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プロローグ

「よもや、人間風情に余がここまで追い詰められるとはな……」


 漆黒の……日焼けの範疇を遥かに逸脱しているその肌の色から、この男が人ならざる者であることが窺える。

苦しげな声を出す男は、黒い粒……魔力を体から吹き荒れるように放出しながら、左手で右肩を押さえているようだ。

 見ると、右肩を覆っていたはずの鎧は砕け散り、そこから黒い血が滴り落ちている。

 剣で斬られたような傷口に、男は魔力を集め治そうと試みる。

 だが、傷口から血と同じように溢れ出てきた光の粒によって遮られる。


「忌々しい魔力め……」


 男はそれを見て愚痴を漏らす。

 そんな男の姿を間近で見ている者が、一人いた。


「魔王……お前にとってその魔力が忌々しいのは当たり前だ。その魔力は人々の希望。お前がこれまで与えてきたもの……絶望とは対極に位置するものだ。要するにお前の絶望は、人々の希望からしたら遥かに劣るものということだ」

「貴様……」


 魔王と呼ばれる男に、侮蔑と嘲笑の意をもって語る者は、魔王と対比すると遥かに脆弱な容姿をしている。

 齢十四、十五といったところか……少し幼さが残った顔つきをしている。

 ボサボサの黒髪と、黒眼。飾り気のない髪が、少年にはどことなく似合っている。

 幼さが残りながらも引き締まった顔で魔王を見る少年の顔は、イケメン……と言うほどでもないが、少なくともカッコいいという部類に入るだろう。

 体つきも中高生のそれで、確かに引き締まってはいるが、やはり魔王よりも見劣りする。


 だが……そんな少年の放つ気迫は、魔王すらも凌駕する。


 何より、少年が右手に持つ黄金の剣……聖剣ヴァジュラルダ。

 少年の放つ黄金の魔力を吸い、バチバチと雷のようなものを纏っている。

 その眩い輝きは、魔の者が見れば顔を顰め、嫌悪感を抱くだろう。

 現に、少年の眼前に立つ魔王は、その剣を見て不快感に顔を歪めている。


「どうやら、その剣に斬られると治せないようだな」


 そのセリフから察するに、魔王を名乗るこの男はたった今少年に右肩を斬られたのだろう。


「どうだろうな。お前が何を言おうと、何を想おうと、ここで倒す。それが俺の使命だ」

「使命……そう言ったな? ああ確かに、勇者たる貴様は余を倒す使命があるとも。それが貴様がこの世界に呼ばれた理由なのだからな。だが、貴様はそれでいいのか? こちらの世界の人間共の都合でこの世界に召喚され、勇者などと言われ余と……余の配下の者達と命がけで戦うことを強いられる。道具のように使われるだけ。それが貴様の使命だと? 貴様は本当にそれでいいのか?」

「お前が何を言ったところで、俺はお前をここで倒す。これは変わる事のない……揺らぐことのない事実だ。それに……」


 傷口を押さえながら力を溜めている魔王を睨みながら、少年は呟く。


「俺は、俺の意思でお前と戦う。あいつらを守るため。俺を支えてくれたあいつらのため。あの国に住まう人々のため。この世界に住まう人々のため――」


 そう言いながら少年は聖剣ヴァジュラルダを天へと掲げる。


「――俺は、この剣を振るう!!」


 少年の覚悟のこもった意思を受け取った魔王は、愉悦に口角を上げる。

 そして、クックック……と笑い始めた。


「貴様のような男が勇者としてこの世界に呼ばれるとはな……。いや、貴様だからこそ、か」


 そう言いながら、魔王は周囲に目をやる。


「全く、余の城がこうも無残な姿になるとはな」


 魔王と少年の周囲には、散乱した瓦礫のみ。他には何もなく、ただの荒野が続いている。

 いや、よく見れば魔王と少年がいる場所よりもかなり離れたところに、人影がある。

 それらは皆、勇者が魔王城に辿り着くために周囲の魔物を一掃した兵士たち。

 魔王の配下の者は、皆瓦礫の中にいるのだろう。

 皆が一様に少年と戦い命を落としたのだ。


「もう余に付き従う者もこの世にはおらん。余の覇道が貴様のような小僧一人に邪魔されるとは……この世はえてして思い通りにならんものだ」

「ああ。明日がどうなるか分からない。だからこそ人々は明日に希望を抱き、生きていけるんだ。お前の与える絶望など、明日には不要なものだ!」

「ふん! 貴様が何と言おうと余は我が覇道を突き進む。例え余に付き従う者がおらずとも、余は必ず、世界を恐怖で包む!」

「それは叶わない。何故なら、俺が立ちふさがるからな」

「よかろう。余の全力をもって貴様を葬るとしよう」


 魔王がそういうと同時に、右手に剣を創り出す。

 少年の持つ聖剣ヴァジュラルダとは対極に位置するであろう黒き剣。


 正に、光と闇……希望と絶望を表している。


「――これは、人々の希望」


 突如、少年からからすさまじい魔力が放出され、この場全てを飲み込む。

 天には暗雲ができ、バチバチと音を放ち始める。


 同時に魔王も自身の剣に黒き魔力を集め始める。


「――お前という絶望の対極に位置するものだ! その希望という眩さを受けるがいい!!」

「余は、余は絶望とともにある者! 貴様ら如きの希望など、余の与える絶望で黒く染められるものだ!!」


 少年が天へと突き上げていた聖剣ヴァジュラルダにむかって暗雲から雷の刀身が降り注ぐ。

 同時に、魔王が少年に向かってその黒き剣を振り下ろす。


「「――消えろ!!」」


 少年が振り下ろすと同時にあたりを轟音が支配し、その後静寂が訪れる。

 両者の戦いの結末は、その静寂の後に沸き起こった人々の歓声から、言わずとも分かるだろう。


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