2 道具師
「うーん?ここって何処なんだろ?」
意識を取り戻した陸人は、空に浮かんでいた。眼下には、見渡す限りの大地が広がっている。
そして、目の前には羽を生やした金髪の天使が居た。ってこれ、本物みたいだなぁ・・・これがVR技術か・・・。
『ようこそFWOの世界へ。私はゲームの案内役のエクセルと申します。キャラクター設定及び、初期ジョブと能力値を設定して下さい。』
とエクセルさんは言うと、パッとウィンドウが表示された。
まずは、キャラクター設定―つまりは、見た目のカスタマイズをするみたいだ。だけど・・・
「うん。このままでいいよ。無理に格好良く見せてもいい事なんて無いし。」
と、僕はそのままの状態でYesを押した。
『続いて、初期ジョブを設定して下さい。』
クラス・・・か。うわっ、色々あるなぁ。
戦士や剣士、騎士やアーチャーといった戦闘職から、ヒーラーやサポーターといった補助職、調合師や薬師と言った生産職等、なんと50種類近くのジョブがあった。
「姉さんはどうせ剣持って暴れまわりそうだからなぁ。僕は動きたくないなぁ。」
だからと言って、ヒーラーとかを選ぶと『ほらっ!前衛を回復させるのが仕事でしょ!途中で撤退なんて許さないから!』とか言って強引に引っ張られそうだなぁ。ならこれにするか。
といって、僕が選んだのは道具師というジョブだった。
CLASS:道具師
戦闘は全般的に苦手だが、多種多様なアイテムを作成する事が出来る。
回復薬から投擲アイテムまで作れるが、その道の専門職より作れる範囲は劣る。
うん。戦闘は苦手って書いてある。これで無理に戦闘に出させられるって事は無くなりそうだね。・・・ないよね?
『続いて、能力値を設定して下さい。』
うーん、これはステータスポイントっていうのを割り振れって事だね。
初期ポイントは・・・20か。器用さと素早さに振っておくかな。後は・・・うん。これでいいや。
『最後に、ゲームで使用する名前を設定して下さい。』
あ、名前ね。はいはい。
と、僕は自身の名前である『リクト』を設定した。
『全てのゲーム設定が完了しました。ようこそ、FWOの世界へ。』
と聞こえた途端、僕の意識はまた闇に落ちた。
閉じた目から明かりが洩れているのが分かる。目を開けると、そこはもうゲームの中の世界だった。
今いるのは、街・・・だろうか?主婦とか自警団?の兵士たちがひっきりなしに道を歩いている。凄いな、これがVRMMOの世界か。今までのゲームとは全然違うなぁ、これなら姉さんの一緒にやりたいって気持ちも―
バシィン!
と考えに耽ってたら、思いっきり頭をはたかれた。痛い!誰だ僕を殴ったのは!
「・・・リクト、遅いわよ。3分の遅刻よ?」
「理不尽すぎるよ!?」
案の定姉さんでした。
見ると、姉さんも僕と同じように見た目をいじってる様子は無かった。
茶髪のショートヘアに、気の強そうな目元。うん、全く変わらないね。
「ところで、リクトはジョブは何にしたのよ?私は剣士にしたけど。」
といって、姉さんはステータスウィンドウを見せてくれた。
Lv3:カエデ(CLASS:剣士)
HP 175/175
MP 29/29
攻撃:38
防御:29
素早さ:15
器用:10
魔力:5
運:5
「あの・・・姉さん。なんでもうLv3なの?」
「そこら辺に居たゴブリンとかスライムとかをボコッたらレベル上がったわよ、簡単に。」
もうモンスター狩ってるのか・・・早すぎるよ姉さん。
「それで、リクトのジョブは何なのよ?」
「あーうん。僕は道具師にしたんだ。ほら。」
Lv1:リクト(CLASS:道具師)
HP 98/98
MP 41/41
攻撃:15
防御:8
素早さ:19
器用:28
魔力:7
運:3
見ると、姉さんが頭を抱えていた。うん?僕って何かしたかな?
「リクト、そのジョブって生産職じゃない!どうせならヒーラーとかにしてよ!回復役ならコキ使えたのに!」
「そういう事だと思ったから、僕はこれにしたんだよ!」
やっぱり予想通りだった。姉さんは油断ならないな・・・!
「・・・まぁいいわよ、でもまた中途半端なジョブにしたわね。それなら、いい品質の回復薬が作れる「薬師」か、アイテムの合成に特化した「調合師」にすればよかったのに。」
「うーん。色んな事をやってみたいからね。逆にそれにしちゃうと、回復薬しか作れないとかになりかねないじゃん?」
あー、まあ確かにそうね。と姉さんは言うと、とりあえずアイテムと装備品を揃えるわよ。とアイテムショップに連れて行ってくれた。
所持金額は1000オル。これで買えるのは、初期装備一式と多少の回復アイテムだった。
説明でもあった通り、僕のジョブは戦闘には向いていない。
ならどうするのか?と言えば、あちこちにアイテムを採取できるポイントがあるから、そこでアイテムを採取してアイテムを作ればいいらしい。あれ?でもそれってモンスターと出会ったらどうするの?
「それじゃあ、まだ人が少ないうちに私は狩りに行ってくるね。リクトも行く?」
「いや、僕はやめておくよ。ちょっとアイテムを採取しに行きたいし。」
「そう。なら行ってくるわね。」
と言うと、姉さんはそのまま街の出口に走って行った。さて、僕は採取エリアに行きますかね。