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逃げろ  作者: 鷹真
3/6

月下

見知らぬ天井がこうも気になるとは思わなかった。

眠れずに、無意味な寝がえりを繰り返しては、居心地の悪さを痛感する。

ふぅ。

溜息を小さく零して、そっと布団から抜け出す。

隣で寝ている同室の先輩を起こさない様にだ。

物音をたてないよう、注意を払いながら部屋を抜け出す。

廊下はしんと静まり返っていて、もの寂しさを感じる。

ゆっくり、ゆっくり進み、中庭への扉を目指す。

あまり見事とはいえない庭園だけれども、木々や季節の花が植えられていて、

ちょっとした温もりを感じる事が出来た。

先程出てきた扉から離れ、奥まった所にあるベンチに腰を下ろす。

時々、頬を掠る風は優しく、心が凪いで行く。

見上げた月は、朧に見下ろしていた。


ゾワリ。

背筋を駆け上る。

逃げろ・・・。

唐突に頭の中で警鐘が鳴る。

逃げろ。逃げろ。

この場に居ては、捕まってしまう。

逃げろ。

アキラは、ベンチから立ち上がった。

急いで部屋に戻ろうと、中へと続く扉へ向かう。

焦って扉を開くと、急いで中へ飛び込んだ。

どんっ。

「あ、ご・・ごめんなさい!」

急ぐあまりに、前が見えていなかった。

中にいた人にぶつかってしまった。

慌て、謝る。

・・くっ。

抑えた笑い声が降ってきた。

アキラが顔を上げると、肩を震わせる深谷がいた。

「深谷さん・・・」

「君は、クールに見えるのに、案外、慌てん坊なんだなぁ」

そんな言葉に、ちょっとだけ膨れて、偶々です!と反抗してみた。

「こんな時間にどうした?」

心配でもしてくれているのだろうか、深谷はアキラを覗き込むようにして問う。

「俺は・・・初めてのフィールドワークで、緊張してんのかな。

なんか、寝付けなくて。

・・・深谷さんこそ。」

「ああ、今日の成果をな。」

・・・真面目か?さっそくレポートでもまとめてるのだろうか。

「へぇ・・。帰ってからやるのかと思ってました。」

「まぁ、そういう時もあるけどな。」

明日もあるから、寝ようか。と、アキラを促しながら部屋へと歩きだす。


先ほどまでの焦燥は、無くなっていた。

・・・が、頭の片隅で発せられる「逃げろ」の声は、消えなかった。


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