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逃げろ  作者: 鷹真
4/6

酩酊

―――。

耳の奥で低く甘い声が響く。

―――。

酔う・・・心地良い、酩酊。

このまま・・・。

このまま、この甘く痺れる感覚に身を委ねてしまいたくなる。

何も見えない暗闇のなかで、唯一の救いとでもいう様な絶対的支配。

捉えられたい。

奪われたい。

何もかも・・・全て。

支配されたい。

生温くて、甘い闇に沈みこんでしまいたくなる―――・・・


翌日、朝から予定していた山中の現地調査を行った。

鬱蒼と生い茂る木々が、太陽の光を遮るのか、薄暗くジメジメとした場所だ。

足元は、びっしりと苔に覆われていて、気を抜くと滑って転びそうになる。

濫立する木々。それに絡まり、制圧せんとする蔓草。太古の森にでも迷い込んだ気分だった。

総毛立つような、恐れ多いような。

感動を覚えて、足元が疎かになったアキラは、苔で滑り転びそうになる。

脇から、手が伸びてきて腕を掴まれ、転ぶ事を免れた。

「滑るからね。気をつけないと。」

支えてくれたのは、深谷だった。

「・・ありがとうございます。想像より凄いですね。・・・・呑まれそう。」

腕をつかんだまま、深谷がちょっと困った顔になりながら言った。

「ん・・、まぁ。実際に呑まれちゃった人たちもいるしね。」

実際に呑まれちゃった人?

それって、どういう事だろうとアキラは首を傾けつつ、深谷を見る。

「・・・現世に決別した人かなぁ。故意なのも、不注意なのもいるだろうけど。」

・・・つまり、死。

ゾクリと震えてしまった。

冗談ではなくて、本当に呑まれると思ったから。

「・・・逃げられないよ・・。」

ぼそりと深谷はつぶやいたが、アキラの耳には届かなかった。


不思議な気分だった。

怖い。恐ろしい。・・・でも、魅かれる。

深い、深い闇に包まれているようで。

怖い、けれど包まれていたい。

幾つもの感情が入り混じって、最終的には甘く溶け込む。

酩酊しているように、何も考えられなくなって、ただ、ただ甘い心地に身を委ねたくなる。


逃げろ・・・。

逃げろ・・・。

最早、警鐘は遠くの方でしか聞こえなくなっていた。

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