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第5話『おっさん、訪問を受ける』

一週空いた上に短くてすいません……。

 パンテラモータースを訪れた敏樹は、さっそく事務所に通された。

 ネットオークションに出したものはすべて落札され、取引も滞りなく終了しているとのことで、敏樹はひとまず安心する。

 

「とりあえず明細っす。請求書もこっちで作っといたんで」

 

 事務所に着くなり挨拶も早々に徹はA4の用紙を2枚、敏樹に渡した。

 1枚が取引明細で、もう1枚が請求書だった。

 

「えっと、これが落札価格の合計で、こっから手数料10パー引いたこっちが先輩の取り分っす」

「おお、わざわざこんなのまで……。ありがとな」

 

 まずは取引明細にざっと目を通す。

 

「んん!?」

 

 自身の取り分を見て、敏樹は目を見開いた。

 

「はっはっは。すごいな大下くん。さっそくコミューター買っとくか?」

 

 その様子を見ていたオーナーが、半分からかうように言った。

 

「さん……びゃく……?」

 

 今回の成果は、徹の取り分10パーセントを引いてなお、300万円を超えていた。

 仕入れには十数万円使っており、半数近くをロロアやシーラたちに与えたことで赤字にならなければいいか、くらいの気持ちで挑んだのだが、蓋を開けてみれば大幅な黒字である。

 

「どうなってんだこれ?」

 

 一点一点の落札価格を確認したところ、大半は数万円だったが、100万円を超えるものが1点あった。

 それはファランが“最も価値がある”と評したバッグであり、他にもククココ姉妹が高評価を与えた数点が50~80万円で落札されていた。

 

「金額に問題がなければ請求書にサインおねがいしゃっす。現金でよければすぐ渡せますし、振込がいいなら口座情報をそこに書いといてください」

「お、おう……問題は、ない……かな。あと、現金でくれると助かる」

「うっす。じゃああとで用意するっす」

 

 パンテラモータースは『1億円まで即金で買い取ります』という謳い文句を出しているので、300万円程度はすぐに用意できるのだろう。

 

「えーっと、大変なことってのはこの金額のことか?」

 

 請求書にサインを終えて問いかけたが、徹は首を横に振った。

 

「いえ。まぁ100万超えにはちょっとびっくりしましたけど、ブランドもの出品すればたまにある話っすからね」

「そ、そうなんだ……」

「たぶん、もうそろそろ来ると思うんすけど……」

「くる? なにが?」

 

 そう敏樹が問いかけたところで、なにやら慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「すいませーん! おまたせしましたー」

 

 そして外から男性の声が聞こえてきた。

 

「おー、きたきた。開いてますよー!」

「はいはい、お邪魔しますね」

 

 ガチャリと事務所のドアが開くと、一見して上等なスーツに身を包んだ初老の男性が、ダンボール箱を抱えて入ってきた。

 

「いやはや、おまたせして申し訳ありません……。おっとこれはお見苦しいところを」

 

 事務所に入った男性は床にダンボール箱を置き、ポケットからハンカチを取り出して額や首筋の汗を拭う。

 そうしているうちに呼吸が整ったのか、随分と落ち着いた雰囲気となった。

 

「おや、真山さま。こちらの方が……?」

 

 敏樹の存在に気づいた男が、ちらりと徹を見て問いかける。

 

「そうっす。大下先輩っす」

「そうでしたか!」

 

 そう言って敏樹に向き直った男は、懐からだした名刺入れから名刺を一枚取り出して、軽くお辞儀をしながら敏樹に渡した。

 

「はじめまして大下さま。近藤と申します」

「ああ、ご丁寧にどうも。えっと、すいませんがあいにく名刺は……」

「いえいえお気になさらず」

「すいませんね。えーっと……んん? 代表……取締……」

 

 その名刺には世界的に有名なブランドの日本法人名が書かれており、近藤の肩書は代表取締役社長となっていた。

 

「は? え? 社長さん……? なんで……?」

「それはもちろん、大下さまがいらっしゃると伺ったからですよ」

 

 うろたえる敏樹に対し、近藤は落ち着いた様子で穏やかに答える。


「俺がくるから? わざわざ……えっと……東京から?」

 

 名刺の住所を確認し、敏樹が問い返す。

 

「はい、さようでございます」

「いや、でも……俺、さっきこっちに帰ってきたばっかで……、あれ?」

 

 戸惑う敏樹を見かねて徹が間に入る。

 

「あー、大下先輩。この人ね、ここ何日かそこのマンション借りて寝泊まりしてるんっすよ」

 

 そこで敏樹が思い出したのは、彼が高校生くらいのころに新設されたマンションだった。

 パンテラモータースから徒歩4分のところにマンションが建つと知った時、こんな田舎でマンションに住む人がいるのかと疑問に思ったものだが、実際蓋を開けてみれば常に部屋が埋まっているという状態だった。

 そういえば通っていた高校の教師がそのマンションに住んでいるという話も聞いたことがある。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 

「わざわざマンションに? なんで?」

「それはもちろん、大下さまに1秒でも早くお会いするためですよ」

 

 相変わらず冷静さを取り戻せない敏樹の疑問に、近藤は穏やかな、それでいてどこか隙のない笑顔を浮かべて答えた。

 

「なんで、俺に……?」

「ははは、先ほどから質問されてばかりですなぁ」

「ああ、その……すいません」

「いえいえ、お気になさらず。しかし大下さまの疑問にお答えする前に、こちらからも一点お聞かせいただいても?」

「ええ、まぁ」

 

 すると近藤はポケットから薄手の白い手袋と取り出してはめ、床に置いていたダンボール箱を開けて中身を取り出した。

 それは白い不織布に包まれており、その包みを取ると見覚えのあるバッグが現われた。

 

「あ、それ……」

「ふふふ。これを出品されたのは大下さまでございますね?」

 

 それは落札価格が100万円を超えたバッグだった。


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