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第11話『おっさんのいぬ間に、代表戦1 弓士/軽戦士対決』

 荒野に集まった親衛隊と冒険者たちのあいだで、訓練の方法が話し合われた。

 まずはお互いの自己紹介もかね、5人ずつ出して、1対1で戦う代表戦が採用される。

 弓士、軽戦士、重戦士、魔術士、自由形という、軍の紅白戦などでよく行われるものだ。

 親衛隊と冒険者がそれぞれ向かい合い、その中央にできたスペースで勝負を行う。


 最初は弓士対決。

 といっても、これは前座のようなものだ。

 離れた位置にある的を、交互に射合って、得点を競う。

 的の中央に近いほど得点が高い、というアーチェリー競技に近いものだった。


 親衛隊からは王都随一の弓士が、冒険者からはハーフエルフの弓士メリダが選出された。

 的までの距離はおよそ100メートル。

 魔力による身体能力強化や、スキルの補正などがあるため、男女間のハンデはない。


「先攻は親衛隊!」


 親衛隊副隊長の宣言で、競技が始まった。

 まだあどけなさの残る青年弓士は、鎧と服を脱ぎ、上半身はタンクトップ姿となった。

 小柄でありながら引き締まった身体を見せた青年は、矢をつがえ、弦を引いた。

 ピンと伸ばされた背中に、鍛え上げられた筋肉の筋が浮かび上がる。

 ギリギリと弦を引いたまま、じっくりと狙いを定める青年弓士。


「――シッ!」


 気合いとともに放たれた矢は、勢いよく飛び、的の中心を捉えた。


『おおおおおお!』


 両陣営から拍手と歓声が沸き起こる。

 それが少し収まったところで、メリダは弓を構えた。


「え……? えぇっ!?」


 青年弓士が思わず声を上げる。

 メリダは、弓を構えるや、狙う様子もなく即座に矢を放ったのだ。


 ――コンッ!


 だが放たれた矢は、見事的の中心を射貫いたのだった。

 そして先ほどよりも大きな歓声が沸き起こった。


「くっ……!」


 悔しげに歯ぎしりした青年弓士は、二射目を構えた。


「――ッシャァッ!」


 そして先ほどの半分ほどの時間で狙いをつけて放つ。

 矢は中心を少しずれはしたが、中央の円には収まっていた。


「ふん……んなっ!?」


 青年が得意げに鼻を鳴らし、メリダのほうを見ると、彼女はすでに矢を放ったあとだった。

 そして2本目に放たれた矢は、まったく同じ場所に刺さったのか、1本目の矢を真っ二つに裂いていた。


「く、訓練用の、矢を!」


 青年の言葉に、どよめきが起こる。

 訓練用の矢というのは、(やじり)部分が丸いスライムゲルでできており、〈貫通無効〉と〈衝撃軽減〉の効果によって殺傷力がほとんどなくなっているものだ。

 そしてそれは、先端が尖っていないせいで空気抵抗が大きく、まっすぐ飛ばすのも難しいものだった。


「――ッラァッ!」


 最初よりも時間をかけて狙いを定め、放たれた訓練用の矢は、鈍い音を立てて標的に命中した。

 標的に残った痕から、かろうじて中央の円に引っかかっていたことが確認された。


「へっ、どう――だぁっ!?」


 もう何度目になるかわからない、驚きとともに、青年は間抜けな声を上げた。

 長時間集中して汗まみれになった額を、手で拭いながら相手を見ると、彼女も同じく訓練用の矢をつがえていた。

 ただ、驚くべきことに、彼女は標的ではなく、親衛隊のほうに矢を向けていたのだ。


「お、おい、お前っ!」


 そして制止する間もなく、メリダは矢を放った。


 ――コンッ! 


「ぐぉっ!?」


 うめき声とともに、兵士のひとりが槍を取り落とした。

 メリダの矢は、居並ぶ親衛隊の隙間を縫って飛び、最後方にいた兵士の持つ、槍の穂先に命中したのだった。


「おおおおおお! すごいっ! すごいぞぉっ!!」

『うおおおおおおおおおお!!!!』


 静まりかえった荒野に第2王子ヴァルターの声が響き、つづけてその場にいた全員から歓声と拍手が沸き起こった。

 完全に負けを認めた青年は、がっくりとうなだれる。


「ふむ、ではこの勝負――」

「親衛隊の勝ちとする!!」


 副隊長の宣言を隊長が遮った。

 それにより、歓声はどよめきに変わり、やがて不平不満が出始めた。

 これには副隊長のみならず、ヴァルターの顔にも不満が現れていた。


「勝負はあくまで的を射貫いた得点によって競われるものだ! 冒険者の弓士は的を大きく外したではないか!!」


 結局親衛隊長の言が採用され、弓士対決は親衛隊側の勝利となった。


「ちょっと調子に乗りすぎてしまいましたわね」


 冒険者の陣営に戻ったメリダは、とくに悪びれる様子もなく、ペロリと舌を出した。


**********


「「最初はグー! じゃんけんポン! あいこでショ!!」」


 第2試合の軽戦士代表を賭け、白熱したじゃんけん勝負を繰り広げているのは、犬獣人のシーラと山猫獣人の天網監察官テレーザである。


「っしゃぁ! あたしの勝ちっ!!」

「むぅ……仕方がない。今回は譲ってやろう」


 見事代表の座を勝ち取ったシーラは、訓練用に〈斬撃無効〉〈刺突無効〉〈衝撃軽減〉効果の付与された双剣を手に、親衛隊の代表に向き合った。

 相手は長身の美男子で、右手にはサーベル、左手には短剣が持たれていた。

 無論、彼が装備しているのも訓練用の武器である。


「へぇ、あんたも剣を2本使うんだね」


 シーラの言葉に、剣士は露骨に嫌な顔をした。


「双剣などという野蛮なものと一緒にしてほしくはないものだな」


 どこかいいところの出身らしい剣士の目には、冒険者を見下す侮蔑の色が見て取れる。

 2本の剣を持つ彼の流儀は、スタンダードな剣術である。

 武器としてメインで使うのはあくまで右手の剣(サーベル)で、左手の短剣(マインゴーシュ)は主に防御用だ。

 

「顔と体つきは悪くないな。どうだ、お前が望むなら飼ってやるぞ?」


 シーラを見下したまま放たれた言葉に、冒険者のあいだから、とくに獣人たちからどよめきが起こる。

 獣人に対して『飼う』という言葉は禁句だ。

 だがこの剣士はそれをわかってあえて口にした。

 あからさまな挑発である。


「偉そうに言うのは勝ってからにしな」


 しかし高レベルの〈精神耐性〉を持つシーラは、その程度の挑発で心を乱したりはしない。

 とはいえ、腹立たしいことに変わりはないが。


「軽戦士対決、始めっ!!」


 副隊長の号令で試合が始まるや、シーラは素早く踏み込んだ。


「くっ……!」


 それを迎え撃つべく斬りかかった剣士の攻撃を紙一重でかわしたシーラは、そのまま敵の懐に入り込み、みぞおちに蹴りを食らわせる。


「ぐふぅっ……!」


 犬獣人特有のしなやかな脚力によって与えられた衝撃は、剣士の胸甲を通り抜けて内臓に達し、さらに彼の身体を後方に吹っ飛ばした。


「かはっ……お、おのれ――」


 背中を地面に打ち付け、腹に受けた衝撃に吐き気を覚えながら、息を詰まらせた剣士だったが、それでも剣を手放さず、身体を起こそうとする。


「ぐぇ……」


 しかし、さらに踏み込んできたシーラによって、喉を踏みつけられたのだった。


「ふん、剣を使う価値もなかったねぇ」

「ぼ、冒険者側の勝利!」


 一瞬の決着に驚いた副隊長が、シーラの勝利を告げる。

 両陣営から、ことに冒険者側の獣人たちからは熱烈な歓声と拍手が起こり、それを受けてシーラは剣士の首から足をどけ、彼に背を向けた。


「ぐ……うぅ、キサマぁああぁぁっ!」


 起き上がった剣士が、短剣を捨てて両手でサーベルを構え、背後からシーラに襲いかかる。


「おい、待――」


 審判役の副隊長が止めるより早く剣士はシーラを間合いに捉え、大上段からサーベルを振り抜いた。


「ふっ!」


 しかしシーラは剣士に背を向けたままその斬撃をかわし、振り向きざまに剣士のこめかみを双剣で打った。


「あぺっ……!?」


 訓練用に軽減されたとはいえ、意識を刈り取るのに充分な衝撃を側頭部に受けた剣士は、間抜けな声を漏らして地面に倒れた。


「敗北したうえに背後から襲いかかり、返り討ちに遭うとは……情けない」


 痙攣しながら白目を剥き、泡を吹く剣士が、医療班に回収されるのを見ながら、ヴァルターは頭を抱えて嘆息した。 

 

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