九話
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「ぐほっ!」
車内に、唐突に一人の少年のうめき声が響く。
「和也、何の真似だ」
頭部の痛みを和らげるために右手でさすりながら、その痛みの元凶である隣に座っている和也を睨む。
「いや~、女ばかりの車内で俺以外の男が寝てるなんて、話す相手がいなくて寂しいだろ?」
「うるせえ、美咲と喋ればいいだろうが。俺はこのフカフカの椅子の座り心地を満喫してるんだよ!」
颯太の言葉通り、車内の椅子はフカフカでもたれかかると埋もれてしまいそうな錯覚さえ覚える。
そんな椅子の心地よさにウトウトしていた矢先に和也に叩かれ、不満に思うのは当然だ。
教室にいたはずの颯太たちはいつの間にかあの荒野にいた。
地面のいたるところは焼け焦げ、一般人であってもそこで戦闘が起きたことを感じさせる殺伐とした雰囲気。
そんなところで目を覚ました颯太たちは、あの後あの場に数台の車が来て、颯太を見て涙を流しながらその場を後にしたお姫様のようなドレスを着ているエミリー=アーネルと名乗る少女が戻ってきたと同時に、その車に乗るように促された。
颯太たちは突然の事でパニックに陥りながらも、現状、エミリーに従うことが最善の選択であると思い、促されるままに車に乗り込んだ。
広い車内には、コの字型にソファのような形状の椅子が設置されており、エミリーの横には颯太に状況を説明した長谷川凛がボディーガードのように座っていた。
そして、その向かいに颯太、和也、結衣、美咲、遥が座る。
頭をさすりながら窓の外を見た颯太は、東京以上の高層ビルが所狭しと立ち並んでいる街並みを見て、知らない街だなと思う。
そして、そのまま目を瞑り……
「ぐはっ!」
「寝るな、起きろ! 俺の為にも!」
「だー! しつこいな! 寝れるときに寝とかねえと体がもたないんだ! 俺は貧弱なの! オッケー?」
くすくす……と、車内に上品な声が響く。
見ると、エミリーが口元に手を当て、本当のお姫様のように微笑んでいた。
その微笑みは、聖女のようであったから。
その微笑みに、何か懐かしさを覚えたから。
その微笑みに、悲しみにも似た感情が含まれているような気がしたから。
その微笑みが、少女がどこか無理をしているような感じがしたから。
――だから、颯太はその少女の微笑みに見惚れた。
そこには、ただただ可愛い少女を見たから惚れてしまった……などと、短絡的な感情は含まれていない。
だが、何故か颯太はこの時、会って数時間も経っていない少女の笑みを見て、それを守りたいと思い、それと同時に、少女をいつでもこんな顔で笑っていられるようにしてやりたいと感じた。
知らず、無意識の内に颯太は人差指で唇をなぞっていた。
「エミリー様、どうかされましたか?」
エミリーが笑うことが珍しいのか、隣で座っている凛が怪訝な表情を浮かべて聞く。
そんな凛の言葉を受けてエミリーは少し微笑んだのち、首を少し振りながら口を開いた。
「いえ、何でもないわ」
「……? そうですか……」
と、そこで颯太は欠伸をする。
んーっと、本来この異常事態の最中でそれほどまでにリラックス出来る者はいないだろう。
エミリーはそんな颯太を見て、軽く口元を緩ませる。
「相変わらずね……」
エミリーのつぶやきは、誰にも聞こえなかった。
「でかい……」
一時間近く車に乗ってやっと停まった先には、雲を突き抜け天へと届かんとするほどの高さの建物が建っていた。
その高さに、思わず一同息をのむ。
そこに、凛が、説明をする。
「こちらが、反逆者討伐部隊日本支部です」
とは言え、反逆者と言われてもちんぷんかんぷんなわけで、結局この建物の核心に迫れるような説明を受けないまま、促されるがままに中へと入っていく。
「こちらでお待ちください」
クラスメート全員が入っても全く狭く感じない広々とした部屋に通される。
その内装は、ここで所謂高貴な身分層のパーティーが開かれていても全く不思議でないと思わせるものだ。
戸惑う彼らを他所に、エミリーとリンは部屋から出ていった。
颯太は周りを見ながら、一人掛けのソファに座る。
この部屋には一人掛けのソファが数十個置かれており、部屋の奥は床が一段高くなっていて、そこには重厚な造りの机といすが置かれている。
体育館で例えるところの、舞台の上といったところだ。
「お兄ちゃん、私たちどうなるんだろう……」
結衣が、弱弱しい口調で颯太の袖を掴みながら聞く。
その問いは、この場にいる者の思いを顕著に示すものであった。
知らない場所。知らない人。
帰れるかもわからないこの状況下、皆不安そうにしている。
「さあな、俺も何がどうなっているのか把握できてないし」
「そう、だよね……」
俯く結衣。
何か安心させる言葉をかけるべきなのだと、颯太は分かってはいたが、それが彼には出来ない。
見ると、和也もまた、美咲を見て悔しげに表情を歪めている。
「でも……」
――と、ゆっくりと颯太は口を開いた。
「俺には何の力もないけどさ、たとえどんな状況になろうと、お前たちは命を懸けて守るよ」
「「「――っ!」」」
顔を真っ赤にして俯く結衣、美咲、遥。
惚れたか……と、颯太はそんな彼女たちの姿を見てそう考える。
分かっている、分かっていますとも。そんなはずがないことは!
でもやはり、夢くらいは持ってもいいと思うんだよ!
颯太はそんな風なことを考えながら、状況が進展するのを待っていた。
「ずいぶんカッコいいことを言われますね」
「うお! びっくりした!」
いつの間にいたのか、颯太の横にいた風音詩織が颯太にそんなことを言う。
「私の事も守ってくれますか?」
「……いや、お前は必要ないだろ。強いし」
「失礼な。私だってか弱い女の子ですよ?」
「か弱いって、どの口が言うんだ、どの口が。それに、女が弱いという考えは、今の男女平等を目指す社会の流れに置いて最早無意味! 都合のいい時だけ私は女だから……という考えは、俺には通用しない!」
「ケチですね……」
「……まあ、お前が本当に危ないというときくらいは、助けるよ」
「ありがとうございます」
口調は変わってはいないのだが、詩織はすぐに颯太から顔を逸らし、その場を足早に後にした。
ここで恋愛イベントが発生しないのが、モテるやつとモテないやつの差だよな……。
颯太はため息を吐きながら、心の中で付け加える。
まあ、俺には助けられるほど大した力はないのだが……と。
エミリー、可愛い。
何時か、エミリーをイラストに出来る日が来るのだろうかと、そんな夢を見ております。
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