しらゆき・・・・・・ひ、め?
衝動的にやりました。
これからちょいちょい手直ししていく可能性ありです。
1/4 加筆しました。
ここ、レイメイ国には王女が一人いた。
『じゃじゃ馬姫』と呼ばれる姫が。
「陛下。どうなさるおつもりですか? このまま姫様を放っておかれますと嫁の貰い手がなくなってしまいまするぞ!」
「そうですぞ。すでに国内には『じゃじゃ馬姫』という名が浸透し始めております。このままでは国外に名が広がるのもそう遠くはありますまい。」
「だいたい、一国の姫が供もつけず国をふらふらと遊び歩いているというのは……」
会議室で国王と重臣たちが集まり議論をしていた。議論の内容は『じゃじゃ馬姫』についてである。
姫がなぜ『じゃじゃ馬姫』と呼ばれるのか。
それは、いつも姫が供もつけずに一人で馬を駆って旅をしているからである。放浪癖のある姫は突然王宮から姿を消し、しばらくたってから何の前触れもなしに帰ってくる。そのため、姫が王宮にいるのは一年の半分にも満たない。そんな姫を見てとうとう、家臣たちはいかにして『じゃじゃ馬姫』の放浪癖を直すか、という会議を開いたのだ。だが、会議が始まってしばらくしてから伝令が会議室へ駆け込んできた。
「大変です!」
「なんだ! 今は大事な会議中だぞ!」
「も、申し訳ありません…。ですが、姫様が!」
「姫がどうした!」
「子どもをつれて城へ帰ってきたようなのです!」
「なんと…ついに姫様が誘拐を」
「わしはいつかやると思ってましたわい。」
「一国の姫ともあろうものが……」
ざわざわと家臣たちが思い思いに会話をする。
「静まれ。まずは姫の話を聞いてからだ。おい」
「はっ」
「姫と、さらってきたという子どもをここへ。衣服などはそのままでよいから至急来るようにと。」
「はっ。ただいま」
伝令が王の言葉を姫に伝えるべく会議室を飛び出していった。
伝令が部屋を飛び出していくばくも立たず、姫と子どもは会議室へ姿を現した。
ただし、子どもはぐったりとして意識のない様子で姫に抱えられていた。
「このような格好で失礼をいたします、父上。」
姫は子供を抱えたまま器用に頭を下げた。
「よい。余が至急と伝えたのだ。それよりも、姫。その子どもはなんだ? まさか攫ってきたのではあるまいな。」
「まさか。わたくしもそこまで非常識ではございませんわ。」
「では、どうしたのだ?」
「拾ったのです。」
重々しく尋ねる父王の目をまっすぐ見て答える姫。
その潔い態度で発せられた内容は家臣たちに大きな衝撃を与えた。
「姫…犬猫ではないのですから……」
「さすが、じゃじゃ馬姫」
「やることが豪快じゃのう」
「…………。」
「大変じゃ! 宰相が倒れたぞ!」
「あまりの衝撃に気絶なさったようだの…。」
「もうだいぶお年を召されているからなぁ。もしやこのまま……?」
「誰か! 宰相を医務室へ!」
呆れる者、豪気に笑い飛ばす者、放心してしまう者。
思い思いの反応を見せていた家臣たちは老齢の宰相が倒れたことで混乱状態へと陥った。
「静まれ。姫、拾ったとは?」
ざわめく家臣たちを一喝し、王は再び姫に尋ねた。
「ある森を散歩していましたら、数人の泣き声が聞こえてきましたの。不思議に思い、泣き声のほうへ向かいましたらガラスの棺に入れられたこの少年と周りで泣いている小人たちに出会ったのです。」
「待て! ではその少年は死んでいるということか?」
顔を青ざめさせ、唇を戦慄かせた王が震える声でたずねた。
「死んでいる見ず知らずの少年を拾ってくるとは…。」
「さすが、常識の斜め上を行かれるお方。」
老齢の宰相を医務室へと運び終え、残っていた肝の据わっている家臣たちは王の反応へは目もくれず楽しげに会話をする。
「ええい、静まれというに。これ以上姫の話をさえぎればお前たちは退場させるぞ。」
「私の話をさえぎっているのは父上も同じですわ。早とちりして一番に騒ぎ立てたのは父上ですよ? 少し黙って聞いていてくださいませ。」
「む。すまなかった。続きを話せ。」
「えぇ。
ガラスの棺なんて珍しいものにはなかなかお目にかかれませんから近くで見ようと近づきましたの。そうしましたら、中に入れられている少年の血色がやけによかったので生きているのではないかと思い、棺のふたを開けて少年の頬を思い切りはたきましたの。」
「……………。はたいた、のか?」
王の顔色が青白さを通り越して土気色になってしまっている。
「ええ。はたきました。」
「死者かもしれぬ少年の頬をか?」
「ええ。思いっきり。見てみますか? まだ少し手形が残っておりますわ」
そういって姫は少年の顔を王達に向けた。少年の頬には確かに赤い手形が残っていた。
「それで、はたいてみましたら少年がりんごのかけらを吐き出して呼吸をし始めましたの。まさか生き返るとは思ってもいませんでしたので驚きましたわ。その後、少年はすぐに気を失ってしまったのですが、泣いていた小人たちにこのままだと魔法使いに殺されてしまうので別の場所に連れて行ってほしいと泣きつかれましたのでつれて帰ってまいりました。」
「なんと、人助けでしたか。さすがは姫」
「それに、弟も欲しかったところでしたし。」
感心したように声を上げる重臣の言葉をにっこりと笑って否定する姫。
「では、姫。その少年の名はなんというのだ?」
「さあ。わたくしも知りませんわ。」
「知らない、のか?」
「先ほども申し上げたとおり、生き返ってすぐに気を失ってしまったんですもの。名を聞く暇はありませんでしょう?」
「それは…そうだが。名も知らぬ少年を弟とする気か?」
「あら。おかしなことをおっしゃいますのね。名など少年が起きた時に聞けばよいではありませんか。」
「そうではない。身元の知れぬ、怪しい少年をそばにおく気なのかと聞いておる。」
「愚問ですわよ、父上。その気がなければ連れ帰ったりなどしません。どこか近くの町へ預けてきましたわ。別に、父上の養子などにしていただこうなどとは思っていませんわ。私の従者にします。ただ、彼に私のことを姉上と呼んでいただくだけですわ。言ってみれば…ごっこ遊びのようなものです。お許しいただけますか?」
「ふむ……。承知した。そなたの従者とするがいい。」
「陛下!!」
とがめるように王を呼ぶ家臣を腕を振って黙らせ、王は言葉を続けた。
「ただしその少年がそなたを姉と呼ぶことに関してはかまわんが、城内での立場は従者と同じだ。よいな。」
「勿論ですわ。はじめからそれ以外の目的などはありません。」
「ならばよい。…それと、もうひとつ。これからは旅を控えよ。そなたの弟はまだ小さい。供に連れて行くにしても馬での長旅は堪えよう。」
「あら。これを機に私を王宮に縛り付ける心積もりですか? 意地の悪い。」
「少年を気遣っておるのだ。じゃじゃ馬姫に振り回されると体がいくつあっても足りんと聞くからな。」
「そうですわね。ではまずはじめに乗馬の術から覚えていただくとしましょうか。」
「ほどほどにな。」
「ええ。それでは失礼いたします。旅の汚れを落としてきますわ。」
「うむ。さがれ。」
優雅に一礼し、部屋を出て行く姫。
自室に戻った姫は待ち受けていた侍女たちに少年を預け、自身は風呂へと向かっていった。
「こ…こは?」
「あら、目覚めたのね。ここは私の部屋。そうそう、私の名前はコンレイ。あなたの名前は?」
「……セ、ツ」
「そう、セツね。よろしく。あなたは今日から私の従者よ。私のことは『姉上』と呼んでね。」
先ほどの王との謁見のときよりも砕けた口調で話す姫は面白そうに少年を見つめる。
戸惑いながら辺りを見回す少年……セツは姫の侍女たちの手によって徹底的に清められ、衣服もきれいなものを着ていた。
「それにしても…アンナのいうとおりね。磨けば光るとは思っていたけれど、ここまでだなんて……。」
セツの容姿は、晴れた日に光る雪原のようにきらきらと光る銀髪。黒檀のように黒い…とまではいかないがつやのある褐色の肌。少々ひび割れてはいるものの、血のように赤く染まった唇。とても美しい子どもだった。
それから、数年の月日が流れた。セツは美しく成長し、侍女たちからの誘いもたびたびあったが、彼は侍女たちよりも『姉』と呼び慕う少女との時間を大切にした。
姫も、セツのことを気に入っているようで、これまでは供もつけずに出かけていた旅も、セツを伴って出かけるようになっていた。
「そういえば、セツ。最近侍女たちからとてももてているそうじゃない。」
「そうなのですか? たびたびお茶に誘われることはありましたが、すべてお断りしていたのですが。」
「そんなつれないところもまた素敵!らしいわよ。ただ、そろそろきれいなお嬢さんに目を向けてもいいのじゃないかしら?」
「私はずっと姉上のそばにいたいのです。」
「セツ。私もいずれ結婚することになるのですから、そろそろ姉離れなさいな。」
「…………。結婚、なさるのですか?」
とたんに苦虫を噛み潰したような顔になるセツ。
「いずれ、ね。たぶん、北の国の王と結婚することになるわ。」
「なぜ、北の国の王だと?」
「今私に求婚しているのが彼だけだからよ」
「ですが、姉上ほど美しい方だったらたくさん結婚のお申し込みがあるのではないですか?」
「あら、うれしいことをいってくれるわね。でも、それがそうでもないのよ。周囲の国の王子はみんな結婚してしまったから。」
「かたづいた?」
「ええ。そうね。セツもそろそろ知っておいたほうがいいかしら。」
コンレイ姫の周囲の国の結婚事情丸わかり教室~といいながら地図を出す姫。
「たとえば西の国。女嫌いの王子を女に慣れさせるために大臣が国中の女を招いて開いた舞踏会でなんと王子は一目ぼれ。これまでの分を取り戻そうとしたのかあまりにがっつきすぎた王子に恐怖を抱いて女は逃げ出します。けれど諦めきれない王子は女が落としていった片方の靴を使って見事女を見つけ出し、身分の差というものをまったく気にせず結婚。
たとえば東の国。政略結婚が嫌で家出した王子は塔に住む髪の長い女に出会います。魔女の妨害にもめげずに粘り続けた結果。魔法の使える髪長姫と見事結婚。
たとえば南の国…にはもともと王子がいません。いるのは箸より重いものを持ったことがなさそうなかわいい姫たちだけよ。
そこで、登場するのが北の国の王。レイメイ国次期女王の私と結婚し、レイメイ国と北の国……つまり、クロード国を合併させようといってきたってわけ。父上と母上は乗り気だし、私もレイメイ国とクロード国を合併させることに依存はないわ。ただ…」
なんでもはっきりと言う姫にしては珍しく、言葉を濁す。
「姉上? 何に引っかかっておられるのですか?」
「クロード国はつい最近まで女王が治めていたの。女王は、王が死んだためしばらくしてから若い男と結婚したのだけれど、これが、やたら顔のいい若い男で。はっきり言って女王はだまされてるんじゃないかと思っていたのよね。
それで結婚してからしばらくして王との子ども…つまり、前の夫との間に出来た王子が行方不明になっちゃったのよ。女王はしばらく探してたのだけれど見つからなくて。
しかも、そのあと健康そのものだった女王が突然病死してるの。巷では再婚した夫が女王に毒を盛って殺したんじゃないかって噂されてるのよ。噂をそのまま信じるわけではないけれどちょっと怪しいのよね…。だから、もう少し返答を焦らして様子を見ようかと思ってるわ……あと三年くらいは。確か…どこかに絵姿があったはず。」
「こちらです。姫様。」
がさごそと周囲をあさる姫に侍女が一枚の絵を手渡した。
「ありがとう、アンナ。ほら、これがクロード国の王よ。」
姫が持つ絵には精悍な顔立ちの青年が描かれていた。
「もっとも、この絵は数年前のものらしいけど。」
セツはクロード国の王の絵姿に険しい顔でくいいるように見入っていた。
そんなセツの様子には気づかず、優雅にお茶をすする姫。
「……もし、怪しいところがないと判断すれば姉上はクロード国の王と結婚なさるおつもりですか?」
「そうね。今のところ国の合併はいい案だと思うし。」
「愛してもいない男の元へ、嫁ぐのですか?」
「それが王族の結婚よ。東と西の国は例外だけれど。」
「………そうですか。」
「そういえば、そろそろ父上が王位を退かれるらしいわ。」
「では、姉上が女王に?」
「そうなるわね。これであなたとの気楽な旅も当分はお預けね。」
姫は憂鬱そうにため息をついた。
「では、私はひとりで旅にでてもかまいませんか?」
「…意地悪ね。私は行けないというのに。まぁ、いいわ。姉離れするいいチャンスですものね。どれくらいの予定なの?」
「そうですね…。長くなると思います。」
「決まっていないの?」
「はい。あてのない旅になりそうですから。」
「あら、楽しそう。私が即位して少し落ち着いたら、また二人で出かけましょうか。」
「はい。楽しみにしています。」
「それで、いつから行くの?」
「明日からにでも」
「気をつけて行ってらっしゃいね。」
次の日、セツは旅立った。
そして、四年がたった。
「女王陛下。お手紙でございます。」
「セツから?!」
「いえ。クロード国国王からでございます。」
「ああ、そう。あとで目を通すわ。そこに置いておいて頂戴。」
四年がたってもセツは戻ってこなかった。それどころか、連絡ひとつよこさなかった。ひめ…いや、女王は後悔していた。セツを一人で行かせたことを。
女王にとってセツは失いたくない、失ってはならないもののひとつだったということを彼女はセツがいなくなって初めて気づいた。セツがいなくなってからの四年間、彼女は『じゃじゃ馬姫』と呼ばれていたことが嘘のように元気を失い、静かに政務をしていた。
「陛下。クロード国からのお手紙を見なくてよろしいので?」
「見るわよ。どうせたいしたことは書いていないんでしょうけど。内乱は終わったのかしら?」
「半年ほど前に終結したようです。勝ったのは王子だったそうですよ。」
クロード国では二年ほど前から内乱が起きていた。行方不明になっていたという王子が現れ、現国王に不満を持つ者たちを集め内乱を起こしたのだ。
国王の血は王子にのみ流れているため、王子の味方をするものは多かった。
半年ほど前に内乱は王子の勝利に終わった。それから半年をかけて、クロード国は落ち着きを取り戻そうとしていた。
「陛下! 大変です!」
伝令が女王の執務室へ駆け込んできた。
「うるさいわよ。少し落ち着きなさい。なにがあったの?」
「クロード国の国王が来ました!」
「…国王が?」
「はい!」
「……どうやら、新しい王は愚鈍のようね。」
「陛下。決め付けるのは早計かと。」
「あら、愚鈍なものを愚鈍といって何が悪いの? そうでしょう? 内乱が終わって落ち着き始めているとは言えまだ半年しかたっていない国をあけて、自らほかの国に来るなんて。その上先触れもなしに。無礼だとは思わなかったのかしら?」
「陛下。陰口はそのくらいにしてお支度をなさったほうがよろしいのでは?」
「そうね。謁見室でお会いします。クロード国の国王をお通しして。」
「はっ」
謁見室で、女王は椅子に座り、クロード国の国王を待ち構えた。
扉を開け、銀色の髪に褐色の肌の美丈夫が入ってきた。
「先触れもなく突然の訪問をお許しください。手紙では埒も明かないと思い、自ら参りました。
わたくしは、クロード王国国王、雪白・スクレイド・ツヴァイ・クロードと申します。
本日はレイメイ国の女王、金鈴・スジュール・サヴァン・レイメイ陛下に国の合併と結婚を申し込みに参りました。」
目の前で優雅に一礼をする青年は女王にとって見覚えのある人物だった。
口元を隠す扇の裏で呆然と固まる女王に青年はにっこりと笑って止めを刺した。
「お久しぶりです、姉上。」
これのジャンルを恋愛にしてもいいのだろうか・・・?
本当はもうちょっと恋愛っぽくする予定が、作者の経験不足によりこんなものになりました。
ぶっちゃけると恋愛話書いたことありません。
これから精進していきたいです。
一応補足すると、セツ君は姫と結婚するために自分の王国を取り返しました。
小説で伝わるようにしろよっ!て話ですね。すみません。
ちなみに、メインテーマの白○姫以外に三つほどほかの童話をモチーフにした部分が登場しますが(モチーフっつーか結構そのまま)、元はもっといい話です。決して小説内に書かれているような話ではありません(特に西の国はだいぶ違います。)作者は童話も御伽噺も大好きです。この改造に悪意はありません。