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第13話『おっさんのいぬ間に、代表戦3 魔術士対決前哨戦』

 弓士、軽戦士、重戦士と続いた代表戦は、魔術士対決に突入する。


「次は、大丈夫なのだろうな?」


 第2王子ヴァルターは、険しい表情で親衛隊長に尋ねた。

 軽戦士と重戦士は冒険者側が、弓士は親衛隊が勝利を収めており、ここで勝利しなければ自分たちの負け越しが確定するからだ。

 見ごたえのある重戦士対決を終えたあとの興奮は、すでに冷めているようだ。


「こちらはAランク魔術士を抱えておりますので、勝利は疑いないかと」

「だが、冒険者はこちらの思いもよらぬ戦い方をするぞ? ランクが高いからといって有利とは限るまい」

「いいえ、魔術士に限ってはランクがすべてなのです。なにせ魔術の習得数が違いますからな」


 魔術の習得はすべて魔術士ギルドが取り仕切っている。

 そして魔術士ランクによって、習得できる魔術も決まってくるのだ。


「王国内にいるBランク以上の魔術士はほとんど把握しておりますが、ここにはおりません。Cランク以下であれば上級以上の魔術は習得できませんからな」

「中級魔術では上級魔術に打ち勝てないか……。だといいのだが」


 親衛隊の列から、1人の男が小走りに現れた。

 背が低く、小太りなローブ姿の男は、ハンカチで額の汗を拭きながら、息を切らせて対決の場に立った。


「……あれは、ドワーフか?」

「いいえ、ヒトです」

「まぁ、髭は生えていないようだが」

「少なくとも曾祖父の代までヒト族しかいないことは確認しております。あれはただの不摂生による肥満でございます」

「そ、そうか……。しかし、大丈夫なのか、あんなので?」


 ほんの少しの距離を走った――といっても常人の早歩き程度のペースで――だけで息を切らせる魔術士に、ヴァルターは不安げな視線を向ける。


「あやつは実力だけで言えば宮廷魔導師になってもおかしくないほどの逸材です」

「あれが、宮廷魔導師……?」


 一地方領主に過ぎない王が宮廷などという言葉を使うことに、一部の者は失笑を禁じ得ないだろうが、本人たちは大真面目だ。


「まぁ、あのようなナリですので、放逐されたのですが、実力だけは確かなのでスカウトしたのですよ」

「いたか? あのような者が、我が隊に……」

「本来であれば魔術士隊長を務められる実力はあるのですが、性格の問題や本人の要望もありまして、一兵卒として所属させておりますからな」

「そうか……」


 千人を超える親衛隊員全員の顔を、さすがにヴァルターも憶えてはいない。

 あれほど印象的な容姿なら目についてもおかしくはないだろうが、彼自身が剣士であり、元々魔術士に関心が薄いので、記憶に残っていないのだろう。

 思い返してみれば、魔術士隊長の顔すら、ぼんやりとしか覚えていなかった。


「敵の代表は……子供か?」


 冒険者側の代表に選ばれたのは、ライリーだった。

 背が低く、華奢な体格の彼女は、遠目に見れば少女のようにも見える。


「むほぉーっ! 美少女きたぁー!!」


 親衛隊側の魔術士が、ライリーを見るなり目を輝かせて大声を上げた。

 ライリーは顔つきも幼いので、近くで見てもやはり少女のように見えてしまうのだ。


「あの男……本当に大丈夫か?」

「実力だけは、確かですので……」


 げんなりとしたヴァルターの問いかけに、親衛隊長は疲れた様子でそう答えた。


「お、お嬢さんが、せせ拙者のお相手ですかな?」


 ライリーと対峙した魔術士は、前屈みに顔を突きだし、汗を拭きながらそう尋ねた。


「ん、そう。あとお嬢さんじゃない。私は大人」

「な、なんですと!? お、おいくつですかな……?」

「ん、教える必要はない」

「で、では15歳を超えておられると……?」

「ん、馬鹿にしないで」

「も、もしや、20歳も……?」


 魔術士の質問に、ライリーは無言で頷く。


「うひょーっ! キタコレキタコレ! 合法ロリきましたぞぉーっ!!!」


 ひとりではしゃぐ魔術士に、周りはドン引きである。


「ん、合法ロリ……?」


 不愉快げに眉をひそめながらも、ライリーは聞き覚えのない言葉に首を傾げた。


「む、合法ロリをご存じない?」


 無言で頷くライリーに、魔術士は説明を始めた。


「まずもってロリータという言葉がござる。語源は不明ですが幼女少女を表すもので、数年前から王都ではやり始めたのでござるよ。そしてそれと同じころ、15歳以下の少年少女に性的な行為をしてはならぬという王法ができもうした。ロリは触れずに愛でるものゆえこれについては拙者も大賛成! しかし世には大人でありながら少女の幼さ儚さを備えた奇跡の女性がおられるのでござる。成人しておりますゆえ手を触れても法には触れない。そう、あなたのような存在を合法のロリータ、すなわち合法ロリというのでござる」


 ひと息に説明を終えた魔術士がライリーに目を向けると、彼女は眉間に深いしわを寄せていた。


「おほぉ、険しい表情もまたかわゆいですのぅ」

「ん……よくわからないけど、私が子供っぽいって言いたい?」

「端的に言えばそうですぞ」

「ん」


 次の瞬間、ノーモーションで放たれた《雷弾》が魔術士を襲う。


「のぉーっ!?」


 ――バチィッ!!


 雷撃がはじけ、閃光が一瞬だけ周囲をつつんだ。


「はぁ……はぁ……あ、あぶないではござらんかぁ!?」


 閃光が収まったあと、魔術士は驚き、息を切らせながらそう叫んだが、傷ひとつ負っていなかった。


「ん……」


 一度大きく目を見開いたライリーだったが、すぐに平静を取り戻し、杖を構える。


「待たんか!!」


 そこへ、審判役の副隊長が必死の形相で割って入った。


「まだ勝負は始まっていないのだぞ!?」

「そ、そうですぞ!? 反則ですぞ!? そちらの負けになるのですぞ!?」

「ん、別にいい。どうせ次で勝つから」

「「なっ……!?」」


 驚く副隊長と魔術士を気にもかけず、ライリーは杖を掲げた。

 彼女の視線は目の前に立ちはだかる副隊長を無視し、魔術士を見ている。


「ん、おじさんどいて。そいつ殺せない」

「いやいや、殺すなどと物騒なことを言うんじゃない! これは健全な勝負なんだぞ?」

「健全……?」


 諭すような副隊長の言葉に、ライリーは一瞬だけ冷たい笑みを浮かべた。

 副隊長は知らないが、彼女は知っている。

 この訓練が最終的にロロアの故郷を襲うものであることを。

 その思いがにじみ出ているのか、副隊長はライリーの姿に薄ら寒いもの感じた。


「むほぉ……冷たい視線がたまらんのです……!!」


 そんな中、魔術士は副隊長の陰から顔を出し、暢気にそんなことを言った。


「この勝負、冒険者側の反則により我らの勝利! それでいいな?」


 そこへ親衛隊長が駆け寄り、そう宣言した。

 王子は勝負が見られないことに不満そうだが、異議を唱えるつもりはないようだ。

 負け越すよりはまし、と考えたのだろう。


「む……まぁ、仕方があるまい。双方ともそれでよろしいな?」

「ん……別に問題ない」


 副隊長の問いかけに、ライリーは杖をおろしてそう答えた。


「異議ありでござる」


 魔術士が、声を上げた。


「き、貴様、なにを――」

「さきほどの《雷弾》」


 なにか言おうとした親衛隊長を無視して、魔術士は一歩踏み出し、口を開く。


「見事でござった。ノーモーションで詠唱の気配すら感じさせず発動させ、しかも的確に頭を狙っていたでござる。ただ者ではござらんな。拙者でなければ本当に死んでおりましたぞ?」

「ん、殺す気だった。でも、防がれた。残念」


 もちろん本気で殺すつもりはなかった。

 無防備に受ければ死に至る攻撃ではあったが、相手は魔術士だ。

 装備などでなにかしら防御策を講じていれば、少し怪我をするくらいですむだろうと、ライリーは予想していた。

 まさか完全に防がれるとは思っていなかったが。


「あなたも、ただ者じゃない」

「でゅふふ、それはどうも」


 ニタァと魔術士が笑う。

 その表情に、周りの者は顔を引きつらせ、嫌悪を露わにした。

 ただ、ライリーだけは表情を変えなかった。


「隊長殿、副隊長殿」


 ほどなく表情をあらためた魔術士が、ふたりに向き直る。


「拙者、そのお方と勝負したいのでござるが」

「ならんっ!!」


 即座に隊長が否定した。


「この勝負は我らの勝利にて決着をしているのだぞ? さっさと次の勝負に移れ!」

「ふむう、困りましたなぁ……」


 魔術士が、ぽりぽりと頭をかく。


「ではこうしてはどうだろうか」


 そこで、副隊長が口を開く。


「勝負自体は親衛隊側の勝利! そのうえで、ここからはエキシビションマッチ、ということにしては?」


 妙に大きな声でそう言った副隊長は、ライリーと魔術士を交互に見た。


「拙者は勝負ができるのであればなんでもかまいませんぞ」

「ん、別に構わない」


 二人の同意を得た副隊長は、隊長に目を向ける。


「そ、そんなものは時間の無駄――」

「許可する!!」


 王子の声が響く。

 副隊長の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

 勝利が確約されたうえで勝負が見られるとなれば、王子は必ず乗るとわかっていたから、副隊長は必要以上大きな声で提案を口にしたのだ。

 彼自身、ふたりの勝負を見てみたいという思いもあった。

 真の目的を知らない副隊長は、親衛隊と冒険者との交流を心底楽しんでいるのだ。


「それではこれより、魔術士対決のエキシビションマッチを始める!!」


 副隊長の宣言に、双方の陣営から歓声があがった。


1話で勝負を終わらせるつもりが、はじまりすらしないという…w


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活動報告にもちらっと書きましたが、新連載を始めました。

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『聖弾の射手~会社が潰れたので異世界銃士に転職します~』

あらすじ

**********

 ――まさ会社が潰れるとは思いませんでしたよ


 3日ほど前、賢人けんとの勤めていた会社が潰れた


 ――1階の中華料理屋でガス爆発だって?


 しかも物理的に


 仕方がないので賢人は祖母の住む実家へ帰ることにした

 そこで賢人は、実家の土地を生前贈与されることになったが、権利書に見覚えのない番地が記載されていた


 ――気になるのかい? だったら見に行けばいいじゃないか


 準備を整えて出かけようとしたところ、なぜか祖母からは祖父の形見のスーツを着て、防災バッグを持っていくようにいわれた

 よくわからないまま見知らぬ土地に入ると、そこには妙にきれいな石柱があり、その上にパーカッションロック式の短筒たんづつ――拳銃タイプのマスケット銃――が置かれていた


 ――うぉっ!? まぶしっ……!


 その短筒を手に取った瞬間、あたりは光りに包まれ、賢人は異世界に飛ばされた


 飛ばされた先で黒猫獣人の冒険者ルーシーと出会った賢人は、彼女と行動を共にすることとなる

 彼が手に入れた短筒は、魔物にのみ絶大な効果を発揮する《聖》属性の弾丸《聖弾》を発射できるものだった


 ルーシーとともに活動していた賢人は、あるとき別の冒険者に襲われた

 人間に対して効果を発揮しない短筒では応戦できず、かなりの苦戦を強いられた賢人は、危機を脱したあと、《聖弾》以外の攻撃手段が必要だと考えるようになった

 そしてひょんなことから元の世界に帰れることが判明し、新たな攻撃手段として拳銃を手に入れることを決意するのだった


 一方、賢人の会社が潰れる原因となった、オフィスビル1階中華料理店のガス爆発事故を、県警資料課の美子よしこは部下とともに調べていた。


 ――LPガスのボンベが爆発したんッスよね?

 ――店のど真ん中にガスボンベを置く料理店がどこにある?


 店舗中央を爆心地としてボロボロになった店内を見回しながら、美子はどうやらこの件が自分たち資料課――通称『死霊課』の案件であると確信する



 ――あーあ、見事に潰れちゃってるな、こりゃ


 旅行帰り、会社のあったオフィスビルの惨状を見て暢気に呟く三島は、帰り道の路地裏で行き倒れの少女に出会う


 ――魔女……さま……。


 朦朧とした意識の中でそう呟くローブ姿の少女を、三島はひとまず保護することにしたのだった

**********

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『聖弾の射手~会社が潰れたので異世界銃士に転職します~』
お得意の行ったり来たり系ですよー!!

書籍1~3巻発売中!!
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― 新着の感想 ―
ここまで読んで、中途半端で中断なのは辛い
[一言] 続きを書いて欲しいよぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~・
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