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第7話『おっさん、金策について考える』

 ロロアと隣町の温泉を堪能した翌日、敏樹は近所のショッピングモールにある貴金属買い取り店を訪れていた。

 この場には敏樹しかおらず、ロロアはガレージで漫画を読みながら留守番中である。


「なるほど、大掃除をしていたら出てきたわけですね?」

「ええ、まぁ」

「そういうお客さま、結構多いんですよねぇ」


 フレンドリーに話す店員の手元には、金製のアクセサリーがいくつか並べられていた。

 これらは昨日ファランから買い取ったもので、日本でも手に入りそうな、シンプルなデザインのものばかりを選んでいた。


「うーん、素敵なお品ばかりですが、ブランド品ではありませんので、重さでの買い取りになりますがよろしいですか?」

「ええ、もちろん」

「まぁ、見たところどれも品質は良いので、ちゃんとした額で買い取らせていただきますからご安心くださいませ」


 その後、なんのかんのと査定やら手続きやらが終わり、敏樹はその場でサラリーマンの平均月収くらいの現金を手に入れることができた。


「またなにかございました是非当店へ!」

「ええ、どうも」


 店員に見送られ、店をあとにする。

 わずかな時間と手間でそれなりの額を稼ぐことに成功した敏樹だったが、あまり浮かれてはいなかった。


(そう何回も使える手ではないんだよなぁ……)


 異世界でそれなりに稼いでる敏樹ではあるが、まさかこちらの銀行でゴルドと円を両替してもらえるはずもない。

 となれば手っ取り早いのはゴルドで買った物を日本で売って円を受け取るという方法だ。

 その中でももっとも効率がいいのは、日本と異世界に共通して存在する貴金属の売買である。

 念のため『情報閲覧』で鑑定したところ、金銀プラチナなどの貴金属に関してはほとんど同一のものであることが判明している。

 なので、こちらの世界に異世界の貴金属を流通させることに関して、数キログラム単位であれば問題はないだろう。

 しかし、あまり大量に、かつ継続的に貴金属を売っていると、いつ誰に目をつけられるとも知れたものではない。

 個人レベルの売買で双方の世界の経済に大きな影響を及ぼすなどということはあるまいが、下手に出処を疑われるようなことになると非常に面倒なことになりかねないので、田舎の個人宅に眠っているであろう量を大幅に上回らないよう気をつけたほうがいいだろう。


(こうなると、カードの引き落とし口座を変えさせられたのはかえってよかったのかもな)


 敏樹のメインバンクの口座は彼の異世界行きが決まったあたりで、引き出しのみができる奇妙な状態となり、公的には存在しないものとなった。

 つまり、カードの引き落としなどもできなくなったわけである。

 そこで敏樹は、別に持っていた口座にある程度現金を移し、そちらをクレジットカード用の引き落とし口座としていたのだ。

 そちらの口座にそこそこ余裕を持たせて預金しているので、資金面で切羽詰まっているというわけではない。

 しかしいずれそちらの資金が尽きるのはわかりきっていることであり、異世界でのポイントのことを考えればメインバンクからの補填は避けたいところである。


(とりあえず金が売れることは確認できたし、いざという時は頼らせてもらおう)


 そう頻繁には使えない貴金属を売るという手段だが、裏を返せば時々なら使えるということである。

 こういう非常手段があるのとないのとでは、今後の行動や思考にも大きな差が出るだろう。


(さて、ロロアを長いことひとりにするわけにもいかないし、そろそろ……あ――)


 用も済んだところで帰ろうとした敏樹だったが、あることを思い出す。


(たしか、あれの新刊出てたよなぁ)


 ガレージを出る前にロロアが読んでいた漫画の新刊が出ていることを思い出した敏樹は、ショッピングモールの二階にある書店へ足を向ける。


「お、あったあった」


 目当ての本の他に、ロロアが好きそうな漫画を数冊手に取った敏樹は、会計をすませてショッピングモールを後にしたのだった。


**********


「あ、トシキさん!!」


 一度実家に戻り、バイクに乗り換えてガレージへと帰ってきた敏樹のもとに、ロロアが駆け寄ってくる。


「ただいま」

「おかえりなさい! あの、トシキさん、これの続き――」

「あるよ」


 敏樹が先ほどショッピングモールの書店で買った漫画を差し出すと、ロロアは大きく目を見開き、続いて笑顔になった。


「わぁ、ありがとうございます!!」


 読書を再開したロロアの傍らで、敏樹はノートPCを開いて調べ物を始めた。


(やっぱむこうの物をこっちで売るのがいいのかねぇ……)


 継続的に円を稼ぐ方法を考えながら、あーでもないこーでもないと、いろいろなウェブサイトに目を通していく。


(ふむふむ……、こうなると、ファランに協力をあおぐのが良さそうだな)


 そしてある程度考えがまとまるころにはいい時間になったので、簡単なもので食事を済ませて異世界に戻ることにする。


「ロロア、メシ食ってるときくらいは本置きなよ……」

「あ、すいません、もうちょっとだけ……」


「そろそろ時間だけど、いい?」

「すいません、この巻だけ読ませてください……!!」


「いや、ロロア、なんで次の巻開いてんの?」

「あ、いや、いいところで終わってて続きが……」

「もういい時間だから行くよ?」

「えっと、その……、続き持って帰っちゃだめですか?」

「まぁちょっとくらいならいいけど……って、それは抱えすぎ! いや、そんな目で見られても…………。わかったよ……、じゃあそれだけ持っていっていいから、とりえあえずジャージは着替えようか……。外で待ってるからね……」


 少々ぐったりとしながら居住スペースから敏樹が出た数分後、いつものワンピースに着替えたロロアが両手いっぱいに漫画を抱え、満面の笑顔で現われた。



「……で、ロロアちゃんは今もお部屋で読書中ってわけか」

「そういうこと……」


 敏樹の話を聞いたファランがからかうように笑い、ふたりの会話が聞こえていたであろうベアトリーチェも呆れたように苦笑を漏らす。


 異世界に戻った敏樹は早速ファランに相談を持ちかけることにした。

 男ひとりで女性の部屋を訪れることに抵抗があったので、敏樹はロロアも誘ったのだが……、


「ベアトリーチェもいるから大丈夫ですよー」


 と、誘いを断られてしまったのだった。


 現在ファランの部屋には護衛としてベアトリーチェがいるのみで、他のメンバーは商都でいろいろと活動した結果、皆一様におつかれのようで、すでに各々の部屋で休んでいるとのことだった。

 ファランも例に漏れず疲れていたのだが、


「あー日本で稼ぐ方法を思いついたからちょっと相談に乗ってもらおうと思ったんだが……」


 と切り出したところで目をキラキラと輝かせて食いついてきたので、こうやって話し合っているというわけである。


「んふふー、すっごくおもしろそうだねー」

「だろ? じゃあ手伝ってもらうってことでいいか?」

「もっちろん! でもさぁ、こっちでもできないかなぁ……、その通信販売ってやつ?」

「あー、できるんじゃないか?」

「ホントに? テレビもパソコンもないのに?」


 通信販売と言えばテレビショッピングやネットショッピングが今や主流だが、それでもカタログショッピングや雑誌、新聞広告によるものもいまだ根強く生き残っている。


「なるほど、カタログに広告かぁ……」

「通信箱だったら隣町くらいでのやり取りはできるんだろ?」


 あまり距離が離れすぎると物資のやり取りが困難になる【収納】だが、手紙くらいであれば馬車で4~5日の距離なら庶民でも気軽に利用できる料金に収まるらしい。

 であれば、例えばヘイダの町から注文書を送って商都にしかないような商品を受け取る、というのは充分に可能である。


「あ、ちょうど雑誌があるから見てみるか?」

「うん!」


 敏樹は〈格納庫(ハンガー)〉から漫画雑誌を1冊取り出した。

 これは単行本からの続きが気になるということで、ロロアが持ち込んだものである。


「へええ! なるほどねー……。にしてもトシキさん、本をすっごく綺麗に保管してるんだね」

「綺麗に? いやべつにそんなことは……ん? これは……」


 別途もう1冊雑誌を取り出してみたところ、随分読み込んでくたびれていたはずの物が新品のようになっていた。


「そうか、日本のものでも〈格納庫(ハンガー)〉の機能で綺麗にできるのか」


 〈格納庫(ハンガー)〉の修繕機能が日本製のものにも有効であることついてはトンガ戟や片手斧槍で検証済みであったが、敏樹の意識としてはあくまで武具のメンテナンスという位置づけだった。

 なので、それ以外のものに修繕機能を使うことはほとんどなかったのだが、これらの雑誌に関してはロロアとの共有スペースに収納されており、おそらくは彼女が修繕機能を使ったのだろう。


(……てことは?)


 試しに長年使った財布に修繕機能を使ってみる。


「おおっ!!」


 10年以上使い続けてかなりくたびれていた財布が、多少の使用感はあるもののかなり綺麗な状態となった。

 新品とまではいかないが、リサイクルショップの店頭に並ぶくらいの品質にはなっている。


「これは……」

「おやおやぁ? トシキさん、なにか思いついたー! って顔してるよー?」

「そ、そうか?」

「まさか、ボクの協力がいらなくなったりなんてことは……」

「いや、それはない。協力は頼むよ」

「オッケー。じゃあ詳しい話はまた後日ってことで」

「そうだな。なんやかんやいっても、いまは試験中だしな」


 明日以降の行動に支障が出ても困るので、この日は1時間ほど話し合ったところでお開きとなった。


「さて、通信販売についてはちょっと父さんとも相談してみようかな」


 しばらく後にドハティ商会がこの世界における通信販売の先駆けとなるのだが、それはまた別の話。


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