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ブラックミスト  作者: 蘭夢
13/13

禁忌


生かされた…

命の重み…とは……?




───────フワッ───────




「はっ…………」



あれっ?

僕……今…何を…考えていたんだっけ?



『すまない。今の君には、重圧になる記憶を止めさせてもらった。忘れたわけではないが、負担を軽減している。』



確かに…気持ちが楽になった。


でも、あの世界の記憶は全て思い出したし…現実も理解できている。


胸を締めつけていたものが消えて、頭の中が…

とても、冴えた感じ…


今、僕がするべきことは…なんだろう。


そうだ…



「まず、会いに行かなきゃ…」



ミユキさんとの約束を守らないと…

でも、その前に確認しないといけない。



「あの…教えて下さい。どうして…あやちゃんから、命を譲ってもらう必要があったんですか?」



あんなに…まだ幼い少女なのに…



「ミユキさんに会いに行くことと、そこが繋がらないんです。」



僕のために…




『う……』




蒼白の顔が、とても辛そうに歪んだ…

眉間に皺を寄せながら…まるで、次の言葉をどう繋げるか悩んでいるような…




『私は…君の命を守るために……禁忌を犯している。』



「 き…んき?」



『そうだ…あの世界は、混沌と静寂に見えるが…本当は、とても厳しい掟が存在する。』



「掟…」



『…自殺者を救うということは、それ相当の覚悟を決めなければならない。』



僕を救うために、掟を破ったということ…?



「契約のことですか?」


『有無…自殺者と契約を結ぶ事もそうだが、他の者の命を君に讓渡する等、本来あってはならない事。奴等に見つかるのは…時間の問題だ。』


「奴らって…あの、魂の川の住人ですか?」



…震えている。

この、武人のような人が…



『奴等とは…あの世界の管理者だ。』



「管理者?」



『この世界の言葉で例えるならば……死神。』




───ズキッ────




心臓を抉られるような…衝撃。


確か…図書館で読んだ童話の中に、死神が出てくる物語があった。


そこには、生きている間に悪い行いをすると…死に際に黒いマントを羽織った骸骨が現れて、大鎌を振り下ろし、魂を地獄に引きずり落とす、という内容が描かれていた。


死神とは、地獄の使者というイメージがある。



「…死神。」



『管理者は、時には死神…そして、時には神として崇められる存在となる。つまり…あの世界を管理する、絶対的な存在だ。』



絶対的な存在…



「僕は…どうしたらいいんですか?」


『管理者がこの契約に気が付き、追跡者を送り出すまでの猶予は、君が目覚めてから、約1週間以内だろうと予測できる。』


「予測ということは、今すぐに来るということもあるんですか?」


『…いや、それはない。君は一度あの住人の中に入り、無に還っている。故に、一度でも存在が無くなったものは管理されない。だが…生存が確認された時点で、再び管理対象となるのだ。』



あの絶望を知るということは、一時的に管理対象から外す、という意味があった……



「僕のところに、追跡者が辿り着いたら…どうなるの?」



予測はついている。

けれど、しっかり聞かないといけない。




『…君は追跡者に処刑され、契約を交わした我等は…管理者によって裁きを受ける。』




───ゾクッ




「怖い……怖いです。」



もう二度と、あの恐ろしい思いはしたくない。



「僕は…どうしたら……?」



『君がするべきことは、一刻も早く依頼人であるミユキに会うこと。そして、何かしらの会話をする必要がある。』



会話?



「会話って…何を話すの?」


『それについて私からは、何も答えられない。』



そんな…



「その後は、どうなるの?」


『正式にミユキの寿命が君に譲渡され、改めて君は生かされる。…そして追跡者も我等に、手出しできないだろう。』



なんだか…モヤモヤする。



「あの…つまり、追跡者に見つからない内にミユキさんに会いに行って、そして何か会話をすればいいんですよね?」



『今、すぐに行動できるのかい?』


「あ……」



この体では……無理だ。

昨日よりも回復しているのは…


あやちゃんの………!



「そういうこと…?」



『辛い選択だが、少女の命を受け入れてもらいたい。そうでなければ…今までの全てが、無駄になってしまうからだ。』



そうだったのか…



「でも…それでも、あやちゃんじゃなくても……だって、僕よりも小さくて…」



命のこと…



「い…命の選択なんて、できないじゃないですか?」



『無論、私は強制などしていない。利害が一致したまでだ。』



「利害ってなんだよ…分かりやすく、説明しろよ!」



どうにもならない…もどかしさと、腹立たしさが入り混じって、抑えられない。


どんな答えだろうと…僕が生きていくために、犠牲者がいることに変わりはない。


僕のために………


一度、命を捨てた僕のために…

命を譲ってもらうなんて……


けれど…僕はズルい。

死にたくないと、願ってしまう。

こんなに矛盾していることが、これから先も続くの?




『…あの少女の寿命は、あと3ヶ月だった。』



え?



『本人も、死というものを本能で感じていたらしい。だから、お願いをした…』



そんなの…



『君に、残りの命を譲ってくれたら、またすぐに…人として、生まれてくることができると…』



有り得ない!



「嘘だ!…そんなことが本当に、できるとは思えない。」



『嘘ではない。少女にとって、不利益にならないように、あの世界での階級を上げている。』



階級……



「どうして、あなたが階級を上げられるの?」


『…私の能力だ。但し、限界がある。後は…本人の力量次第。ある程度の階級まで行くことができれば、生まれたい場所を選べるようになる。』



生まれたい…場所………



『望めば…同じ母親の元へ、行けるだろう。』



あ…



「お母さんのところに行けるの?…また、会えるの?」


『そこまでは、伝えてある。』



あやちゃんの体を抱き寄せて、神にも縋るような悲痛な叫びをあげていた…お母さん。



胸が痛い…



「あやちゃんは…納得してるんですよね?…これがどういうことなのか、本当に…分かっているんですよね?」



『ああ…分かっている。』



僕は…無力だ。

ただ泣くしかできない…

こんなに…助けてもらって…僕は…



「僕は……どうしたら…?」



『命を受け入れなさい。…そして、無駄にしてはならない。』



あやちゃん…

あやちゃんのお母さん…


ごめんなさい…



……ごめんなさい…



……………ごめんなさい……




「…承知…しました。」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 息子目線とお母さん目線、2人の心がちゃんと見えて その場面がとてもグッときました。 [一言] こちらも読ませて頂いてます。 うちの息子も10歳なので感情移入しちゃいます やっぱり続きが…
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