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哲学理論はミステリを解けるか?(連作作品集)  作者: 黄黒真直
最終章 哲学は真理を見抜けるか?(長編ミステリ)
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13. 動き出す生徒会

 昼休み。生徒会室には、釈迦と鳩摩羅什しかいなかった。二人は部屋の真ん中のテーブルに、弁当を広げていた。交わされる会話は、とりとめのないものだ。生徒会の仕事の話をしていたかと思うと、先生の噂話になり、かと思えば昨日見た犬の話になって仕事の話に戻る。

 しかしフーダニット事件の話は、一切出なかった。釈迦は、本当に静観するつもりのようだった。

「ごちそうさまでした」

 鳩摩羅什は手を合わせると、弁当箱を片付け、席を立った。

「それじゃ、仕事してきます」

「ご苦労様、プーちゃん」

 プーちゃん、というのは鳩摩羅什のあだ名だ。鳩摩羅什、くまらじゅう、くま、くまの○ーさん、という連想である。

 鳩摩羅什の仕事場は、生徒会室の隣、元倉庫だった部屋である。窓がないので昼間でも暗い。電気を点けて、座卓の前に座る。

 座卓の横には、栄養ドリンクと生徒からの意見書が置いてある。意見書の入った箱には滑り台が付いており、それは廊下側の壁に開いた投函口に繋がっている。投函口に投げ込まれた意見書が、この箱に流れ着く仕組みだ。

 今朝見たときは二通だった意見書が、今は六通にまで増えている。一日で投げ込まれる意見書の数は、いつも十通前後。放課後までに、まだ何通か来るだろう。

 鳩摩羅什は箱から意見書を取り出して、座卓に載せた。一通目をまず開く。

 意見書に、記名は強制していない。だから多くの場合、無記名だ。そして意見書はどれも、難解な言葉遣いで書かれている。それが何百ページも続くので、目の疲労を解消する栄養ドリンクが欠かせない。

 昼休みの間に少なくとも二通、いや三通は翻訳しなくては。鳩摩羅什は速読術を駆使して、意見書を読み始めた。


 そして鳩摩羅什は、本当に昼休みの間に、三通翻訳した。

「会長」と、部屋から出てきた鳩摩羅什が言った。「いま翻訳した意見書なんですが……」

 蓮の形をした椅子の上で胡坐をかき、釈迦は書類を読んでいた。机の上に書類を置いて、顔を上げる。人好きのする顔で微笑んで、鳩摩羅什を見つめた。

「どうしたのかしら?」

「えと、生徒会はフーダニット事件の真相を突き止めるべきだ、って意見が一通……」

「……そう」釈迦はおっとりと微笑んだ。「では解決に乗り出すべきねぇ」

 釈迦は鳩摩羅什から視線を外し、部屋の中央を見た。鳩摩羅什も、釣られてそちらを見る。

 部屋の中央には、いつの間にか三蔵がいた。要らない書類をまとめ、紐で縛っていたが、二人の視線に気付いて顔を上げた。

「三蔵ちゃんとプーちゃん」と釈迦。「二人に、フーダニット事件の解決を命じるわ。犯人は誰か。何故こんなことをしたのか。調べて頂戴」

 三蔵と鳩摩羅什は顔を見合わせた。元々二人は、この事件を調査すべきと主張していたのだ。異論は無い。

「もちろんプーちゃんは、翻訳のお仕事もするようにね?」

「えー」

 さすがに異論を抱いたが、元々は自分で言い出したことだ。諦めて受け入れることにした。

 とにかく二人とも、外に出た。鳩摩羅什は書記らしく、ノートとシャーペンを手にしていた。生徒会室の扉を閉めて、考える。

「調べると言っても、どうしたら良いのかなぁ?」

 鳩摩羅什が三蔵を見た。三蔵は、首からぶら下がる猿、豚、河童のアクセサリーを握り締め、

「情報は、足で稼ぐものよ!」

 と力説した。

「とにかく、西から東まで、学園の色んな場所に行って、話を聞くべきよ。スタンプは学園中に押されてるみたいだけど、押されてない場所もある。その違いが、犯人を特定する手がかりになるかもしれないわ!」

「そっか、そうだよね。それじゃまずは、どこに行くの?」

「近場から当たろう。まずはこの第四校舎ね」

「わかった」

 言うや否や、鳩摩羅什は隣の部屋の扉を開けた。

 第四校舎は、いわゆる部室棟である。生徒会室や図書室のほかは、各部屋に部員の少ない部活が押し込められている。

 生徒会室の隣の部屋は、「少女革命部」だった。中にいたのは、黒髪をポニーテールにした少女だった。テーブルの上に札束を並べていたが、鳩摩羅什の入室に気付いて慌てて傍らの袋の中に札束を突っ込んだ。

「な、なに?」狼狽しながら立ち上がる。「部屋に入るときはノックしてくれない?」

「いまのお金は……?」

「ふん」少女は腕を組んで、鳩摩羅什から視線を外した。「見えざる手が稼いでくれたのよ」

「見えざる手?」

 何のことだかわからなかったが、聞いている時間もない。鳩摩羅什と三蔵の目的は、まず被害状況を確認することだ。

 三蔵が一歩前に出て、少女に言った。

「私達は生徒会の人間よ。私は三蔵、こっちはプー……鳩摩羅什よ。あなたは? ここの部員?」

「ええ、そうよ」腕を組み、どこか見下すような視線のまま、少女が言った。「あたしはスミス。生徒会が何の用?」

「フーダニット事件の被害状況を調べてるの。この部屋はどうだった?」

 三蔵が室内を見渡す。

 部屋の構造は、生徒会室と変わらない。一般教室の半分程度の広さで、出入り口は一つ。部屋の奥に窓がある。第四校舎の部屋は、ほとんどすべて、この構造だ。生徒会室の両隣にある、鳩摩羅什の仕事部屋と相談室だけが、特殊な作りをしているのだ。あと、三階の図書室、司書室、図書準備室の三部屋も、他の部屋と異なる作りをしている。

「この部屋は無事だったよ」とスミス。「施錠してるからね」

 見ると、扉に南京錠が付けられていた。外と中、両方に留め具がある。いまは内側に錠前がぶら下がっていた。

「どうして、両方に留め具があるの?」

 鳩摩羅什の質問に、スミスはふん、と鼻で笑った。

「この部屋を出るときは、外に南京錠をつける。中にいて、誰にも入ってきてもらいたくないときは、内側から南京錠をかける。サルトルに教わったんだ」

 サルトルって、どこかで聞いたな。鳩摩羅什は思った。あ、そうだ、さっき放送で流れていたんだ。

「この部屋には、お金が仕舞ってあるからね……」スミスが小声で言った。「施錠は完璧だよ。だから被害も受けなかった」

 三蔵は、改めて部屋の中を見た。部屋の中央にテーブル、壁際には金庫とロッカー。漫画やゲーム機なども置かれているが、それはどの部室でも同じだろう。

 この部屋でスタンプが押されているのは、窓だけだった。生徒会室と同じく、外から押されている。

 鳩摩羅什は、この部屋の被害状況をノートに書き留めた。スミスに会釈して、部屋を出る。

 この調子で、どんどん調べていこう。

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