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第10話『おっさん、打ち上げて打ち合わせる』

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 日没少し前の薄暗くなってきたころに州都セニエスクへ到着した一行は、そのまま馬車で冒険者ギルドへ行き、依頼完了の報告を終えた。


「みな、ごくろうであった! これにて護衛依頼およびDランク昇格試験は終了である!!」

「みんなおつかれー! ここまでありがとうね!!」


 試験官であるガンドと依頼主であるファランの言葉で一連の行程は締めくくられ、そのまま打ち上げへとなだれ込む。

 ここまで試験官という立場から、少し酒を控えめにしていたガンドも、ようやく気兼ねなく飲めるということで、意気揚々としていた。


「ガンドはん、グラス空いとるやんかぁ。またウチが酌したるさかいぐぃっといき、ぐぃっと」

「う、うむ……。しかし、それがし今日はもうかなり飲んでおるゆえ……」

「はぁ、残念やわぁ……。ウチ、ガン兄ぃのカッコええとこもっと見たかってんけどなぁ……」

「むむむっ!? そう言われて無様な姿を見せるわけにもいかぬな」


 そう言ってガンドはククココ姉妹に勧められたワインを一気に飲み干した。


「ぷはぁっ……!! しかし、さすが州都のワインはひと味違うな。喉越しが鋭いというかなんというか、とにかくこの程度の量でここまで酔いが回るとは……」


 それはそうだろう。

 なにせガンドのワインにだけ微量だがウォッカが混ざっているのだから。

 さらに、酔いが回るに連れウォッカの比率を上げているので、ククココ姉妹の酌でワインを飲み続けているガンドのアルコール摂取量は、開始早々かなりのものとなっている。


「あははー。お兄さんいい飲みっぷりだねぇ! でも無理しちゃダメだよ? はい、お水」

「おお、ファラン殿かたじけない……!!」


 ガンドはすこしふらつきながらも、ファランから受け取ったグラスをあおる。


「ふぅ……。しかし、この水もなにやら妙な味がしゅるにょぅ……」

「そりゃ森の湧き水を使ってるヘイダのおいしい水と比べちゃだめだよー」


 もちろん水にもウォッカが入っている。


「ふみゅぅ……しょれもしょうかにょぅ……。しょれがし……ワインをもう、いっぱい…………んごぉ……」


 そしてガンドは早々に潰されてしまった。


「ははは……、ドハティ商会の『女傑』にかかっちゃぁ『酔乱斧槍』も形無しだな」

「ん? 女傑って?」


 ジールのつぶやきを敏樹が聞きとがめた。


「ああ、あのお嬢ちゃんが帰ってきてから、ドハティ商会の業績がぐんと伸びててな。なんでも容赦ない目利きと交渉で、涙をのんでヘイダを去った商人が何人もいるって話だ」

「へええ」

「まぁ、文句を言ったり町を去ったりするようなのは元々あまり評判の良くない人たちばかりですけどね。多くの商人には概ね好評ですよ、彼女は」


 ジールの情報をモロウが補足する。


「そっか。頑張ってんだなぁ、ファランたちも」


 その後、賑やかな打ち上げは夜更けまで続いた。


**********


 ――コンコン。


 翌朝、日が少し高くなり始めたところで目覚めた敏樹は、ロロアを連れてファランの部屋を訪れていた。


「ふぁーい……」

「ファラン、俺だ。起きてるか?」

「あー、うん……おはよぅ……」


 室内からトコトコと足音が近づいてきたあと、ガチャリとドアが開いた。


「すいません、おまたせしました……」


 迎え入れてくれたのは、まだ眠そうなベアトリーチェだった。


「おい、その恰好……」


 寝起きのまま出てきたのか、ベアトリーチェはキャミソールにショーツのみという姿だった。

 身体の大きいベアトリーチェは、もちろんというべきかいろいろな部分も体に合わせて大きい。

 薄衣越しに見える見事なものに、敏樹は思わず目を見開いてしまった。

 

「ああ、これはお見苦しいものを……」


 硬い髪質のせいか結構ひどい寝癖のベアトリーチェだったが、その乱れた髪と無防備な恰好とが相まって、なにやら妙な色気を感じてしまう。

 寝起きの本人は無自覚なようだが。


「どうぞ中へ。ファランは先にシャワーを浴びるようなので、少しお待ちください」


 敏樹らを迎え入れたあと、部屋の奥に戻っていくベアトリーチェの後ろ姿もまた、なかなか見ごたえのあるものだった。


「トシキさん、見すぎです」

「あ、ごめん」


 寝室へ戻っていくベアトリーチェの腰回りにほぼ視線が固定されていた敏樹を、ロロアが小声で窘める。


(四十にもなればもう少し枯れるもんだと思ってたんだけどなぁ……)


 男というやつは、いくつになっても本能には逆らえないものであるらしい。


「や、トシキさん、おはよ」


 寝室に戻ったベアトリーチェに替わってファランがリビングに現れる。

 バスルームへ行くのに、リビングを通る必要があるのだ。


「悪いけど先にシャワー浴びるね。適当にくつろいでて」

「お、おう……」


 そういって恥じらう様子もなくスタスタと歩くファランは、ブラウス1枚のみという恰好だった。

 それは彼女のが普段着ているものなので、丈はそれほど長くない。

 つまり、動きや角度次第ではいろいろと見えてしまう……、というか実際チラリと見えてしまった感じだと、どうやらファランはブラウス以外なにも身に着けていないようで、さすがに敏樹は目をそらした。

 対象がベアトリーチェならともかく、ファランはまだ15歳。

 事案である。

 敏樹のちょっとした動揺を感じ取ったのか、ロロアはクスリと微笑した。



「やー、おまたせおまたせ」


 身なりを整えたファランが敏樹らに向かい合ってふわりと座り、ベアトリーチェもその隣に腰を下ろした。

 結局あのあとすぐにベアトリーチェも寝室から現われ、ふたりで一緒にシャワーを浴びていた。


「さて、ようやく州都に来て、ここからが本番なわけだけど……、まずは朝ごはんにしようか」


 敏樹とロロアがリビングのソファに座って間もなく、ホテルのルームサービスが運ばれてきた。

 最初はティーセットとクッキーなどのお茶請けのみで、ファランたちがシャワーから上がったあとに替えのティーセットとサンドイッチやサラダなどの軽食が運ばれ、ローテーブルに並べられた。


「じゃ、遠慮なく」

「いただきます」

「どうぞどうぞー」


 4人はサンドイッチやフォークを片手に、会話を始めた。


「さて、まずは何をすればいい?」

「んー、なにをするにしても、まずは監察署に行ったほうがいいような気がするなぁ」

「でもいきなり行って相手にされるかね?」

「そりゃ最初はまともに相手されないかもしれないけど、どういう条件で動いてくれるかは確認しといたほうがいいんじゃないかなぁ」

「ふむう、確かにそうか……。でも、天帝直轄の組織なんだから、忙しくて門前払いなんてことにはならないか?」

「いやぁ、たぶん暇じゃないかなぁ」

「そうなのか?」

「うん。犯罪の取り締まりは憲兵や警備隊がやるからねぇ。天監が動くことなんて、めったにないと思うよ?」


 天網を取り締まる天網監察は、略して天監と呼ばれることが多い。


「行けば話ぐらいは聞いてもらえるか……」

「ま、なんにせよ顔くらいは見せておいたほうがいいかもね」

「そうだな。じゃ、さっそく行こうか。場所はわかるか?」

「もっちろん! 任せといてよ!」


 朝食を終えた4人は、ひと息ついたあとホテルを出た。


「へぇ……。いい雰囲気の町だな」

「そうですねぇ……」


 ホテルを出て、改めて町並みを見た敏樹とロロアが、感嘆の声をあげる。

 昨日は薄暗いときに町へ着いた後、そのまま打ち上げを行ない、暗くなってからホテルに戻ったので、あまり町並みを見ることができなかった。


 あらためて目にしたセニエスクの町並みは、ヘイダの町より人や建物は多いが、商都エトラシにくらべると落ち着いた雰囲気がある。

 建物も古めかしいものが多く、エトラシよりも歴史を感じさせた。


 ちなみに他のメンバーだが、ガンドはご存知の通り潰れており、ジールたちもしこたま酒を飲んでいたので同じく夢の中だろう。

 ククココ姉妹もかなり飲んでいたので昼過ぎまでは起きてこなさそうである。

 クロエとラケーレはほどほどに楽しんでいたので、今日は適当な時間に起きて州都見物をするということだった。

 シゲルは例のごとくギルドの訓練場に行きたがったので、シーラたちにお守りを任せてある。

 なので、シーラたちも昨夜はほどよく楽しむ程度に抑えていた。


「じゃ、行くよみんな」

「おう」


 敏樹らは、ファランを先頭に州都を歩き始めた。


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