1 ようこそ、FWOへ。
VRMMORPG。小説とかでしかお目にかかれなかった『伝説のジャンルのゲーム』がついに現実の物となり、話題を掻っ攫った。
その名前は、Fantastic World Online。略して『FWO』と呼ばれている。
従来のMMORPGと同じような感じのゲームだが、一番違うのはその『VR技術』にある。
ヘッドギアを通じて仮想世界に入り込み、あたかも自分が冒険しているかのようにプレイできる、という物だ。
当然だが―固定ゲーム機の2~3倍の値段にも関わらずFWOは予約殺到し、初期生産型は一瞬で販売が終了したのだった。
「・・・という訳よ。陸人、私と一緒にFWOをプレイしなさい。」
「あのね楓姉さん。僕はゲーム苦手なんだけど・・・?」
いきなり僕の部屋の鍵を開けて(何で合鍵持ってたんだろう?)、VRヘッドギアとソフトを渡してこう言って来たのは、僕の姉の夢月楓だ。
姉さんはゲームが大好きで、いろんなゲームを手あたり次第買ってきては、十日以内にクリアするというよく分からない事をしてた。ちなみに、数か月前からVRMMOのゲームが販売されると知ると否や『絶対陸人にもやらせるから!拒否権?何それ美味しいの?』と言われた。
「大丈夫よ。VR技術を使ったゲームはこれが初めてでしょ?なら、全員が同じスタートラインにいるようなものじゃない?」
「それでも、ゲームの得意不得意はあると思うんだ・・・」
楓姉さんは、恐らくこのゲームをやり出したらランキング(あるかどうか分からないけど)に常時乗るような存在になるかも知れない。でも、僕はゲームなんて赤い帽子の配管工がキノコ採るゲーム(しかも最初のステージでゲームオーバーになりかけた)くらいしかゲームをやった事がないからなぁ。
「まあ、だいぶ前にも言ったと思うんだけど、拒否権は無いからね?このソフトだって、私がお父さんに頼み込んで2つ貰ったんだから。」
「そこは1つでいいじゃん・・・」
うーん。確かFWOのソフトって、人気すぎて生産が追いついてないとか聞いた事あるよ?
お父さんも無理するなぁ、姉さんも姉さんだけど。
「それじゃ、これ渡しておくわね。えっと、今の時間は・・・うん。後15分でゲームサーバーがオープンされるから、それまでにはキャラクター登録を済ませておいてね?」
「あーはいはい、わかったよ姉さん。」
と僕は姉さんからゲームセット一式を貰うと、さてどうしようかなと考えた。姉さんがゲームに夢中になってる隙に、こっそりログアウトとか出来れば―
「ああそうそう。もし逃げたら・・・分かってるよね?」
「ハイ分かってます」
ダメだ、これはゲームをやらなきゃいけない。逃げたら殺されかねない。というか姉さん、凄い笑顔が怖いよ。
仕方なく、僕はホコリをかぶってるパソコンを掃除し始めるのだった。
***
「ふぅ、やっと終わった。」
掃除し始めて10分。何とか使えるくらいまでは掃除したと思う。
第一このパソコンだって、姉さんが『一緒にオンラインゲームやろう!』って言って、強引にお父さんに買ってもらったんだっけ。僕はすぐ飽きちゃって一切触らなくなったけどさ。
「えーっと、ソフトをセット、ヘッドセットを・・・よし、これでいいか。」
ソフトを入れてゲームを起動した後、ヘッドセットを頭に装着。これで準備は出来た筈だ。
すぐ横にあるソファに横になると、時計を見た。・・・うん。いい時間だね。それじゃあ、FWOを起動しよう。
ヘッドセットの『START』のボタンを押すと、陸人の意識は急速に薄れていった。