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第1話『おっさん、テオノーグ王国近現代史について学ぶ』

お待たせしました、更新再開です。

 現テオノーグ王バートランドは、凡庸な王として知られていた。

 偉大な先代と有望な次代とのあいだを繋ぐだけの、聡明とも暗愚とも言えない平凡な王。

 このまま順当に王位継承が行なわれれば、ただ年表を埋めること以外に特筆すべき功績のない、無色の王。

 それが彼に対する一般的な評価だった。

 

 先王ザラカイアの時世、ジニエム山を越えた向こう側にある迷宮都市ザイタより溢れた大量の魔物が、山を越え、さらには森を抜けて王国領に押し寄せるという事件があった。

 後に魔物集団暴走(スタンピード)と認定されたその魔物の襲来を、先王は禁術の解放によりほとんど被害のない状態で殲滅することに成功した。

 

 各ギルドや周辺の王国、そして天網府を通じて天帝に呼びかけることで、ひとりの優秀な魔術士に戦術級の魔術を習得させることに成功したザラカイアは、その魔術士の力で魔物の集団の大半を倒させ、残りは軍をもって掃討し、民間人への被害をほとんど出さずに魔物集団暴走(スタンピード)を終息させた。

 その後ザラカイアは魔物集団暴走(スタンピード)の責任を問わない代わりに、迷宮都市ザイタとのあいだに有利な条件での交易を結ぶことに成功した。

 

 さらに、殲滅の大魔導と呼ばれるようになった(くだん)の魔術士を魔術士ギルドから冒険者ギルドへと鞍替えさせ、王国統括ギルドマスターとして抱え込むこともできた。

 一説には禁術の習得により魔術の使用を封印されそうになった彼の身柄を、冒険者ギルドのグランドマスターと協力して半ば強引に預かったと言われている。

 

「迷宮都市産の良質な魔石を多く手に入れられるようになったおかげで、ウチの王国は随分と潤ったらしいよ。とくにザイタとの中継点になったここヘイダの町が一番恩恵をうけただろうね」

 

 敏樹はこの日、テオノーグ王国の近代から現代史についてファランに教えを請うていた。

 彼の隣でロロアも真剣な表情で話を聞き、ファランの隣ではベアトリーチェが寝息を立てながら、わずかに開いた口からよだれを垂らしている。

 いびきをかいていないのが救いか。

 

「ちょうどウチもお祖父さんから父さんに代替わりするころでね。当時は材木問屋だったドハティ商店だけど、魔物集団暴走(スタンピード)のせいで森に異変があって木があまり取れなくなったんだ」

 

 魔物集団暴走(スタンピード)の影響によって周辺の地形はかなり変わってしまい、林業従事者の多くが職を失うことになった。

 

「当面は王国から補助金が出ることになってたから、林業の衰退とともに町も廃れるだろうと思っていたお祖父さんは、補助金を手に町を離れて別の場所から再スタートするつもりだったんだけど、ザイタとの交易が始まるという情報を得た父さんに説得されてね」

 

 結果クレイグの読みは当たり、ただの材木問屋だったドハティ商店は、魔石の売買を皮切りに業績を伸ばし、やがて王国内でも一目置かれる商会へと成長できたのだった。

 

「なるほどねぇ。しかしその殲滅の大魔導とやらいう魔術士を抱えることに、よく他の王国が納得したよなぁ」

「まぁ一応冒険者ギルドは中立の組織だからね。その建前がある以上、殲滅の大魔導は仮に王と天帝の利益が相反した場合、天帝側に与するかたちになるわけなんだけど……、そんなことにはならないかなぁ、普通は」

 

 先代の偉業についてある程度わかったところで、続いて有望な次代へと話は移る。

 

「エリオット殿下の功績はなんといっても文化の発展だろうね」

 

 バートランドの長男にして王太子のエリオットは、立太子以降数年で文化の発展に尽力した。

 特に食文化と芸術文化の発展はめざましいものがあるという。

 食文化に関しては、単純に美味しい料理を広めるというだけなく、これまで食材として認識されていなかった多くの動植物に目を付けることで、食糧自給率の上昇に大きく貢献した。

 

 芸術分野に関していえばエリオット自身になにか秀でた才能があるわけではないが、優れた芸術家を見いだし、育てることが上手いのだと言われている。

 とくにここ2~3年で爆発的に流行した歌劇――音楽と演劇を組み合わせた娯楽――は、高級役人や大店の商人などの富裕層に大受けしているという。

 王都や商都などの大きな街では歌劇場の建設ラッシュが始まっており、いまやその人気は庶民にまで広がりつつあるのだとか。

 

「歌劇ってことは、オペラみたいなもんか?」

「お、トシキさんってその辺詳しいの?」

「いんや、全然」

 

 次男のヴァルターは武芸に秀で、その威風堂々たる容姿や言動から軍部からの信頼が厚い。

 

「ちょっと荒っぽいところが人によっては目につくらしいけどね。まぁそこが人気の要因だったりもするんだけど」

 

 このように、偉大な先代と有望な次代とに挟まれるかたちでただ現状を維持しているのが、現王バートランドというわけである。

 

「んー、その現状維持ってのが案外大変なんだけど、それはあんまりわかってもらえないんだろうなぁ」

 

 組織というのは何もしなければ急速に崩壊していくものだ。

 人がなにもせずただぼんやりと突っ立っていれば、いずれ疲労で倒れ、餓死してしまうように。

 放っておけば衰退するものを維持すると言うことは、緩やかに成長させなくてはならず、特に大過なく王国という巨大な組織を運営しているというのであれば、現王はかなり有能な部類に入るのではないか。

 

 先王から引き継いだものをただ食い潰しているだけというのであれば、そういった空気が国にも流れ始めるものだ。

 ここヘイダの町を始め、少なくとも敏樹が訪れたことのある商都、州都は活気に満ち溢れていた。

 となれば、現王バートランドは相応の手腕をもって国家運営に尽力しているはずである。

 

 敏樹の嘆息するような呟きに、ファランは軽く笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ま、その辺りのことはある程度力のある商人や役人たちはちゃんと把握しているのさ。でも一般人がトップに興味がないってことは、裏を返せば不満がないってことだからね」

「なるほどね」

「ただ……」

 

 と、ファランの表情がわずかに曇る。

 

「現王に唯一不安要素があるとすれば、メアリー王女かな」

 

 現王バートランドには3人の子がおり、メアリー王女は先日15歳で成人を迎えたばかりの末っ子である。

 幼少期からなにかと優秀だったふたりの兄と異なり、このメアリー王女には容姿以外に特筆すべき点がない。

 

「もしかすると現王はふたりの王子に嫉妬みたいなものを感じてるのかも知れない。でもそれを表に出さない代わりに、王女を溺愛するようになった……っていうのが世間一般に囁かれているもっともらしい話さ」

 

 そして現王バートランドの愛を一身に受けるメアリー王女には、あまりよくない噂があった。


ストックがないのでもしかするとちょこちょこ休載するかも知れませんが、できるだけ週一連載は続けたいと思っておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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