砂漠の町 そのに
「あれ、まだ砂漠なんですね」
後部座席で横になっていた女の子がむくりと体を起こした。ツインテールにしている髪は汗でぺったりと顔に張り付いている。
「あ、起きたんだ、エスタちゃん」
ドリガルがルームミラー越しに確認する。
「おはようございます。……ふああ、シートが固くてあまり気持ちよくないですね。うわ、寝汗ですごいことに……あ、パセリさん、わたしにもハッカをください」
「ういうい」
女の子、エスタシアはパセリからハッカの根っこを受け取り、口に運ぶ。
「スースーしますー。目ざましにいいですね」
「そろそろなくなりそうだから次の街で補充できるといいな」
「この前箱ごと買ってなかったか? もうないの?」
「造作もないわ!」
「そんな威張ることじゃないですよ……」
「あんまり消費が早いようなら、制限をかけることも考えなきゃならないな」
「な!? そんな殺生な!」
パセリはこの世の終わりとでもいうような表情になる。
「当然だろ。費用だってバカにならないんだから」
「鬼! 悪魔! 石頭!」
「何とでも言え」
やれやれ、とじゃれあいをバックグラウンドミュージックにしてエスタシアはハッカを味わいながら窓の外に広がる景色を眺める。
「いちおう道らしきものはあるんですね」
「砂で埋まっちゃってるけどね。昔は交易路として使っていたのかな」
砂を踏み固めて作ったと見られる道路が続いている。だがここ数年誰も使っていないのか、風に舞い上がり飛ばされる砂に埋もれつつある。
同じように外を眺めていたパセリが一点に注視し、声をあげた。
「ドリちゃんドリちゃん。なにかあるよ。十一時の方向、距離五十メートル」
「了解」
そこまでクルマを走らせ、そばに寄せて停車する。それは木でできた看板だった。文字と地図が書いてある。設置されてから一度も修復されていないのか、文字は掠れ軸は痛み、劣化が激しい。
「なんて書いてある?」
「ちょい待ち。掠れてて読みにくいぜ。えーと……『この先、砂の街じゃ、じゃ……』」
「ジャズティスですよ」
「それそれ。この先まっすぐだってさ。この分なら日没前に辿り着けるよ」
「ようやく光明が見えてきたか。よし、行こう」
終わりがないように思えた砂漠も目的がはっきりすれば気が楽になる。ドリガルは意気揚々とアクセルを踏み込んだ。
「あれ?」
しかしクルマは発進しない。タイヤは空転し続ける。
「タイヤがはまった……」
三人は知恵を絞ってこの事態にあたり、なんとか抜け出すことができた。




