27. 告白
フィルとデカルトは、図書委員長補佐である。放課後は毎日、図書準備室で会議をしたり、図書新聞を作ったり、何かしらの活動を行っている。
二人が第四校舎三階の図書準備室に入ると、既に同じく図書委員長補佐のオッカムと、図書委員長のアウグスティヌスがいた。仲睦まじく、どこか甘い雰囲気を醸しながら談笑していたが、二人の登場に気付いて背筋を伸ばした。
「遅かったわね、二人とも」
「ごめんね、ティヌスちゃん。ちょっと、生徒会室調べてた」
「何かわかったのか?」
「……」デカルトは少し黙った後、「ううん、何も」と答えた。
「まぁ、いいわ」
と言って、アウグスティヌスは立ち上がった。
「今日は予定を変更して、蔵書点検を行います。盗まれた本がないかどうか、調べましょう」
わかりました、とフィルはすぐに応じたが、デカルトは悩ましげだった。
おそらく犯人の目的は、本なんかではないだろう……デカルトは、そう思っていたからだ。
蔵書点検は、本来一日がかりでやるものだ。放課後の、短い時間で完遂するものではない。
結局、蔵書の半分を点検し終えたところで、残りは明日にしようか、ということになった。
図書準備室に戻り、疲労した体を少しばかり休ませる。しばらく雑談を交わしたあと、彼女らは帰ることにした。
アウグスティヌスとオッカムが立ち上がり、続いてフィルも席を立つ。しかしデカルトは立たなかった。
「あれ、デカルトは帰らないのか?」
「うん、ちょっと」
それからデカルトは、少し恥ずかしそうに、フィルの袖を摘んだ。
「フィル君もちょっと、残ってくれると嬉しい」
「……へ?」
なにやら意味深な行動である。オッカムは眉をひそめ、アウグスティヌスは含みのある笑みを浮かべた。
「じゃあ、鍵を置いていくから、ちゃんと閉めてね?」
そう言って、二人並んで廊下へ出て行く。
袖を摘まれてしまったフィルは、しばらく扉とデカルトを交互に見ていたが、やがて座った。
気まずい沈黙が流れる。
「あの、フィル君」
「な、なに?」
デカルトが顔を近付けてきた。
放課後の教室、年頃の男女が二人きり。顔を寄せ合い、向かっている。
このシチュエーションは、あれか。いわゆる告白的な何かか。フィルは狼狽した。いやまぁ正直な話、デカルトの気持ちには薄々気付いてはいたし? いずれこういうシチュエーションが来るのかとは思っていたけど? でもまさかこんな唐突に。まだ心の準備が。それになんて答えよう。どうしよう。
だがデカルトがしたのは、告白ではなかった。それは、告発だった。
「わたし、ようやくフーダニット事件の犯人が、わかったわ」
「……え?」
拍子抜けした。
「あ、そう」
「なにその気の抜けた返事」
告白だと思ったから、とは言えない。
「いや、だってさ……」
フィルは胡散臭そうに言った。
「このフーダニット事件、皆が興味を持って、色んな推理が飛び出してきただろ? でも結局は、全部的外れだったじゃないか。デカルトだって、一度ソーカルが犯人だって指摘して、外したろ?」
「確かにそうだけど……。でも、今度は違う。今度はちゃんと、犯人も、動機も、トリックも、全部揃ってる」
デカルトの顔は真剣そのものだった。まあ、話を聞くだけなら良いか、とフィルは思った。
「それで? 犯人は誰なの?」
尋ねるフィルに、デカルトは人差し指を一本立てて、得意気に言った。




