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ファンタジー作家必見! 「ロングソード」の描き方 基本編

作者: 赤狼一号

 中世ヨーロッパ風の世界観でファンタジーをやる上で絶対に避けて通れない武器。それが「ロングソード」である。この「剣と魔法の世界」を描く上で避けては通れない「剣」の部分。本エッセイではこの「ロングソード」を描く上で大切なポイントをいくつか解説しようと思う。




 まず大前提として「ロングソード」はポピュラーな固有イメージを持つ単語ではない。故に持っている人にとって「長いのか短いのか」「重いのか軽いのか」「片手で使うか両手で使うか」最低限この程度の情報は描写上必要であると考えてほしい。


 例えばこれが「野球のバット」であれば「バット」と書けばどのような形でどのように使うかはごく一般的な野球のある文化圏のある人が読めば「重さ」は微妙なラインとしても「概ね1mくらいの長さ」で「だいたい両手で使う」という明確なイメージが浮かぶだろう。


 ところが「ロングソード」の場合、「ロングソードというものに興味のあるファンタジーが好きな人たち」に限定したとしてもそのイメージは大きく二つに分かれる。


①騎兵などが用いる長めの刀身(ほんとは「剣身」と書きたいところだが)を持つ片手剣

②両手柄の剣全般の呼称(ハンド&ハーフまたはバスタードと言われる両手でも片手でも使える長さの柄の剣を含む)


①のイメージは両手剣術を含む古流の剣術がほぼ完全に廃れ、スモールソードやサーベルなどの近代刀剣すらほとんど儀仗と化した近代フェンシング全盛のビクトリア朝時代に古い時代の剣術を再定義した時の暫定的な分類や定義を元に主にTRPGなどで広めれたイメージである。


②のイメージは史実に残っている西洋剣術の資料。ドイツのリヒテナウアーやイタリアのディ・グラッシ。イングランドのジョージ・シルバーといった中世において著名であった武術家が残した武術書に記述され、近年の西洋武術復古運動における研究や一部ゲームや小説などで広まったイメージである。


 よって原則的には史実準拠である②のイメージをスタンダードにして描写したほうが望ましいだろう。


 何故かと言うと、原則的に「現実」と言うのが読者が理解するための物差しになるため、作中において相当な「こだわり」があるのでない限り、「現実」に準拠している方が理解しやすいし、不要な矛盾点が出にくい。


 もちろん創作であるから、すべてを現実史実通りにする必要はない。だが原則的に創作である以上は読者はその中で行われているすべての描写は「作者が意図して書いたもの」と認識する。

 故に表現上の事故で矛盾する点が出た場合、それが悪目立ちしてしまう。ちなみにそれらの「事故」は往々にして「描写が足りない」または「細部が不正確」というレベルではなく。「現実では絶対にやらないしやろうとは思わない」という事を意図せずに描写してしまう。という事をやらかす。

 スポーツ物に例えるとサッカー物で全国大会の試合で「ラグビーボール」を使う。バスケ物の国体の試合でボールを持っている選手にタックルをする。これらの行為を作中の登場人物が誰一人問題にしない。冗談抜きにこのレベルの事をやってしまうのである。


 この手の「リアリティ」に関する話を掘り下げるとそれだけで一本エッセイを書けてしまうので、この辺りにしておこう。


 もう一つの問題は実際の描写に関る部分でもあるが、刀身の長さを定義の基準として採用すると大いに矛盾がでる。と言うよりはローマなどの大規模な生産管理を行っていた古代や同じく大規模な工場生産を行っていた近代などを除けば、中世期いわゆる西暦900年代から1500年代までの刀剣は原則的に各職人の受注生産であり、多くの場合家内制手工業や中小の同業者組合(ギルド)といった規模で行われる。つまり、共通規格というものが存在しないのだ。


 どちらかと言えば個々人の体格差や好みに大きく左右されるし、尺寸もメートル法などの共通規格ではなく「握りこぶし一つ分」「一歩の歩幅分」「親指と人差し指の間分」など、の変動する単位が長さの単位として使われていたのでなおさら基準が定めにくい。と言うよりは最初から「個々人の体格に合わせた主観的な長さ」が基準になっていたのである。


 実際、現代においても競技者などが刀剣類を製造する場合「地面に垂直に立てて柄頭がわきの下にくる長さ」「腕を脱力して体の脇におろした時鍔元から切っ先がちょうど地面に着く長さ」など使用者の体格に合わせて寸法を決める。決闘などの競技において「刃渡りが何センチ以下」という基準こそあったものの戦場で使用する武具に関してはそう言った規定は一切適応されない。前述の規定も「公式の競技の場合」という枕詞がつく。


 前述した通り「主観的」な数値となってしまうため、ロングソードを片手剣と定義した場合。身長160㎝の人の「ロングソード」の刀身はだいたい70㎝程度だが、身長180㎝の人にとてこれは「ショートソード」である。


 ところがこれが柄になった場合、事情が違ってくる。両手で使う柄は片手で使う柄の1.5~2倍以上の長さの差があるため、明確な差が出るのだ。

 身長150㎝の人間に適正な長さの「ロングソード」を身長2mの人間が使ったとしても「ロングソード」のままである。


 そして描写の点でより顕著な違いになるのは10㎝から20㎝の刀身長よりも「片手」で使うか「両手」で使うかの方だろう。


 ちなみに余談ではあるが、くどくど片手柄云々と書きたくない人の場合は両手剣であれば背中に背負う。片手剣の人は盾を持たせる。という方法がある。この辺りの細かい描き方に関してはまた別の機会にまとめてみようかと思う。


 史実においてもっともポピュラーな両手剣のサイズである「片手でも両手でも使える長さの柄」「垂直に立てて柄頭が脇の下の高さを下回る長さの両手剣」の場合、最大の利点は「腰に下げて携行出来て、使用時以外は手をふさがない」「弓の射程で弓と戦う以外であれば、大抵の武器とそこそこ戦える」「棒の様にいろいろな使い方ができる」という汎用性の高さにある。


 これは刀剣類全般に言えることだが、「+αで携行可能」「メインでもサブでもある程度使える」と言う部分が最大の利点であることをよく覚えておいてほしい。



 さて最後に「重いか軽いか」という情報についてだが、これは主に、その剣の特徴。戦い方の好み。主人公の技量及び身体能力。などの表現の起点となる。


 描写に関る剣の特徴と言えば主に強度と重心位置になる。


 重心の位置は鍔元から遠くなればなるほど重く感じ、近くになるほど軽く感じる。この辺りは金槌の頭を持つか柄を持つかをイメージしてもらえれば分かりやすいと思う。


 例えばその剣の刀身が主人公にとって「短め」であれば軽くなるし、「長め」であれば重心位置は遠くなるので重く感じる。

 また、刀身形状が△型で剣先が狭く鍔元が広くなっていたり、同じく剣先が薄く鍔元が厚い形状になっていれば軽く感じるだろう。その逆もまたしかりである。


 刀身が厚ければ頑丈だが切れ味が鈍くなり、薄ければ脆いが切れ味は増す。広ければ切断力が増し狭ければ刺突力がます。


 また特殊な材質または製法の為、実際の重量が軽い。またはその逆に重い。この場合原則的には軽い剣は操作がしやすく、体にかかる負担や、フィジカル面でのハードルが低くなるものの、一撃の衝撃力も当然低くなる。逆に重い剣は一撃の衝撃力は高いものの操作が難しかったり、身体に高い負荷がかかるという描写になるだろう。


 ざっと上げればこのような特徴が描写できる。



 次に戦い方の好みだが、これは当然と言えば当然であるが前述の剣の特徴が大きく関わってくる。手数を少なく一撃のパワー重視なのか。攻撃の正確性重視で手数を多めに戦うのか。刺突がメインなのか。斬撃がメインなのか。


 ただ勘違いされがちなのは手数の多い少ないの話はあくまでも技術の方向性の話であって技術の習熟度とは完全にイコールにならない事を覚えておいてほしい。

 確かに手数の多いいわゆる細かい技の方が技術的なハードルが高いので細かい技が可能と言うのはそれだけで技術的な習熟度の証拠として使いやすい。ただし、手数の少ない単純な技程反復が容易なため、技術として習熟させやすい部分がある。


 ちなみに現実の武術では、乱戦などの多い戦場での技術としては単純で手数の少ない技が好まれる場合が多く、逆に平時の自衛戦闘や決闘などの状況が限定される戦闘状況の場合、手数が多かったり複雑な技が発生することが多い。また技術習熟や身体操作の訓練などを目的にあえて複雑化した技が残されている場合もある。特に複雑で手数が多い技の場合、実戦の技術ではなく訓練を目的にした技術というのも存在する。


 故に複雑な技などは相手との習熟度にかなり開きがある場合でないと有効に使用することが出来ない場合が多い。


 最後に主人公の技量及び身体能力の話をすると、描写は前提として主人公または評価する人間の主観を物差しとしている。故に重く感じるか軽く感じるかは全て使う人間の主観になる。


 故にその主人公が適正な訓練を経て剣を使い慣れていれば「軽く」感じるし、逆に使い慣れていなければ「重く」感じる。


 フィジカル面、つまり筋肉においても主人公がその武器の重量を適正に操作するのに最低限の筋力なのか、それともそれ以上なのか、はたまたそれ以下なのか、という部分で軽重は変わってくる。


前述した技術とフィジカルは当然ながら相関関係にある。つまり剣の操作に慣れるために素振りなどをすれば当然それに使用する筋肉は発達するので、原則的にはこの両者は特別なこだわりがない限りは差別化する必要はない。


 つらつらと脱線しつつ書き連ねたが、覚えておいてほしいことは2つだ。

①「ロングソード」はポピュラーな固有イメージを持つ単語ではない。

②故に持っている人にとって「長いのか短いのか」「重いのか軽いのか」「片手で使うか両手で使うか」最低限この程度の情報は描写上必要であると考えてほしい。





 


  

 



後書き


 ちなみに例文で多種多様な描き方を述べたました、絶対にこの通りにせよと言う主張ではない。という事を改めて書いておきます。


 「あくまで現実としてはこういう特徴を持った武器である」というところをベースに想像の翼をはばたかせて欲しい、ということです。


 人は創作物を「全て嘘である」という前提で見ます。つまり真っ暗闇の道の中を頭の中の「現実」という地図を頼りに作品世界をさまよう訳です。

 その地図に矛盾する点があっても、その矛盾の傾向を読み取って補完することで作品世界をより深く読み解いていけるわけですが、それが徹頭徹尾当てにならなければどうでしょうか。先に進むことを躊躇するようになるでしょう。


 太陽が昇っていたら基本的には「昼」ですし、沈んでいたら「夜」です。逆に現実では太陽に相当する恒星が「月」と表現されてたり、その光を受けて輝く衛星が「月」と呼ばれていたら、どう読むでしょうか。おそらく作中の世界観に深くかかわる設定であると考えるのではないでしょうか。


 そして、これは書いている方にも言えることで、なんのこだわりもないのに「太陽」と「月」を逆転させてもただややこしくなるだけで、利点はないと思います。もしかしたら書いてるうちに自分でわからなくなって作中で誤用してしまうかもしれません。


 そして「現実」は人が想像だにしない事すら起きうる可能性があります。現実においても信じられない話を創作で書くとことさら嘘くさく見えますよね。つまり拘りの無い事に関しては現実以上に「現実的」に描いた方が悪目立ちしないのです。


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