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第4話『おっさん、昇格試験継続中』

地名を間違えてました。

州都マトユム→州都セニエスク

マトユムは王都でした……。

「では今回の行程だが、まず3日かけて商都エトラシへ向かう。そこで1日を過ごしたあと、州都セニエスクへ向けて出発。同じく3日で到着し、セニエスク冒険者ギルドに報告を行なった時点で試験は終了となる」

 敏樹らを見回しながら、ガンドが試験内容の説明を続ける。

「襲い来る魔物や賊の類を退けて依頼人を護るのはもちろん大事だが、野営や食事など、旅に関わるものすべてが採点の対象になると思っていただきたい。結果は目的地到着の翌日に出る予定なので、それまではセニエスクに滞在することをおすすめする」

 その他諸注意が終わったところで敏樹が手を挙げる。

「あの、帰りはどうなるんですか?」

「うむ。帰りも依頼人のご厚意で受験者を雇っていただけることになっている。だがしかし!!」

 そこで言葉を切ると、ガンドは敏樹ら受験者ひとりひとりに目を配った。

「行きは試験ゆえの特例として護衛の随行を許すが、帰りは通常依頼である。もし昇格試験に合格できなかった場合、Eランク冒険者を随行員として認めることはできぬ」

「つまり、不合格者は単独で帰れと?」

「いや、同行していただくのは大いに結構。だが、報酬は出ぬよって、その点だけご留意願いたい」

 そこまで言ったところで、厳しかったガンドの表情が緩んだ。

「なに、合格してしまえばいいのだよ。諸君なら問題ないと、それがしは思っておるのでな。あー、それから……、その、シゲル殿」

「んぁ?」

「訓練のおりは師と仰いでおりますが、いまは試験官と受験者という立場ゆえ、この場はそれがしの言うことに従っていただく。よろしいな?」

「あぁ?」

 不満げな声を上げたシゲルの頭を、敏樹が軽く小突く。

「いて。なにすんだよ親父ぃ」

「ガンドさんは冒険者として俺らよりも先輩で、ランクも高いんだ。この場だけじゃなく、訓練以外のときはちゃんと敬うように。いいな?」

「おう、親父が言うんならいいぜぇ」

 シゲルが敏樹の言うことを素直に聞いたことで、ガンドはひとまず安堵する。

「ではそろそろ準備も終わりそうであるな」

 今回の旅程では2台の馬車が用意された。

 1台はファランたち依頼人が乗るドハティ商会所有のもの。

 もう1台は冒険者たちが乗るギルド所有のものである。

「へぇ、冒険者も馬車を用意してもらえるんだな」

「馬車なしでどうやってついてくるのさ? まさか馬車に合わせて走れなんてことは言えないからね」

 敏樹の素朴な疑問にファランが答える。

 馬車の護衛と言えば、並足でゆっくり走る馬車の周りを冒険者が徒歩で護衛する、というのが敏樹の持っていたなんとなくのイメージである。

 馬の性能が元の世界と変わらなければ、並足で進む馬車の速度は時速5~6キロメートルなので、徒歩での同行も可能だろう。

「まぁ。馬はでかいよな」

 今回の馬車につながれているのは、クァドリコーンやディケムコーンといった有角馬ではなく普通の馬である。

 が、この世界の普通の馬は、敏樹の知る元の世界の馬よりもひと回りほど大きかった。

 ユニコーンを頂点とする有角馬と普通の馬とは交配により混血馬を生むことができる。

 この世界における有角馬と馬との交配の歴史は長く、それなりの地位にあるものが使う馬であれば多少なりとも有角馬の血を引いているのだ。

 角のような身体的特徴が現われていなくとも、有角馬がもつ筋力や持久力、〈重力制御〉や〈慣性制御〉といった固有能力を持ち合わせている馬は少なくない。

 そういった馬の能力に加え、車体の方にも【振動軽減】などの魔術が付与されているため、一般的な馬車の平均速度は時速20キロメートル前後となり、とても徒歩で随行できるものではない。

「出発!!」

 ガンドの号令とともに2台の馬車が走り出した。

 冒険者の馬車が前を、依頼人の馬車がうしろを行く。

 冒険者の馬車はガンドが馭者となり、その隣にひとり、左右と後方にある見張り用の席にそれぞれひとりずつが着く。

 さらに依頼人用馬車の後方にもひとり見張りを立て、1~2時間ごとに休憩をはさみつつ、見張りを交代する。

「これだけ速いと、魔物も襲いづらいですよね」

 ガンドの隣に座る敏樹が、前方を警戒しながら話しかける。

 自動車やバイクに比べればかなり遅いが、少し速めにこいだ自転車程度の速度は出ており、馬車という環境のせいか体感速度は決して遅くなかった。

「うむ。ゴブリンやコボルトは容易にふりきれるな。しかしハウンド系の魔物は群れでしつこくちょっかいを掛けてくることはあるぞ?」

 ガンドの言うとおり、途中ステップハウンドという犬型魔物の群れが馬車と並走を始めたが、敵が手を出す間を与えずロロアの弓とモロウの魔術で退けた。

 その後とくに問題なく一行は進み、日没後に野営となった。

 ファランたちとガンドやシーラたちは馬車を寝台として使えるが、敏樹ら受験者はテントを立てる必要がある。

 また見張りの計画も立てなくてはならないが、このあたりのことについてガンドからの助言はない。

「じゃあふたりずつ2時間交代で」

 敏樹とロロア、シゲルとジール、ランザとモロウが二人一組となり、2時間ごとに交代することになった。

 通常であれば眠る必要のないシゲルひとりが一晩中見張りに立てばいいのだが、いまは試験なので、見張りの計画や実行も採点の対象となるだろう。

 その日は問題なく朝を迎えることができた。

*********

 2日目の日中も問題なく進んでいたが、途中で1台の馬車が近づいてきた。

「商都へ向かうのでしたらご一緒しませんか?」

 話しかけてきたのは人の良さそうな中年の男で、おそらくは商人と思われる。

 若い獣人女性従者との二人旅のようで、馬車もそれを引く馬もファランのものに比べてひと回り小さい。

「受験者諸君で相談して決めるように」

 そこで敏樹はまずファランに確認を取った。

 自分たちを雇っているのはドハティ商会であり、他者を同行させるかどうかは依頼主の判断を仰ぐ必要があるはずだ。

「んー、護衛のタダ乗りはあんまり褒められた行為じゃないんだけどねぇ」

 商人や旅人の中には、護衛代を節約してあわよくば他所の護衛に守ってもらおうという者も少なくない。

 今回のように声をかけてくるのはまだマシなほうで、だまってあとをついてくるという連中も結構いるのだとか。

 もちろんそんな連中を守ってやる義務もないのだが、目に映る範囲でトラブルに巻き込まれた場合、見捨てるのも気が引けるというものだ。

「トシキさんたちの判断に任せるってことで」

 ファランの答えを受け、敏樹が代表で商人と話すことになった。

「えっとですね、俺たちはこの馬車を護衛する必要がありますので、他の方を同行者に加えるのはお断りさせていただきます」

 その答えに商人は少し目を大きく開いたが、とくに気分を害した様子はなかった。

 

「あはは、そりゃそうか。では縁があれば商都でお会いしましょう」

 とこの場での話は終わったのだが、当の商人は敏樹らの後ろに付かず離れずの距離でついてくる。

(まぁ、目的地が同じだから仕方ないよなぁ)

 あまりいい気分ではないが、追い払うわけにもいかず、といって撒くほどのことでもないので、敏樹らはついてくる商人の馬車を無視することにした。

 この日もハウンド系の魔物を適当に散らしながら――後をつけている商人たちも恩恵にあずかったが気にしないことにして――進み、日没と同時に野営となった。

「微妙な距離だなぁ」

 後をつけてきた商人たちは、ぎりぎり声が届くであろう距離に止まり、野営の準備を始めていた。

 もし敏樹らに何かがあれば気付ける距離なので、上手く逃げることが可能だろう。

 自分たちになにかがあった場合は、助けを求めるつもりだろうか。

「じゃあ見張りは昨日と同じ感じでいいね」

 テントを張り、携帯食料での食事を終えた一行は、見張りを残して眠りについた。

 そしてシゲルとジールが見張りについた深夜のこと。

「おぅ、気づいたかぁ?」

「ん? なにがだ」

「うしろの馬車からひとり、あっち向かって静かに走っていったぜぇ」

 そう言ってシゲルが示す先は、街道から離れた草原であった。

 その先には雑木林があるはずだ。

「どうする? みんな起こすかい?」

「あー、別にいいんじゃねぇかぁ」

「……だな」

 それからしばらく経ち、シゲルたちの見張りが終わろうかというときである。

 シゲルはスンと鼻を鳴らすと、ニヤリと口角を上げた。

「お客さんだぜぇ」

「へぇ……」

 シゲルの言葉を受けてジールが耳を澄ますと、かすかにではあるが草を踏みしめ足音が複数聞こえてきた。

「みんな起こしてくるわ」

「おう」

 シゲルは槍を手にゆらりと立ち上がり、ジールは大剣を担いでテントに向かった。

 ジールによって起こされた敏樹とロロア、ランザとモロウだが、ロロアがファランたちを起こしに、モロウはガンドたちへ知らせに行った。

 敏樹とランザはジールとともにシゲルと合流。

 ロロアはファランたちのいる馬車に乗り、ベアトリーチェとともにあたりを警戒する。

 やがてモロウが呼びに行ったガンドとシーラたちが敏樹らと合流し、全員で依頼人用馬車を守るように立って警戒を高めた。

「なにかご用ですか?」

 足音がかなり近づき、〈夜目〉をもつ敏樹に10名ほどの人影が確認できたところで、彼はその集団に対して問いかけた。

 明らかに怪しい連中ではあるが、善良な旅人である可能性がゼロではない以上、先制攻撃をしかけるのもはばかられる。

「ほほう、もう気づくとは、なかなか優秀な護衛がいたもんだ」

 集団の中からひとりの男が前に出てきた。

「気づかれてるんなら話が早い。早速交渉といこうじゃないか」

「交渉?」

「そうだ。とりあえずお前が責任者ってことでいいのか?」

 男の視線と言葉を受け、敏樹はジールとガンドに視線を移す。

 ふたりが無言で頷いたので、この場はまず敏樹が仕切ることになった。

「そういうことで構わない。で、交渉って?」

「あー、できればお前らの雇い主にも出てきてもらいたいんだがなぁ」

「いや、まずは俺が聞こう。必要であれば俺から雇い主に話す」

 いかにも怪しげな集団の前にファランを出すわけにはいかないので、敏樹は即答した。

「ちっ……めんどくせぇがしゃーないか」

 男は舌打ちし、気怠そうに頭を掻きながら答えたあと、敏樹に向き直って嗜虐的な笑みを浮かべた。

「積み荷の1割、もしくは若い女ひとり。それで手を打とうじゃねぇか」

 いまさらではあるが、やはり現われたのはろくでもない連中であった。


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