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綾華氏(あやかし)

東京都、新宿区、西新宿駅前。

都内で梅雨入りのニュースが流れた日。雨粒が勢い良く叩きつけるように、深夜の1時を回った今も、止むことなく降り続いていた。


「遅いなぁ。約束の時間は過ぎてるってのに」


『まぁ、そう苛々しても仕方あるまい。何か事情があるのじゃろう?』


俺の独り言に答えたのは、心の中に居るもう一人の人物。


『姉貴。俺の言葉にいちいち反応しなくて良いって』


『ほぅ。それが姉に対する言葉か?弟よ』


俺の体は一人のものでなく、姉貴と一緒のもの。あんまり怒らせると厄介だから、それ以上俺は答えなかった。すると、そこに待っていた相手が姿を現した。


輝流(ひかる)さぁ~ん」


何処か拍子抜けしてしまうような声で俺を呼びながら走ってくるのは、仕事仲間の矢代仁(やしろじん)だった。小柄な体型に白のオーバーオール姿に金髪。顔は十代くらいに見える幼さが見える。そんな仁は周りの事など気にせず大きく手を振りながらこっちに駆け寄ってきた。


「おい。そんな大きな声で俺を呼ぶな!大体、なんで遅れたんだ。俺も暇じゃないんだぞ!」


「そう怒らないで下さいよぉ。僕だって、此処に来るまでに可愛い迷子に出会って墓場(あっち)まで送ってあげたんですからぁ」


『なかなか良い行いをするな、仁よ』


『姉貴は、黙っててくれよ。余計に話がややこしくなってくる』


俺は心の中で呆れていた。そんな俺の様子など気に止めた様子もなく仁は仕事の内容を話し出した。


「今回は私立桜ヶ丘高校で起きている怪奇現象の調査と退治の依頼です。怪奇現象が起きたのは1週間ほど前で教師が2人、図書室で変死しています」


仁は、先程まで見せていた剽軽(ひようきん)な表情から真剣な表情にとかわっていた。俺達は、普段は喫茶店の店主や服屋のショップ店員などをしているが、日本の国家機密組織の1つである綾華氏(あやかし)という組織に属している。


いわゆる怪奇現象や妖かしの者の調査や退治をする組織だ。そして今夜は、桜ヶ丘高校で起きている怪奇現象の調査に行くのだが、何だか胸騒ぎがする。


『どうした?顔色が優れないな』


『いや、大した事じゃないんだけど、嫌な予感がするんだ』


「輝流さぁん??大丈夫ですか?いつもより、やる気無さそうに見えますが??」


「うるせーよ」


俺は仁の無神経な発言に、苛立ちを覚えながら傘を持つ右手と黒い布に包まれた棒を持つ左手を握りしめると、目的地へと歩き出した。


「待ってくださいよぉ、輝流さぁん」


俺は仁の情けない声を背中で聞いていたが、敢えて答える素振りをみせず先に進んだ。右へ左へと曲がりながら奥へ進むにつれ行き交う人の数が一気にいなくなり、雨の音が裏路地に響いていた。

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