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第1話『おっさん、再び異世界で魔物と戦う』

本日より第二章です。

引き続きよろしくお願いします。

 敏樹は薄暗い森の中を歩いていた。

 コンパウンドボウに矢をつがえ、弦に軽く指をかけたまま、腰を落とし、木陰に身を隠しながら、足音を殺して移動する。

 大木の幹に半身を隠すような形で立ち止まって弓を構え、サイトで標的を捉えた。

 弓がしなるとともに滑車がキリキリと回り、弦が張られていく。

 ギリギリまで引き絞ったところで、弦に引っかけた指を離した。

 狩猟用の鏃を着けた矢が目にも留まらぬ速度で飛んでいく。

 コッ! と矢が固いものを貫く音が遠くから響いた。

 その後ギャアギャアという喚き声。

 敏樹の手の中にフッと矢が現れる。

 多少もたつきながらもそれなりの所作で矢をつがえ、2発3発と矢を放っていった。


「うん〈弓術〉があればとりあえず弓は使えそうだな」


 敏樹の手からコンパウンドボウが消え、手ぶらの状態で矢の飛んでいったほうへと歩いていく。

 100メートルほど離れた場所に、5体のゴブリンの死骸が転がっていた。


「うーん、全部ヘッドショットしたつもりなんだけど、レベル1じゃこんなもんか」


 5匹中2匹は頭を矢に貫かれていたが、あとの3匹は首に刺さっていたり、1発で仕留められずに肩や胸に矢が刺さっている個体もあった。


 敏樹は〈弓術〉を習得しており、【身体強化】魔術を使って筋力を上げることで張力75ポンドのコンパウンドボウをなんとか引けるようになっていた。

 前回の探索で多少地力となる筋力が鍛えられていなければ、たとえ【身体強化】があってもこの張力のコンパウンドボウを引くのは難しかったかもしれない。

 さらに〈剛弓〉で威力を、〈遠射〉で射程を底上げし、〈視覚強化〉で遠くまで狙えるようになっているので、有効射程内であれば、ゴブリンならば一撃で仕留められるようになっていた。

 〈弓術〉のみでも威力や射程、視力の上昇はあるようだが、動作の高速化と効率化、命中精度の上昇がこのスキルの本領である。

 ちなみに戦闘系、強化系スキルは1~10万で習得でき、億単位のポイントを持つ敏樹にとっては取り放題のように思われたが、とにかく数が多いので考えなしに習得していくとあっという間に1億2億は消費してしまう。

 参考までにすべての武術系スキルをレベルマックスで習得できる〈武神〉は5000億ポイントを要する。


「さて、次は……、こっちの200メートル先にコボルトの群れか」


 ゴブリンの死骸を〈格納庫〉に入れたあと、敏樹はタブレットPCを取り出し、『情報閲覧』で近くにいる魔物を確認していた。

 敏樹は〈影の王〉を使って自身の存在を薄めつつ、小走りにコボルトの群れを目指した。

 HPとMPを大量に消費する〈影の王〉だが、使わなければスキルレベルがアップしないので、こまめに使用しながら身の安全を確保しつつレベルアップに努めていたのだった。

 コボルトの数は4匹。

 ちなみに魔物の単位はすべて『匹』で、死骸は『体』となる。


(ここならうまいこと死角になりそうだな)


 ある程度コボルトの群れに近づいたところで敏樹は木陰に身を隠し、タブレットPCを用意して『情報閲覧』を起動させ、カメラモードでコボルトの位置を確認する。

 草木などの障害物があろうとも、モニターには検索対象であるコボルトたちの位置がはっきりと表示されていた。

 敏樹はそれらの位置を頭にたたき込むと、さっさとタブレットPCを〈格納庫〉に戻した。

 〈影の王〉と『情報閲覧』の同時使用はHPとMPをかなり消耗するのである。


(よし、行くか)


 木陰に身を隠して〈影の王〉を解除した敏樹は、片手斧槍(ハンドハルバード)を取り出して構え、何度か深呼吸を行なって心身を落ち着けた。


 敏樹は木陰から飛び出し、もっとも近い位置にいたコボルトに向かって片手斧槍を振り下ろした。

 背後から襲われるかたちとなったコボルトの後頭部に片手斧槍の刃がめり込む。

 一撃でコボルトを仕留めたものの、その攻撃で他3匹に気付かれた。

 しかし敵の位置はあらかじめ把握しており、敏樹は焦らず1匹ずつ順番に仕留めていく。

 そして、それほど苦労することなくコボルトの群れを全滅に追いやることができた。


「よし、スキルの組み合わせもバッチリだったな」


 鉄工所の同級生に頼んで新調した片手斧槍だったが、前回習得した〈双斧術〉〈細剣術〉などの組み合わせで問題なく扱えようである。

 ちなみにもうひとつのオリジナル武器であるトンガ戟に関しては〈槍術〉と農業スキルの〈鍬術〉を合わせてそれなりに使えるようになっていた。

 それ以外にも日本刀類については〈剣術〉〈打刀術〉〈小太刀術〉〈大太刀術〉〈二刀術〉を習得してそれなりに使えるようになっており、素手でも戦えるよう〈格闘術〉も習得していた。

 これらのスキルも折を見てレベルアップさせていくつもりだ。


 敏樹は武器とコボルトの死骸を〈格納庫〉に収納した。『分解』機能で死骸は解体、『調整』『修繕』により武器に着いた血糊は洗い流され、研ぎ直される。〈格納庫〉の機能は再生や回帰ではないので、刃は研げばその分薄くなり、いずれは片手斧槍も刀も使えなくなるので、当分先の話ではあるが、そのうち新しい武器を手に入れる必要があるだろう。


「さて、次は魔術を使ってみるか」


 敏樹は新たな獲物を求めて森を歩き始めた。


**********


 この世界には魔法があり魔術がある。

 魔法は魔力を使って世界に干渉して何らかの現象を生み出す行為であり、魔術は魔法を使いやすく体系化した技術である。

 魔法は、効果も範囲も術者の思いのままであるが、消費魔力が多く、その効果や効率は使用者の力量に大きく左右される。

 魔術のほうはというと、消費魔力は小さいのだが効果も範囲も限定されており、使用者の力量があまり反映されない。

 この時代のこの世界のほとんどの人は魔術の方を好んで使用しており、魔法を自由に使える人はあまりいない。

 魔術を能くする者を魔術士、魔法を能くする者を魔法使いといい、それらは全く異なる存在として認識されているのだった。

 敏樹は〈全魔術〉を習得していたので、この世界で開発された魔術のすべてを、一応(・・)使うことができた。


 敏樹の視線の先には半人半豚の魔物、オークがいた。

 その身長は敏樹より少し低いぐらいだが、体格の良さは比べものにならない。厚い胸板、大きな腹、太い腕や脚など、重量級のプロレスラーを彷彿とさせる体躯である。

 その巨漢ともいうべき魔物が50メートルほど離れた場所から、敏樹目指してドタドタと走り寄ってくる姿は、なかなかの迫力があった。

 敏樹はオークの方に手をかざし、【炎矢えんし】を放った。

 本来魔術には『詠唱』と呼ばれる待機時間が必要なのだが〈魔術詠唱破棄〉を習得している敏樹はノータイムで魔術を発動できるのだ。


 燃え盛る炎の矢がオークへと飛び、その胸に突き刺さった。

 炎の矢は数秒で消え、オークは膝をつき、抉れて焼けただれた胸を押さえた。


「オーク相手に【炎矢】じゃ心許ないか」


 敏樹の放った【炎矢】は青銅並みに硬いオークの皮膚を破り、鉄のように硬い筋肉を少し抉りはしたものの、それほど深いダメージとはならなかった。

 オークが膝をついたのはあくまで【炎矢】を受けた衝撃によるものであり、倒すには至らない。

 すぐに立ち上がり、再び走り出したオークへ今度は【炎弾えんだん】を放った。

 炎でできた小さな弾丸が、【炎矢】よりも速く飛ぶ。

 【弾】系魔術は【矢】系魔術と同じ下級攻撃魔術だが、【弾】は【矢】に比べて効果範囲が小さい分、速度と貫通力に優れている。


 高速で射出された【炎弾】が、オークの眉間に直撃した。


「ブゴッ!!」


 短くうめきながら、オークが弾かれたようにのけぞり、仰向けに倒れた。


「やっぱ下級攻撃魔術じゃオークは無理か……。はぁ……」


 敏樹はしんどそうに息を吐いた後、再びオークに手をかざした。

 その先で、オークがよろめきながら立ち上がる。

 額の皮膚は焦げているが、その下の頭蓋骨にはヒビすら入っていないようである。


「しんどいけど、これでトドメな」


 敏樹は【炎槍(えんそう)】を放った。

 大きな炎の槍が、【炎弾】よりも速いスピードでオークに迫る。


「ブォ……ゴゴ……」


 【炎槍】はオークのみぞおちから入って背中を貫いて止まり、数秒の間標的の体内を焼き焦がして消え、腹に黒焦げの穴を空けたオークが力なく倒れた。


「ふぅ……」


 敏樹は大きく息を吐き出したあと、少しめまいを起こして近くの木に手をついた。

 そしてしばらく休んだあと、『情報閲覧』を使って比較的安全な場所まで歩いた敏樹は、そこを新たな拠点として追加し、〈拠点転移〉を使って洞穴に戻るのだった。


次回更新は明日(7/18)予定です

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