そのお話、承るわけにはいきませんでしょうか?
さて、あけましておめでとうございますリレー小説第2弾です。
「それで、このお方は?」
「厄病神、としか....」
聞いていない。そう、それしか聞いていないのだ。そして現在、その自称厄病神というものは呼び出された学園長室の茶菓子を高そうなソファーの上で体育座りしながら食らっている。
「余の嫁ぎ人よ、この『よーかん』という食物は誠に美味であるぞ」
「え、はい。あの....厄病神さん? 一応女性なんですから、体育座りは....その....」
「はて? なんのことかの?」
ボロボロの着物の裾から見える不健康そうな足がなんとも艶めかしい。そして着物の中身も持ち上がり見えるか見えないかの境界線でチロチロと動いているのだからたまらない。
そんなことを考えていると、目の前で咳払いが聞こえてくる。それは目の前に座るスーツを着込んだ初老の男性から発せられたものだった。
「えっとだね。私はこの学園の責任者をしている古谷 清志郎というものでして。できれば、これから友好な関係を築くために名前などを教えていただきたいのですが....」
目の前で頭を下げているのは、この学園においての最高責任者。学校のパンフレットの一番最初のページに載っており、この共存政策の第一人者でもある。なかなかお目にかかることのできないえらーい人物だ、というのをつい先ほど数分前に知った。なんでそんな偉い人物がここにいて、ましてや呼び出されたか。理由は簡単である。自分が呼び出したのが、曲がりなりにも神だからだ。
「余は厄の神じゃ。厄に名前などありはせん。強いて言うならば、人間にいろんな名前で呼ばれておったようじゃの」
行疫神,疫病神,疱瘡神などなど。
連ねてみた名前の数々は、やはり畏怖の念を感じさせるものばかりだ。厄病神、その名前なら日本人が誰もが知っているようなとても忌み嫌われた神の名前だ。知っているところでは、祭りの時にはそれらを払うための儀式があったり、招きいれないようにするための行事もあったりする。それくらい、この厄病神とは知られて、かつ嫌われている存在なのだ。
だがどうだろうか。実際にフタを開けてみれば、顔色が悪いことや不健康そうなことは除いて、なかなかの美人だったりもする。実際隣にいて、若干ドキドキしている感は諌められない。
「さて....あなたは....厄病神さんは今回。この共存政策というのをご存知の上で、彼の召喚に応じたのですか?」
「はて、なんのことかの? 其方が度々申しておる『きょうぞんせいさく』とやらは全くもって知らん」
素っ頓狂な顔をして、羊羹を手で鷲掴みにしてムシャムシャと食べている。その返答に対し、学園長はポカンとした表情でその様子を見ていた。
「そんな....ですがあの場で召喚される『アーダ』は全員そのことを通達してあるはずなんですっ、どうしてあなただけが」
「我は他の奴らとはちぃとばっかし『存在』というものが違うのでな。よもや貴様の申す『つうたつ』とやらは届いてはおらんかったのじゃよ」
『存在』と聞き、学園長は若干顔を歪める。だが、彼がその言葉をどんなふうに捉えていたかはわからない。そして、誰か説明をしてほしい。自分には全くもってわからん。
「で、では....何のために....」
「だから言っておろうに、嫁ぎ人探しじゃ」
そう言って、こちらの肩を組み厄病神の座っているソファーまで引き寄せられる。現在、首をホールドされて頭の上には豊かなお餅が二つ乗っかっている状態である。
「えっと....その....嫁ぎ人.....というのは?」
「まぁそうじゃの....手っ取り早く言うのなら『贄』じゃな」
学園長の問いに対し、冷静に厄病神が答えた。
さて、今『贄』って聞こえたの気のせいか?
「ちょ、ちょっと待ってください。『贄』って、生贄のことで....」
「そうじゃ、この男は余の『贄』。奪おうものならば、この土地、二日で更地にしてくれようぞ」
お餅の間から覗く学園長の顔が真っ青になる。自分は今一体どんな表情をしているのだろう。当然、さっきまで真っ赤だったのが急降下で真っ青に決まっている。
い、生贄? そんな学園入学早々そんなもんになってたまるか。いや、でもこの厄病神、本気で命を獲ろうとかは考えてないだろう。
....だよな?
「この男の子には一生、余に使えてもらうのでな。傷物にした暁には、わかっておろうな?」
「だ、大丈夫です。その点に関しましては危害を加えるつもりは全くございませんので....つきましては、少々そちらの少年をお借りしてもいいですか?」
「ふむ、数分で戻せ。余は疲れたのでな」
ホールドが解かれ、解放される。目の前に座っている学園長に手招きされ、学園長室の外へと連れ出される。廊下には誰もおらず、部屋の中とは違い静かな空間が広がっていた。
「さて、確か薫君といったね?」
「は、はい。そうです」
先ほどの営業スマイルを浮かべていた時とは違い、学園長の顔は神妙な面持ちとなる。
「彼女のことなのだが....よろしく頼む」
「ずいぶんと直球な....」
突然目の前で頭をさげる学園長だったが....本当にあまりにも直球すぎる。自分でもどうすればわからないのだ。入学初日『いきなりお前は私の生贄だ』なんて想像できるだろうか? いやできるはずもない。
「さすがに命を奪うようなことはしないと思うが....もしそうなったらいつでも言ってくれたまえ。すぐに対処をしよう」
「と言われましても....本気で彼女と生活をしろと言うんですか?」
「....でなければ、彼女の言う通り。災厄が学園に降り注ぐだろう。頼む『アーダ』との共同生活は2ヶ月だ。そのあとはまた違うものと組まされる。それまでの辛抱だ」
思わずため息がでる。いや、決して女性と暮らすのが嫌だとかそんなことを考えているわけではない。問題なのは、厄の神と暮らして、ましてや生贄扱いされた生活をして、果たして自分は生きていられるのだろうか。確かに、学園長の言う通り助けを呼ぶことはできるが、相手は神だ。どうしても一抹の不安を感じずにはいられない。
「すまん、この通りだ」
「わかりましたから、もう頭を下げないでください....」
さぁ、不安だ。
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「嫁ぎ人よ、これからどこに向かうのじゃ?」
「僕の寮ですよ」
「ほぉ....その齢で所帯を持ってるとは感心じゃの」
現在、自分の家というよりか、寮へと向かうバスに乗り込んでいる。はっきり言えば注目の的だった。バスに乗っているぜ人が全員、こちらを見ており、そしてそんな彼らに付き添う『アーダ』も注目をしていた。
それもそのはずだ。何せ『アーダ』が人型でバスの優先席に我が物顔で体育座りしているのだから目立つに決まっている。そして、着物のギリギリのラインを攻めているところをバスに乗った男子がチラチラと見ている。
「えっと....厄病神さん? 体育座りじゃなくて、足を下ろして座った方がいいですよ?」
「なぜじゃ? この方が楽なのじゃが?」
体育座りをしながらこちらを見る厄病神、青みがかった瞳が透き通ってきれいだ。一瞬だけ、この人が厄病神だということを忘れてしまいそうになる。
「あのですね....色々と見えそうになっているので」
「....そうなのか? ならば」
見ようとしている奴らの目を潰せば良いではないか。
へ?
次の瞬間、飛んでいたバスが急に傾き始め、とんでもない揺れとGが襲いかかる。バスの中は大混乱、悲鳴が飛び交い、人と物が飛び交っている。
「ほら、これならば見られずに済むよの」
「い、いったい何を考えてっ!」
バスが回転を始めて地面へと落ちる。自分はといえば席から放り出されて必死に体を支えるための棒にしがみついていたが、おそらくこれの原因である厄病神はこの騒ぎの中で平然と同じ席で体育座りをしていた。
「い、今すぐやめてくださいっ!」
「これは余がしていることではないのでの。余には止められん」
「はいっ!?」
一瞬一瞬見える外のビル群から、徐々に降下しているのがわかる。そして、地面へと接触するかもしれない。と思った刹那、突如バスが急上昇を始め、完全にバスは絶叫マシーンへと変わり果てる。そして、一定の高度まで上がりしばらくしてバスの動きが安定し始めた。
周囲が先ほどの怪現象は一体何だったのかと騒ぎ立て、一斉に抗議の声が上がり始める。どうやらうちの厄病神が何かをやらかしたというのはみんな思い至っていないらしい。
『先ほど起きたことに関しましては、バスの自立運転部位に故障が発生したものと思われます。これ以上の走行は危険なため、一時バスターミナルに着陸し本日の運行を終了させていただきます』
だんだんと地面へと向かって進んで行くバス。そしてそれに対して抗議の声を上げる学生たち。騒然とするバスの中で平然と体育座りをして妖艶な笑みを浮かべながら厄病神は存在していた。
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「おい、一体どういうつもりだ。危うく人を殺しかけたぞっ」
「余のせいではないと言っておろう。こう見えても余は嫁ぎ人の数百倍は生きておるのじゃぞ。耳元で騒ぐでない」
耳を押さえながら隣でふよふよと浮かび漂いながらついてくる厄病神。そういえば、昔のアニメでこんなキャラクターがいたような気がする。現在、バスターミナルで降ろされて寮へと向かう道を歩いている。始業式で昼ごろに放課だったため、多くの人が歩いている。会社員、主婦、大学生らしき人、それぞれ全員が『アーダ』をそばに置いているが人型の『アーダ』と一緒に歩いている人は少ない。そして、そのような人からの注目をバスに乗った時と同じように浴びている。だが、それ以上に気になるのは『アーダ』の反応だ。バスに乗っている時にも気づいていたが、彼女を見るたびに『アーダ』と思われる者たちがなんというのだろうか....恐れるのだ。
「それで、嫁ぎ人よ。そなたの屋敷はどこにあるのじゃ?」
「もうそろそろ見えてきますよ。あと厄病神さん。僕のことを『嫁ぎ人』というのはやめていただけませんか?」
「ん? なぜじゃ?」
目の前にヌッと、逆さまになった厄病神がこちらを覗き込む。だらりと下がった白髪に青くゆらゆらと揺れた瞳がこちらの目をとらえている。
「えっと....一応自分にも薫って名前があるんで」
「なんじゃ、そんなことか。薫」
.....やっぱりどっちでも恥ずかしいことに変わりはなかった。
歩いて数分。寮のあるビルの入り口の前には人だかりができていた。
「ほぉ〜ここが薫の屋敷か。立派よのぉ、ここが全部そなたの屋敷か」
「いえ、違いますけど....ちょっと待ってください」
人だかりの正体はすべて学園の生徒でその数およそ百何十人か? その人だかりの中でこっちに声をかけている人物がいた。目をこらすと、それはクラスで一番最初に『アーダ』を召喚した阿藤というやつだった。
「この騒ぎ、一体どうなってんだ?」
「なんか電気系統のトラブルでビルのエレベーターが全部止まったらしいんだって。だからみんな自分の部屋まで階段で昇るって話だと」
聞けば昼ごろ、急にビルの主電源が落ち復旧作業を現在進行形で行っているが、原因がわからずここに暮らす寮の生徒は全員階段で自室まで移動するという話だった。部屋の扉を開けるための電力は残されているそうだ。ちなみに自分の部屋は確か147階である。
地獄だ。地獄絵図だ。
帰ってきて早々、死刑宣告をくらい、厄病神の所へと戻るが。このビルを物珍しげに眺めて満面の笑みを浮かべている厄病神。
まさかとは思うが、こいつのせいではあるまいな。
え....っと、どうもコンバンワ。西木 草成です。
さて今回は『栽くん!』の予定でしたが....今回はちょっと彼の都合で....私が書かせていただくことになりましたごめんなさい。
次回は、2月中に発表を予定したいと思います。
次回、書いてくれるのは『旬華』さんですっ! お願いしますっ!
https://mypage.syosetu.com/1202737/
では、次回お会いしましょう。