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物語とは起こるべくして、起こるものである

さて、まずこの起承転結に当たる。『起』を担当しますは西木 草成ですっ!


 神:人間を超越した威力を持つ、かくれた存在。人知を以ってはかることのできない能力を持ち、人類に禍福を降すと考えられる威霊。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「薫っ! もう朝ごはんっ! 下に降りてきてっ!」


「わかったからっ! 急かすなってっ!」


 下から聞こえて来る母親の声に悪態をつきながら、今日通う予定の高校の制服を上から下へと身につけてゆく。肌になじまない制服の違和感に顔をしかめながら、光が差していない部屋の窓にかかっているカーテンを開けた。


 外から見える、新しい世界に思わずため息をついて、再びカーテンを閉め直し。自室を出る扉の横にあるボタンを押す。扉が開いた先にあったのは巨大な大窓。街全体が見渡せそうなくらいの高さにある自分の部屋の窓には、今となっては当たり前になった空飛ぶ車が澄み渡った快晴の青空の下を縦横無尽に走り回っている。しばらくはこの光景に慣れそうにない。


「遅いわよっ! 覚めちゃう前にちゃっちゃと食べちゃいなさい」


「今日の2時まで祭りだったんだよ....それに母さん、そんなバーチャルでこっちに来て朝ごはん作らなくてもいいから」


 目の前にいる母親。もとい、その声と動作をしている映像とアンドロイドと呼ばれる代物が朝ごはんを温め直し、テーブルへと運んでくる。


「だって、一人暮らしなんて言ったら、あんた絶対に朝ごはん食べないでしょ? それにしても便利ねぇ。これで心配なくあんたにも一人暮らしをさせられるわ」


「ハァ....自由が欲しい」


 今いるこの部屋。今年合格した高校の全寮制の建物である。ここでは入学した生徒の生活支援のために様々な施設が詰まっている。一度説明会などを受けたがそのほとんどは全く自分と違う次元の話だっため、ついてゆくことなどできなかった。正直に言えば、自分はこんな高校に入れるような金などを持っている、余裕のある家庭ではない。


 なのに、なぜこのような部屋を与えられるような高校に通えるか。


「薫が推薦で受かってくれて、本当に良かったわ。そうでなきゃこんな部屋に住めないもの....正直羨ましいわ」


「はいはい、それじゃもう行くから。バーチャル終了」


「あ、ちょ....『バーチャル終了しました。登校用車両到着まで、残り4分と29秒です』


 アンドロイドのバーチャル機能を強制終了させ、元のマネキンのような姿に戻ったアンドロイドを確認し、作られたベーコンエッグとトーストを口の中に押し込み牛乳で流すと玄関の方で突如インターホンが鳴った。


『玄関先の情報を入手、宅配便が到着しました。私が受け取りに行きますか?』


「いや、自分が取りに行くよ」


 アンドロイドの申し出を断り玄関へと足を運ぶ。玄関の先に着くと、扉の横にあるスイッチを押す。その瞬間外からの空気圧で一気に空気が部屋の中へと流れ込む。どうやら、玄関先の空気圧の調整がうまくいってないらしい。


「ブワッ! すみませんっ! お届け物ですかっ!?」


 玄関先の通路を繋ぐための透明強化プラスチックでできたスカスカの玄関先に立っていたのは、噂にしか聞いていない。この新発展途上都市に生まれた新しい世界の一つ。


 その筋肉質な巨体と背中に白い羽を生やし、その特徴的な赤い顔にまっすぐこちらを指すようにしてまっすぐ伸びる鼻。


 そう、天狗だ。


「後藤 薫殿は、其方であるか?」


「え、あ、はい。そうです....」


 その風格といい、厳格のあるその言葉遣いに圧倒され伏せ目がちに答える。天狗はその様子を鋭い眼差しで見続け、まるで穴が開くかと思うくらい見続けると、突如その厳しい表情が緩み始め、先ほどの雰囲気はどこに行ったのかというくらいな営業スマイルへと変貌した。


「天狗配送サービスになります。こちらに印鑑かサインをいただけますかな?」


「あ....では、サインで」


 着物のたもとから取り出され渡された小包と小型端末にサインを書き込み手渡すと満足げに頷き、そのまま玄関先へと向かう。そして外の外界へと繋がるハッチが開き、思わずそばにあった手すりにつかまり風圧に備える。


 天狗はそのまま後ろを向き、その雄大とも思える白い羽を広げ、地上約600メートルの高さから大空へと羽ばたいて行ってしまった。


「すげぇ....」


『玄関先のエアシステムの不調、管理人へ連絡を入れました。修理終了まで4時間。追って連絡、登校用車両到着まで残り1分と13秒』


「え、やばいっ!」


 アンドロイドの音声が聞こえ、すかさず通路から下のリビングへと戻り、急いで残りのベーコンを口に掻き込み、学校カバンの中身を大急ぎで確認する。入学当日に忘れ物など目も当てられない。


『登校用車両、神共学園都市雪の車両が到着しました。出発まで残り30秒』


「え、待ってっ!」


 急ぎでカバンを提げ玄関先へと向かう。そばにあるスイッチを作動させ、玄関先の気圧と外の気圧を一定にさせる。そして、気圧調整終了のアラーム鳴り、大急ぎでハッチを開けた。


『それでは、良い1日を。後藤 薫様』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 2024年。精霊、霊、妖怪、神の存在が科学的に証明され、可視化できる技術が発明されたそれらは『アーダ』と呼ばれ、その『アーダ』との交流で得た、霊的でオカルトな技術を地球人である科学技術と融合させ、世界では『アーダショック』と呼ばれる技術革新がいたるところで起きた。例えば今乗っている、この車両も『アーダ』と科学技術を融合させた結果生まれた賜物だ。


 互いにその認知と協力体制への協議を続けた結果『アーダ』と呼ばれる人外たちの共存する地域が世界各地に試験的に存在することになった。そして日本では、ここ新発展途上都市が試験地域の場所として選ばれたのである。そして、ここは世間では魑魅魍魎、もしくは八百万として崇められていた神たちが人間と共存し、先ほどの天狗のように配達であったり人間を守る警察のような仕事、その神通力を生かし占いを行うもの、昔多くの男性をたぶらかしたことのある女の妖女と呼ばれた妖怪なんかはテレビタレントやグラビアの写真などをやったりしてもいる。


 そして、2032年。新しく導入させられたシステムが始動し始めようとしていた。


 車両の中には、同じ学園都市に通う生徒たちが40人ほど乗っており、すでに打ち解けているかのように賑やかだ。自分はといえば、車両の座席に座りながらぼんやりと流れてゆく浮遊掲示板の広告の波を眺めている。すると隣で誰かが隣に座る気配を感じた。


「君....もしかして、新入生?」


「え、はい。そうですが....」


 後ろを振り返ると、髪を金色に染め上げ、首から金色のチェーンをぶら下げ、爽やかに笑みを浮かべた男が隣に座ってこっちを見ていた。絶対に女の一人二人を侍らせてリア充をしていそうなやつだ。基本的に苦手なやつだ、決して俺がモテないからとかという僻みで言っているわけではない。


 決して俺がモテないからとかという僻みで言っているわけではない。


「俺は2年の針谷 紳助。よろしくな」


「あ、俺は後藤 薫です。えっと....その肩に乗っているのは?」


「あぁ、これか?」


 そう言って針谷と名乗る男は自分の肩に乗っている(フクロウ)のようなものを指差す。ただ、テレビや動物園で見るような梟とは違い、その翼は緑色にキラキラと輝いているようにも見えた。


「こいつ? こいつは俺のパートナーのシルフィー、精霊だよ。君もこの都市で試験的に行なわれている政策を知っているだろ?」


「はい、満15歳以上の人物は希望者で、『アーダ』とペアを組んで生活をするって」


 2032年、人外である彼らとの共存をより確たるものにするために。満15歳以上の希望者は、アーダとペアを組みその衣食住を共にするのである。当然、採用試験のようなものもあり、ペアを組むのに値しない者は希望したとしても除外される。俺は推薦とこれらの試験に合格したためこの高校に入学することができたのだ。


「そうそう、多分向こうに行ったら同じようにペアを組まされると思うけどね」


「はい」


 そして、自分が今行こうとしている学校はそれらの政策を一番に推し進めている学校だ。学校への入学条件は当然『アーダ』とペアを組むことが許されたもの、そしてそれらの政策に対して十分な結果を出すことの出来る人物が入学の最低条件に設定されている。


「さて、おしゃべりしている間にもう見えてきたね」


「オォ....」


 思わず見えてきた景色に声を漏らす。それは自分の知っている学園ではない、それは一つの街のような風景だった。飛んでいる車両の窓から見える学園の敷地には多くの建物が立ち並び、多くの人と乗り物がその建物を行き交いしている。そして校庭と思われる芝生で覆われた広い場所には、巨大な横断幕で『新入生、入学おめでとう』の文字が大きく描かれていた。周りの生徒もその光景を見て興奮している。


『これより、着陸態勢に入ります。そばにある手すりにつかまってください』


 車両から流れるアナウンスに従い、そばにあった手すりにつかまり、着陸の衝撃に備える。そして学園の前にある車両専用の停留場にそのまま垂直に地面まで着陸を行っていることが窓の外から見えた。


 そして、着陸と同時に車両の中央にあるハッチが開いた。その出口に向かってなだれ込む生徒たちを座席から眺めながら、人が少なくなるのを確認し、針谷と一緒に車両から降りた。


 降りた目の前にある季節に相まって桜並木が続く正門に向かって歩こうとしたが、その正門からこちらに向かって歩いてくる黒く長い髪をなびかせながら制服を着た一人の女性が大股でこちらに近づいて来た。だが彼女の頬が赤く染まっているのは、桜の花びらの色だけのせいではないようだ。


「ちょっと委員長っ! どうしてこんなに遅いんですかっ!」


「あ、え〜っと。ちょっと寝坊を....」


「しっかりしてくださいっ! 今日は新入生歓迎で忙しいんですからっ!」


 その女性は、隣に立っている針谷に人差し指を向けて怒っている。それにしてもこの人委員長だったのか....


「ま、まぁ。そんなに怒らないで....隣には新入生もいるんだしさ?」


「え? あ....。すみません、お見苦しいところを....」


 自分の存在に気付き、すごい勢いでこちらに向けてお辞儀をする目の前の女性。思うに、先ほどの言動から考えて副委員長なのだろうか? それにしても清楚そうな人だ、少なからずこのチャラ男にはもったいないくらいの美人だ。


「私は、この学園の副委員長を務めています。桂木 沙耶です。この度は入学おめでとうございます」


「俺は後藤 薫です。こちらこそ、宜しくお願いします」


 同じように深く礼を返す。そして互いが顔を上げた瞬間に、桂木はその顔をキッと厳しくさせ、針谷の方へと向き直った。


「とりあえず委員長、みんなの前で色々話していただきたいことがあるので」


「は、は〜い。えと、後藤君、またね?」


 そして、針谷はこちらに手を振りながら桂木に引きずられるようにして、学園都市の中へと進んで行く。なんだろうか、二人とも、仲が良さそうで何よりである。


 そう思っていた瞬間、学園都市に鐘の音が鳴り響いた。まずい、確か最初に集まるのは公会堂だったよな。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 つい1時間半ほど前におよそ1万人は収容できるのではないかと追うくらいの大きな行動で入学式を終え、そのあと行われた新入生歓迎会で在校生の挨拶に前で立って話していたのは先ほどの登校用車両で会った針谷だった。そこにはさっきまでの頼りない感じはなく、真面目かつ、頼り甲斐溢れる委員長としての祝辞の言葉を述べていた。


 そして


「というわけで、お前さんたちがこれから呼び出すのは、重要なパートナーであり、この共存政策において重要な要となるということを忘れないように」


 広い教室に集められた生徒は50人ほど、目の前でスーツ姿の女性教論が黒板にこれから行うことに関しての注意事項や、その意義について書き込みながら、説明を行っている。入学早々に『アーダ』のペアを組むための儀式を行うだなんて聞いていなかったため内心かなり緊張している。


 これはファンタジーの言葉を使うのなら『召喚』という儀式である。これから『アーダ』とペアを組んで衣食住を共にするわけだが、当然『アーダ』の方にも、ペアを選ぶ権利がある。そのために目の前に置かれている指にはめるリングのようなものがペアで置かれており、それが生徒の数だけ用意されている。要は、このリングを指に嵌め、もう片方のリングが反応した『アーダ』とペアになるというわけである。


 そしてペアとなる『アーダ』には種類があり、最も多くいるとされているのは『精霊』『霊』『付喪神』、その次に多いのは『妖怪』『魔族』、そしてその次に多いのが『天使』や『悪魔』といった信仰の対象などに仕えるもの。そして、最も珍しい、今でも出会えることが難しいと言われているのが『神』と呼ばれるものである。


「とまぁ、説明は以上だが。何か質問のあるやつはいるか?」


 特に全員の反応はなかった。その様子を眺めた教論はそれぞれ出席番号の若い順に教卓の前に来いとの指示を飛ばす。自分は『後藤』なので出席番号は前半の方になる。


 まず出席番号1番目、確か阿藤とかって言ったような....


「よし、まぁ。適当に嵌めな。安心しろ、たいてい出てくるのは守護霊か、お前さんの先祖の霊だから」


「は、ハァ....」


 それにしてもこの女教論は適当すぎる。そしてみんなの目の前でおどおどしながら阿藤が指輪を左手の人差し指に嵌めるのが見えた。


 その瞬間、目の前に置いてあった片方のリングから青白い放電が走り、教室にいた全員が驚き、嵌めた本人も思わず手で顔を隠し、その現象が終わるのを待っていた。自分はというと、机に顔を突っ伏し若干顔を上げながらその様子を見ている。ふと見た、女教論は落ち着いた顔をしてその様子を見ていた。


「よし、お前さんのペアは付喪神だな。これから仲良くしてやれ」


「は、はいっ!」


 妙に気張った声で返事をする阿藤。両手をお椀のようにして自分の席へと戻ってゆくが、彼の手に乗っていたのは何やらスニーカーに手足が生えたような生き物。あれが、付喪神なのか?


「さて、こんなことで一々驚いてたらきりがないぞ、どんどん指輪はめてけ」


 そこからの流れはとてもスピーディーだった。順にそれぞれが指輪を嵌めて行き精霊や妖怪、付喪神などがそれぞれペアとなり席へと戻っていった。


 そして、自分の番。


「よ〜し、ちゃっちゃとやれよ」


 ゴクリと生唾を飲み、目の前に置かれた金色に光る指輪を見つめる。これからの学校生活を共にする『アーダ』一体どのようなのが現れるのだろうか。個人的には付喪神とか小さいものが嬉しい。『アーダ』がどんなものかよくわからないが、とりあえず食費のかからなそうな小さいものがいい。


 意を決し、指輪を左手の中指にはめる。その瞬間、目の前に先ほどの光景と同じように青白い放電が走り始めた。この様子だと、最初にやった阿藤と同じ反応だ。ペアになってくれるのは付喪神だろうか。


 そう思ったその時だ。


 突如、目の前で徐々に広がっている青白い放電が、徐々に青白い色から赤色、黄色へと変化してゆく、それにつれてだんだんと激しさを増しているようにも感じた。


「....え?」


「後藤っ! そこから離れろっ!」


 ぼんやり眺めていた教論の表情が一変、厳しい表情へと変わり自分を庇うようにして目の前で起こっている現象から身を守ってくれている。というすみません、胸が当たって....


「せ、先生?」


「おい....お前さんとんでもないもん引いてくれたな」


 激しい音と、放電が収まり、恐る恐る教論の背中から一体どうなっているのか様子を伺う。


 教卓の上に人型の何かが正座で座っている。教論が離れ、自分の背中を押し、挨拶をしろと言わんばかりに見ている。ふと周りを見渡せば生徒たちがぽかんとした表情で全員が前を見て固まっていた。



「えっ....と、どちら様で....?」


 声をかけた瞬間、その目の前で座っている。どちらかといえばボロボロの着物を着たその何かは、白髪でボサボサの長い髪の生えた頭をゆっくりとこちらに擡げる。顔を上げた時に見えたボロボロの着物から覗くこぼれそうな双峰を見て、この何かは女性だと理解した。

 

 その髪の間から見える青白い肌とまるで燃えているかのように揺れる青い瞳。その狭い髪の間でも、人間離れした美貌をもった女性ということがわかる。


 ふと、その口元にかかっている髪が、軽く動いた。


「そなたが....余の嫁ぎ人か?」


「....え?」


 あまりにもか細く、幸薄そうな声が耳に入り込んでくる。この女、一体なんて言ったんだ?


「我は、厄の神....もう一度聞くが。そなたが、余の嫁ぎ人か?」


 どうやら聞き間違いではなかったようだ。


 波乱の共存政策による新生活。


 ここに開幕である。


いかがだったでしょうか?


次回、担当いたしますは『栽くん!』ですっ!

現在更新している作品は『魔法がランダム仕様ってのはいいけど、一日が長すぎるのはよくない。』

となります。


https://ncode.syosetu.com/n6478ej/


それでは、次回をお楽しみにっ!

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