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ブラックミスト  作者: 蘭夢
12/13

記憶


その後の事は、よく覚えていない。


先生たちは、それぞれの仕事に呼ばれて、お母さんも…明日、また来ると言って、帰ってしまった。


そこまでは、なんとなく覚えている。

目が覚めたら、真っ暗だった。


そうだ、あの人…居るかな?

あの鋭い眼の人。



「あの……いらっしゃいませんか?」



段々、暗闇に目が慣れてきて、部屋を隅々まで見渡したけど…それらしい人は居ない。



「はぁ…」



いつも、居るわけではないんだな…



僕の目…

オレンジ色とか…人間じゃないみたいだ。


これから先、気持ちが悪いとか言われ続けて、生きて行くのかな……?



「はあ……」



…………………………




…ピシ……


…ピシッ………ピンッ…



…………パシッ…



『クスクス…』



笑い声…?



『クスクス……』


「誰?」


『…オニイチャン』



女の子?



『オニイチャン……アソボ…』



女の子がいる…こんな時間に?



─ 『何でも聞こうとしては駄目だ!

人ならざるものに油断をしてはならない。』 ─



あの人の言葉を思い出した。

困ったな…



『オニイチャン?…アソボ!』



5歳くらいだろうか…おかっぱ頭の女の子が、ベッドによじ登ってきて、僕の顔を覗いている。不思議だけど、全く怖くない。


普通に生きている子が、そこに居ると思ってしまう程に。



「ごめんね。お兄ちゃん、病気だから遊べないんだ。」



返事したらダメだと分かっていても、こんなに屈託の無い顔をされたら、無視できないよ。



『ビョウキ?…イタイ?』


「うん…痛いよ」


『テ?…オナカ?』


「手もお腹も痛いよ…」



……お腹空いたかも…



『アシ?』


「足は…折れてるみたい。」


『イタイ?』


「痛いよ。」


『セナカ?』


「いっぱい痛いよ…」



お父さんの痣がいっぱいあるから…



『アタマ?』


「悪いよ…」


『イタイ?』


「…痛いよ」



冗談は通じないらしい。

ちょっと…楽しい気持ちになった。



『イタイノ…イタイノ………トンデケ!』



両手を広げて…

天井に向けて……何かを放った?




───────フワッ───────




「…?」



嘘だろ?

痛みが…和らいでいる?



『オメメ…』



あっ!…治してっ



「痛いよ…すごく痛いよ!」



『…キレイ…』



「え?」



僕の目に、キスをしてくれた。

とても優しい…キス…



『オニイチャン…バイバイ』


「ま…待って!」



行ってしまった……


妹がいたら…こんな感じなのかな…

小さくて、柔らかくて…

屈託のない笑顔…


なんだか…ほっこりする。



「可愛かった…な…」




……………………………………


……………



眩しい…



「…朝?」



カーテンの隙間から、朝日が差している。



「…ふああ…あぁ…」



まだ…眠いなぁ。



「…あっ。」



あれ?

体が動く…


上半身…上がった?

欠伸して…その勢いで上がった?

昨日は、全く上がらなかったのに…?


もしかして…



─ 『オメメ…キレイ 』 ─



昨日、手鏡を置いていってくれてよかった。

再チャレンジしてみよう…


もしかしたら…

あの子が、治してくれたかも……


目を閉じて…

深呼吸…深呼吸…深呼吸……


どうだ?




「オレンジ…」



ダメか………


期待は見事に外れたけど、なんだろ…違和感が薄まった気がする。寧ろ、馴染んでいる?



「う……ん。」



何となくだけど…昨日は、もっとハッキリした色だったような?



「う……ん。」



自分に気休めはやめよう…変わってないものは、変わってないんだから。


そういえば…僕、何か重要な事を忘れてないかな?



「えーと…」



そうそう、あの人が言っていた………

彼女のことだ!


自分の姿を見たら思い出す?

見ているけど…全然思い出せない。



「…モヤモヤする。」




〈ガラガラガラガラッガラガラガラガラッ〉




廊下の方が騒がしいな…


どうしたんだろう……気になる……

歩けるかな…



「よいしょ!」



右足が折れていて、膝下はギプスで固定されているから…左足に重心をかける…と。



─ピリッ…



「うっ…」



びっくりした。

左足を床に着けた瞬間、痺れてすごく痛い…



「ダメかぁ…」




───────フワッ────────




また、あの風……



「あっ…動く…」



鋭い眼の…あの人が居る?


風が吹いた後に、体の自由が利くようになっているのは、確かだ。



「あ…あの……?」



ドアの前に居る。

無表情で、手招きしてるんだけど…怖いな。



『来なさい。』



不思議な感覚…フワフワと体が自然に動いて、痛みというか…体の重みしか感じないし、壁伝いにドアまで進めた…僕の体は、どうなった?


まだ、夢の中みたいだ…


それにしてもあの人…追いついたと思ったら、ドアを通り抜けて行ってしまった。



「待って!」



やっと廊下に出られたのに…今度は、隣の部屋に入って行くって…




「あや!…あやぁ!!」




え?

誰かが叫んでいる?



『賢斗…早く来なさい。』



何が…

何が起きて…いるの?



「あっ!…」



あの子だ…昨夜のあの女の子…


入院…してたんだ…?


でも…その姿は、とても生きているようには…見えない。


泣きながら、必死にこちらに呼び戻そうとしている女性(ひと)は、君のお母さんだよね…


もう、助からないの?




……助けたい。




「あ、あの…あの子を…あやちゃんを助けてもらえませんか?」



無言で…首を横に振られた。

なんで?

あなたなら、できるでしょ?



「お願いします!」



……無表情に同じ反応をされた。



「僕は…あやちゃんに会ったんです。」




─ 『オニイチャン…

イタイノ…イタイノ…トンデケ! 』 ─




「お兄ちゃん遊ぼって……僕の目がきれいって言ってくれて、だから…元気になったら、いっぱい遊んであげたい。…お願いします!」



神様に(すが)るような思いで、精一杯頭を下げた。



『君は、何か勘違いをしている。』


「勘…違い?」


『そう、頭を上げなさい。』



…なんだかとても、辛そうな顔をしているのはどうして?



『いいかい?私の契約者は君だ。この少女ではない。まして、少女を君に仕向けたのは、私だ…』



え?


仕向けたって…



「どういうこと?」



分からない…

何がどうなって………



『理由は、部屋で話そう。』



…………………………………………




「あの…あやちゃんを僕に仕向けたって、どういうことですか?」



壁に寄りかかって、また辛そうな顔をしている。

具合が悪そうだけど……



『残りの命を、君に譲ってもらえるように…お願いした。』




?!




「…何で!!」




怒りなのか、悲しみなのか、驚きなのか…わからない。いろんな感情が沸き上がってきて……


涙が………




『そろそろ、彼女の時間がない。早急に動いてもらう必要があったからだ。勿論、無償ではないがな…』


「…そんな勝手な理由で、命を奪ったの?」



『違う!!』




── ビクッ ──




眼光が強くて…体が震える。

けど、怯むわけにはいかない。



「じゃあ、何で?…どうして?」


『…奪ったのではない!条件付きで、譲ってもらったんだ。』



意味がわからない…



「同じだよ…いらない!…今すぐ戻してよ!」



あやちゃんの命を……




「戻してよ!!」




こんなにも…感情を現したことはなかった。


ずっと我慢して、我慢して、我慢して…

自分を押し殺していたから…



『そうか…君は、随分と勇ましくなったんだね?…そして、とても元気そうだ。まるで何事も無かったかのように……』



何事も…ない…?



「そんな訳ないじゃない!」



『では、疑問に思わないのかい?』


「……何を?」


『君は、ベランダから飛び降りた。何階だったかな?』


「…7階です。」


『7階から飛び降りたら、普通はどうなる?』



普通は…どうなる?

どうなるって…それは…



「即死…だと思います。」


『君は、どうかな?』


「僕は…」



僕の…体。

右足の骨折と、頭部に少し損傷はあるけど、頭はしっかりしている……


そして…



「…生きています。」



…奇跡としか言いようのない状態で、僕は…生きている。



『何故、生かされたのか…まだ思い出せないのかい?』



大きな掌が、僕の目と頭をすっぽりと包む…



何故、生かされたのか。

何故、生きなければいけないのか…



ズキン……



胸が締め付けられる。



ズキン…



自ら命を絶ったのに…

手を差し伸べてくれた人が…いた。


その人は、残りの人生を…

僕に…託してくれた。



ズキン…



胸が痛い。



《私の顔を忘れないでね…》



その人は…

とても優しい笑顔で…

僕のことを本当の息子のように…


…愛情をくれた人。


そう…



「僕は…大切な命を……いただきました。」



生かされなんだ。



『誰に?』



《忘れないで…会いに来て欲しいの…》


《必ず…必ず…お願いね。》



その人は…

綺麗な、琥珀色の瞳をしていた。



《私の名は…》




「…ミユキさん。」




── ドクンッ ─────




全てを思い出した。


あの世界で起きた全てを…思い出した。




── ドクンッ ─────




死後の世界。




「うわああああぁぁぁ………!」




断片的に、覚えていたことが…

全て繋がった。




「…ぁああああああぁぁぁ………」




怖い……

無という絶望を知った僕が…


これから先…

生かされた命を背負って…生きていくんだ。



生かされた…

命の重み…とは……?


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