り返している。
今もまだ…周りがぼんやりしていて、半分夢を見ているような……
眠い……
『起きなさい。』
……声が聞こえる?
『賢斗、起きなさい。』
「……あ」
鋭い眼の……
『立ちなさい。』
「え?!」
立ちなさいって………言った?
『早く、立ちなさい。』
言ってる……
しかも、無表情で怖い…
「む、無理です。まだ…立ち上がることもできないんです。」
────── フワッ ──────
風だ…
いつものように風が吹くと、体が軽くなったような気分になった。
…今なら、立てそうな気がする。
少しずつ、順番に動かしてみよう。
まず、上体を起こして…
『早くしなさい!時間が無い!』
「わっ……」
立てた…?
『君を待っている人がいる。そこに行きなさい。』
「待っているって…どこに?…どうやって?」
『部屋を出れば分かる。行きなさい。』
言われるがままに歩き出すと、部屋のドアが勝手にスライドして開いた。
不思議な感覚…
頭の中は、まだぼんやりしている。
体は、宙に浮いているように軽い。
それにしても…暗いな…
窓の外側が曇り空のように白く見えるから、夜ではないのは分かる。
記憶が確かなら、午後の3時にお母さんが来るって、あの…看護師が言ってた。
ということは…まだ、お母さんが来ていないから、3時前ということ…?
昼間のはずなのに…別世界に居るみたいに薄暗くて、誰も存在していないみたいに…とても静かだ。
部屋の外はどうだろう…
やっぱり…部屋と同じように、左右を見渡しても誰も居ないし、とても暗い。
「あっ…」
廊下の奥から、小さい光が見える。
「あ、あの……僕、あなたのことを何て呼んだらいいですか?……お名前…は?」
きっと、こっちの方なんだろう…と、その人に聞こうとしたはずが…なぜか的外れなことを言ってしまった。
『……………。』
反応がない…まぁそうだよね…
「ごめんなさい…こっちの、光のある方ですよね?」
『…名は無い。好きなように呼べばいい。行きなさい。』
好きなようにって…
「じゃぁ…おじさん。」
──────── シャッ ──
「わっ!」
その人の指先から、ブーメランの形をした何かを見た瞬間に、頭の中が真っ白になった。
「はあ……はあ…」
目の前に…光がある。
今の一瞬で、ここまで飛ばされたみたい。
荒っぽいな…
もしかして、おじさんって呼ばれるの…嫌だったのかな?
「あ…あの、あなたに相応しい名前を思いつくまで、それまで…おじさん、で…すみません。」
遠くから、おじさんの…ため息が聞こえたように見えた。
『…早く行きなさい!』
「はいっ…行ってきます!」
……………………………
今の…感じ…
ちょっと、楽しいと思ってしまった。
そういえば、以前にも…楽しいと思えたことがあった…ような…
いつだったか…よく思い出せないけど……
確か……その時の僕は……
「…笑っている?」
お母さんと…あの、お父さんが……
僕と一緒に…笑っている?
いつの記憶…だろう…
「痛……」
ダメだ…
思い出そうとすると…頭が痛くなる。
痛い……
── ホワッ……
「あっ…」
光が……頭の上で、ゆらゆらと動いている…
とても温かい…光。
不思議…痛みが無くなった?
そうだ…
僕を待っている人が居るって、おじさんが言ってた。
「行かなきゃ…」
……………… ◇ ………………… ◇ ……………
光に誘われて辿り着いた先に、小さいエレベーターが見えた。
「これに乗れば…いいのかな?」
まるで『そうだよ。』って、言っているみたいに、上下にゆらゆらと動いている。
「…分かったよ。」
エレベーターの前に立つと、僕を待っていたかのように自然に扉が開いた。
中の電気が点いていない…
やだな…
とても暗いし、大人4人分?くらいの広さしかないみたいだ。
「う……ん。」
どうしよう…あまり、乗り気がしない…
でも…エレベーターは、僕が乗るのを待っているように、停まっているし…
── ホワッ……
光が…エレベーターの中に入ってくれた…
僕の気持ちを察して、明るくしてくれたの?
「…ありがとう。ごめんね。」
エレベーターに乗ると、まるでセンサーでも付いているかのようなタイミングで、扉が閉まって動き出した。
階数を見ると、2階から地下1階までの専用エレベーターらしい。
「行先は…?」
B1のボタンが点灯した…
地下に何があって、誰が僕を待っているのだろう。
体が震える…
怖いという感情と、不安と緊張がごちゃ混ぜになって…全身が震える。
「………着いた。」
── ドクンッ…ドクンッ…
心臓の音と同じような速さで、少しずつ…扉が開いていく…
扉の隙間から、黒い霧が入ってくるのが見えた。
── ドクンッ…ドクンッ…
黒い霧が…足に纏わりついて…動けない。
どうしよう…
── ドクンッ…
扉が完全に開くと、頭上の光が…何かに吸い寄せられるように、その先へと動き出している。
「…待って!」
あ……足が動いた。
今の衝動で、エレベーターから降りられた…
「あっ…!」
そういうことね……
光が、吸い寄せられた場所を見て、この…ただならない黒い霧や、止まらない震えの原因が分かった気がした。
ゆらゆらと漂う光の先に、見えた部屋の名前…
「霊安室…」




