酩酊
―――。
耳の奥で低く甘い声が響く。
―――。
酔う・・・心地良い、酩酊。
このまま・・・。
このまま、この甘く痺れる感覚に身を委ねてしまいたくなる。
何も見えない暗闇のなかで、唯一の救いとでもいう様な絶対的支配。
捉えられたい。
奪われたい。
何もかも・・・全て。
支配されたい。
生温くて、甘い闇に沈みこんでしまいたくなる―――・・・
翌日、朝から予定していた山中の現地調査を行った。
鬱蒼と生い茂る木々が、太陽の光を遮るのか、薄暗くジメジメとした場所だ。
足元は、びっしりと苔に覆われていて、気を抜くと滑って転びそうになる。
濫立する木々。それに絡まり、制圧せんとする蔓草。太古の森にでも迷い込んだ気分だった。
総毛立つような、恐れ多いような。
感動を覚えて、足元が疎かになったアキラは、苔で滑り転びそうになる。
脇から、手が伸びてきて腕を掴まれ、転ぶ事を免れた。
「滑るからね。気をつけないと。」
支えてくれたのは、深谷だった。
「・・ありがとうございます。想像より凄いですね。・・・・呑まれそう。」
腕をつかんだまま、深谷がちょっと困った顔になりながら言った。
「ん・・、まぁ。実際に呑まれちゃった人たちもいるしね。」
実際に呑まれちゃった人?
それって、どういう事だろうとアキラは首を傾けつつ、深谷を見る。
「・・・現世に決別した人かなぁ。故意なのも、不注意なのもいるだろうけど。」
・・・つまり、死。
ゾクリと震えてしまった。
冗談ではなくて、本当に呑まれると思ったから。
「・・・逃げられないよ・・。」
ぼそりと深谷はつぶやいたが、アキラの耳には届かなかった。
不思議な気分だった。
怖い。恐ろしい。・・・でも、魅かれる。
深い、深い闇に包まれているようで。
怖い、けれど包まれていたい。
幾つもの感情が入り混じって、最終的には甘く溶け込む。
酩酊しているように、何も考えられなくなって、ただ、ただ甘い心地に身を委ねたくなる。
逃げろ・・・。
逃げろ・・・。
最早、警鐘は遠くの方でしか聞こえなくなっていた。




