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ある冬の鍋事変  作者: 矢州宮 墨
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Ⅳ/メモリー

いわゆる回想。

 彼の頭脳は容赦ない一撃によって粉砕された。薄れ行く意識のなかで彼は思う。どうせ寄生するなら別の種になればよかった。ホルモンを調整し、ハサミを巨大化させ、蟹社会の中で優位に立ったところまではよかった。同胞に襲われる心配もなく、縄張り争いなどする意味もないほど彼は強かった。だがそれはあくまで蟹という種類の中、あるいは川の中の生物圏だけの話だったのだ。

彼がこの甲殻類に寄生したのは、彼に残された時間が少なく、対象を吟味する時間がなかったからだった。だがもう一つ理由があったのだ。一般に蟹と呼ばれるこの甲殻類の外見は、彼のもともとの姿、つまり彼が肉体を捨てる前の姿によく似ていたからなのだった。


 彼の故郷である衛星基地は、技術進歩だけが存在意義だった。一度進歩が止まればその基地は不要になってしまう。ところがその高度な技術力故に、基地はその進歩の停滞が予測できてしまったのだ。そこでその基地は、進歩への鍵を外部に、すなわち他の知的生命体に求めることにした。それが今回のプロジェクトの発端であった。


 彼は思う。果たして自分がこの惑星を制圧できていたなら、有益なテクノロジーは見つかっただろうか、と。今となってはもう分からない。他のプローブたちは上手くいっているだろうか。それとも全滅だろうか。基地はどうなるのだろう。もう意識が、存在が消える。


 薄れ行く意識の中、消え行く視界の片隅に彼は星の光を見た。それが彼の故郷なのだろうか、それは彼のみが知ることだった。


 彼は夢にも思うまい。まさか自分を殺したあの凶暴で野蛮な巨大生物が、自らが追い求める知的生命体だったとは。

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