Ⅱ/骨董品店にて
音無リカコはマイタケ商店街で買い出しを終えると、骨董品店『プライム・アーカイバ』へ向かった。その骨董品店は彼女の友人が営んでおり、今日の鍋パーティーの会場である。音無リカコは教え子である加藤マサヒロに誘われ、鍋パーティーに参加することにしたのだ。……保護者的ポジションとして。
「蟹を獲りに行くって言ってたけど、本当かしら」
店の前に着くと彼女はそう呟き、ドアを開けた。
「いらっしゃーい。お、時間通りだね音無」
彼女を出迎えた女性の名は秋雨ツミカ。気だるげな雰囲気を纏わせている。大学時代からの友人だと彼女は記憶している。
「冷蔵庫借りるよ」
「はいよ」
音無リカコは買ってきた食材をテキパキと冷蔵庫に収蔵し、秋雨ツミカは温かいコーヒーを飲みながらそれを眺めていた。音無リカコは友人が多い方ではなかった。それは秋雨ツミカも同じだった。
「今日は全部で何人来るんだっけ?」
秋雨が尋ねる。
「たぶん、六人くらい」
「たぶんって…………」
まあいいか、と秋雨はコーヒーを飲む作業に戻った。大人数で集まるのは彼女たちにとって滅多にないことだ。
「ところでさあ、秋雨」
「なに?」
「この店、ずいぶんと物増えたよね」
「そりゃあ骨董品店だもの。物くらい増えるよ」
「それはそうなんだけど、流石に狭いと思う」
「広い空間って苦手なのよね」
「はぁ……。片付けるって発想ないのかしら。これじゃ鍋を囲むスペースもないと思うんだけど」
「ああ、それなら大丈夫よ。二階は片付けておいたから」
「そういうこと。それなら大丈夫そうね。ねえ、皆が来るまでまだ時間あるし、私にもコーヒー淹れてくれない?」
「はいよー」
秋雨ツミカはコーヒーミルを取り出し、豆を挽き始めた。今時にしては珍しく手動のミルである。ガリガリと豆を挽く音だけが響く。