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第4話『おっさん、販売ルートを見つける』

 ファランたちによるブランド物の鑑定を受けた翌日、ロロアと実家に帰った敏樹は、さっそく中型免許の教習を受けた。

 

「もしかして大下さんって、4トン運転したことあります?」

 

 隣に座る教官が、4トントラックを軽々と運転する敏樹を見て少し驚いたようにそう言った。

 敏樹の持つ古いタイプの自動車免許――現在は『8トン限定中型免許』と呼ばれる――だと、4トントラックを運転することは可能だ。

 

「いえ、初めてですけどねぇ」

 

 しかし敏樹はこれまで4トンどころか軽トラックすらまともに運転したことがなかったし、そもそもマニュアル車を運転すること自体、二十年以上前に受けた教習以来だった。

 にもかかわらず、敏樹は初めて運転するはずの4トントラックを手足のように動かすことができたのだった。

 

(〈馭者〉スキルの影響……?)

 

 異世界のスキルや魔法はこちらの世界では使えない。

 しかし、完全に無効化されるかと言うと、どうやらそうでもないことが最近わかった。

 その顕著な例が、獣人やドワーフなどの筋力だろう。

 ロロアやシーラ、ククココ姉妹などは、こちらの世界基準で言えば平均的な女性レベルの細腕なのだが、その筋力は常人のそれを遥かに超えている。

 筋力は筋肉の断面積に比例するというこの世界の(ことわり)を明らかに逸脱した現象なので、敏樹は一度、折を見て町田に問い合わせてみた。

 

『だって、世界を渡った瞬間、いきなり大幅に身体能力が下がったりしたら、日常生活に支障をきたすじゃないですか。そのへんはちょっとだけ大目に見てますよ』

 

 というのが彼女の答えだった。

 その気になればあらゆるスポーツの世界記録を軽々と塗り替えられるだけの身体能力を維持する、というのが“ちょっとだけ”という表現にとどまるのかどうかは議論の余地がありそうだが……。

 となれば、敏樹が異世界で得た能力もある程度はこちらの世界にも反映されると見ていいだろう。

 

 午後の早い時間にその日のカリキュラムを終えた敏樹は、パンテラモータースを訪れた。

 そこで、現在中型免許の教習を受けていることと、11人以上乗れる車を探していることをオーナーに伝えた。

 

「中型なんて中途半端なもんじゃなくて、大型取りゃよかったのに」

「あー、いえ。中型で充分です」

 

 家から一番近い教習所では大型自動車免許の教習がなかったので、敏樹は中型自動車免許の教習を受けることにした。

 もし大型自動車免許の講習も受けられるのであればもしかすると受けていたかもしれないが、中型でも29人までのマイクロバスを運転できるのだから、それで充分と考えていいだろう。

 

「で、何人乗りくらいが欲しいんだい?」

「11……、まぁ余裕を見て12~13人くらい乗れれば充分かなと」

「だったらコミューターでいいか。見てみる?」

「え、あるんですか?」

 

 驚く敏樹に、オーナーは髭を蓄えた口元をニヤリと持ち上げる。

 

「中型免許ってのができたときにね。誰かが買いに来るんじゃないかと思って仕入れてるんだよ」

「へええ。じゃあ結構売れたり……?」

「この辺のそこそこ車好きな連中は新しいものに目がないからな。中型免許が新設された当初は年に3~4台のペースで売れてたし、いまでも年に1台は売れるから、常に在庫は持っておくことにしとるんだわ」

 

 案内された先にはグレーの大きなワゴン車があった。

 

「こいつが14人乗りのコミューターだ。4年落ちで車体300万。新車だと400万くらいだから、まぁちょっと頑張って正規ディーラーで新車買うってのもありだとは思うけど」

 

 車体にほとんど傷はなく、内装もかなりきれいだった。

 

「中型免許ができたってんで、ノリで買ったはいいものの結局使い勝手が悪くて手放す、てのがちょくちょくあるみたいでね」

「あー、なるほど」

「そうだな。大下くんなら、バッテリーとかタイヤとか総とっかえで、ガラスコートもつけて乗り出し300万にしとくよ」

「んー……」

 

 腕を組んで頭をひねる敏樹を見てオーナーがクスリと笑う。

 

「ま、そうそう売れるもんじゃないからゆっくり考えときな」

「……そうですね」

 

 さて、その資金をどうやって稼ぐべきかと思いつつ店を出ようとしたところで、ひとつの看板が目に入った。

 

『オークション出品代行やってます!』

 

「あの、親父さん、あれって……?」

「ん? ああ、ありゃ徹が始めたサービスだ」

 

***********

 

「たとえばタイヤ交換した場合、古いタイヤの所有権はあくまで車の持ち主のものなんすよ。もちろんウチで買い取ってもいいんすけど、ネットオークションとかフリマアプリで売ったほうが高く売れるんすよね」

 

 あのあと徹を呼び出してもらった敏樹は、オークション出品代行について説明を受けていた。

 

「で、そのことを説明すると“じゃあ代わりにやってよ”なんて人が結構いたんすよ。だったらってんで、ウチの買取価格より高くなったぶんの何パ―かを報酬としていただく、っていう感じで始めたんすけど……これが結構好評でしてねぇ」

「なるほどねぇ。これって扱ってるのは車の部品だけ?」

「最初はそのつもりだったんっすけどねぇ。ついでにってんで最近はいろいろ引き受けてますよ。ゲーム機とか時計とか、あとブランド物のバッグとか」

「マジか!? 徹、お前いまから時間あるか?」

「は、はい……?」

 

 敏樹は半ば強引に徹をガレージへと連れてきた。

 

「あ、トオルさん。こんにちは」

 

 ガレージではロロアがひとりで漫画を読んでいた。

 

「おー、ロロアさんちぃーっす! 今日も可愛いっすね!!」

「や、そんな……」

 

 徹の言葉にロロアは照れてうつむく。

 その様子を見て敏樹は徹の頭を軽く小突いた。

 

「わかりきったことは言わんでいいから、さっさとこっち来い」

「ってて……」

 

 敏樹の言葉にロロアはさらに顔を赤くしたのだが、彼女は身を縮め、読んでいた漫画本で顔を隠してしまった。

 

「これなんだけど、頼めるか?」

 

 徹を連れてきた場所には、異世界で修繕したブランド物がいくつかの箱に分けて詰め込まれていた。

 

「おお! ブランド物ばっかじゃないっすか!! 先輩これどうしたんすか?」

「あー、なんというか、仕事で腕のいい職人と知り合ってな。ジャンク品のリペアを頼んでみたんだわ」

 

 完全な嘘っぱちだが、まさか“異世界スキルで修繕した”と言えるわけもなく、それらしい理由をつけてごまかした。

 

「ほー、なるほどなるほど」

「リサイクルショップにでも持ち込もうかと思ったんだが、買い叩かれそうでな……」

「そっすねぇ。だから出品代行に興味をもったんっすね?」

 

 そう言って納得する徹に、敏樹はうなずいた。

 

「自分で出品するってのも考えたんだが、俺は日本にいないことが多いだろ? だからどうしたもんかなぁと思ってたんだわ」

「なるほど。じゃあその悩み、後輩であるこの真山徹が解消してあげましょう!!」

 

 その後、細かい条件などの説明を受けた敏樹は、ブランド物一式を徹に預けた。

 

**********

 

 それから数日後、再び実家に帰った敏樹はガレージに置きっぱなしにしているスマートフォンが鳴動しているのに気づいた。

 以前は異世界に持ち込んでいたが、向こうで〈格納庫(ハンガー)〉に入れたまま実家に帰るとこちらの世界でスマートフォンを取り出せないことに気付き、ガレージに置いていくことにしていたのだった。

 

「徹か……」

 

 そういえばそろそろオークションの結果が出る頃である。

 おそらくその結果を伝えるための連絡だろう。

 

「もしもし?」

『あーやっと出た! 先輩なにやってたんすか!?』

「なにって、仕事にだな……」

『何回もかけたんすよ? いまどき海外でも電話くらい受けられるっしょ!!』

「あー、まぁ、いろいろあってだな」

『とにかく! すぐにきてください!!』

 

 単にオークションの結果を知らせる連絡だと思っていただけに、徹の切羽詰ったような口調に敏樹は少々面食らっていた。

 

「お、おう……。どうしたんだよ?」

『どうしたもこうしたもないっすよ! 大変なことになってんすから!!』

「大変なこと?」

『だからすぐ来てくださいって! 詳しい話はそのときにしますから!!』

「お、おう、わかった」

『じゃ、ダッシュで来てくださいよっ!!』

 

 その言葉を最後に、通話は切られた。

 スマートフォンのロックを解除すると、音声通話とSMSアイコンの通知が大変なことになっていた。

 履歴を見るとどれも徹からで、SMSは折返しの連絡を促すものばかりだった。

 

「ロロア、悪いけど留守番頼む」

「はい。いってらっしゃいませ」

 

 いったい何が起こったのかと首を傾げながら、敏樹は急いでガレージを出てパンテラモータースへと向かうのだった。


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