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ラスボスの姉に転生しました――闇落ちする運命の妹を救いたい  作者: 有原優


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第一話 目覚め

 目が覚めると知らない天井が見えた。

 少なくともその模様から私の実家ではないことがわかる。


 この屋敷は、まさに木で象られた感じがする。


「っ痛」


 

 頭が痛くくらくらとする。

 思考がまともに定まらない。

 

 頭痛が酷い。

 昨日何があったのか、ほとんど覚えていない。


 だけど、唯一思い出せるのはお酒を大量に飲んでいた事だけだ。


 私は昨日好きな人に振られた。

 好きで五年も交際していたのに、不倫していたことが発覚したのだ。それをたまたま見てしまった私はすぐさま問い詰めに向かった。

 すると、初動で、「別れよう。オレにはほかに好きな人がいるんだ」と言われたのだ。


なぜ、こんな惨めな気持ちを思い出さなければならないのか。わたしがようやくつかんだ幸せだと思ったのに、それはすぐにあっさりと崩れ落ちた。


それはただのわたしの幻想だった。



それから近くの居酒屋に行ってやけ酒をしたことだけは覚えている。


そうだ、記憶が鮮明に思い出される。

わたしはその帰り道に車にひかれたのだ。だけど、なぜ死んでないのだろう。




 ああ、そうだ。そうだった。私は額に手をやる。


 私は思い出した。

 私は死んで生まれ変わってたのだ。

 この少女に。


 車にひかれた後、赤ちゃんとして生まれ変わったのだ。


 そしてどんどんと前世の私の記憶と今世の記憶が混ざり合って混濁していく。

 だが、直ぐに脳が理解した。


 この世界の正体に。

 このゲームには見覚えがある。確か私が前世でやっていたゲームの中でこの家のシーンがあった。私が熱中してやっていた、乙女ゲームに。


 

 私はこの作品のラスボスのシエルの姉リエラだ。

 シエルは最後に聖女セリナに滅ぼされる。

そして、私もまた酷い末路を……


 それを思い出した瞬間、頭が痛くなった。

 情報量の多さに?

 いや、リエラとシエルを取り巻く環境を思い出したのだ。


 シエルは将来的に闇落ちすることが確定しているのだが、その理由は至ってシンプルなのだ。

 そう、親の愛の欠如と、生まれ持った力の影響だ。


 リエラは両親の実の娘だ。しかしシエルは父がメイドを襲い生まれた子供。

 浮気の末生まれた。望まれぬ娘なのだ。

 

 だからこそ、父はシエルは見て見ぬふりをし、母は不貞の子であるシエルにいじめをしていた。

 だが、シエルはその中でも頑張って愛を得ようと努力をしていた。


 勉学に励み、更に魔法についても学びを深めていった。

 だが、それが逆効果だった。

 その力は次第に両親を怖がらせていき、最終的には家の地下牢に閉じ込められることとなったのだ。


 

 理由は単純だ。シエルの発芽させた魔法こそが問題なのだ。

 



 闇魔法。


 その名の通り、闇を扱う魔法だ。

 その魔力は暗く、暗黒であり、多くの人に襲えられている。


 この魔法のせいで暗黒面に堕ちたとさえ言われたのだ。


 そして、その闇魔法が原因で、最終的に通う事になる学院でもいじめられていたのだ。



 今の時系列は分からない。だけど体の成長具合からある程度推察できる。

 おそらく時系列としてはシエルが家の地下牢に閉じ込められる云々の時系列だろう。


 もう、手遅れかもしれないと思った。

 だけど、希望は捨ててはいけない。

 

 シエルを守れるのは私だけなのだから。

 だが、リエラはシエルを両親と共に虐めていた。

 そしてその記憶はこの体にしっかりと刻み込まれている。


 乙女ゲームでいうところの悪役令嬢というのが正解だろう。


 ちなみにリエラの記憶は私の体の中に残っているが、感情までは一緒に残ってはいない。

 ともなれば、リエラの体に人格が宿ったというのが正解なのだろうか。


 リエラはこのゲームでは哀れで愚かな悪役キャラだ。

 何しろ、王太子《好きな人》の心を射止めることもできずに、哀れにも虐めていた妹に無残に殺される役なのだ。


 ああ、記憶を掘ったところで絶望しか見えてこない。


 それにシエルにしてもだ。

 わたしはゲーム中シエルの事が大好きだった。

 だからこそ、ゲームの中でシエルが救い無く散っていくのが悲しかった。

 わたしが死ぬのも嫌だが、シエルが散るほうが嫌だ。


 シエルを守りたい。そう思った。


 そもそも私はなんでもっと早くに前世の記憶を取り戻さなかったのだろうか。

 そうすればもっと手の打ちようはあったのに。


 私はため息をこぼし、ベットから起き上がる。

 窓の外を見るにまだみんな起きていないだろう。

 まずは、現状確認のために屋敷を歩き回らなくては。




(静か……)


 ゲームの中で見るよりも屋敷は広かった。

 この家は4人で住むにはあまりにも大きすぎる。

 厳密に言えば召使いなどもいるけれど、彼ら彼女らを含めても10人には満たないだろう。


 まずはシエルを探さなくては。


「お嬢様、何をなされているのですか?」


 私の肩がビクッと振れる。

 恐る恐る振り返ると、そこにいたのはメイド長のセザンヌだった。

 確か設定集で見た。鬼のような女だって。そしてこの体にも恐怖が刻み込まれている。


 リエラの記憶を探る。

 うん、リエラが怒られている記憶しかない。


「お嬢様、まだ朝ではありません。ちゃんと鐘がなってから起きてください」


 朝の鐘の事だろう。朝八時に鐘がなるのだ。


「少しくらい速くてもいいじゃない」

「駄目です」


 やはりしつこい。


「それよりも1つ訊いてもいいかしら」

「なんですか?」

「シエルはどこ?」


 その言葉を聞いた瞬間セザンヌが固まった。

 いけないことを聞いてしまったのかしら。


「お嬢様には教えられません」


 冷たい言葉だった。到底メイドがその家の長女に放つ言葉とは思えないくらいに。

 やはりもう地下牢に折檻されているのだろう。


「どうしても駄目かしら」

「駄目です、さあ部屋に戻ってください」

「どうして?」

「お嬢様は、妹様を虐めるのでしょう」


事実だ。

リエラはシエルをことある毎にストレスの発散に用いていた。

道具だ。ストレス発散の道具として扱っていた。


 我ながら最低だと思う。

 私がリエラに宿らなければ、リエラはこのままシエルを虐め続けていたのだろうか。


 ともかく、これ以上ごねるのは危険だ。

 私は部屋におとなしく戻ることにした。


 やはりこうなれば、お父様に聞くしか無い。

 そう私は思った。


 ひたすらに鐘がなるのを待つ。一度目の鐘の音が起床時間。二度目の鐘の音が食事の時間だ。

 この世界でも、時計はある。乙女ゲームの世界の中だから、ありがたい。

 食事までは三十分だ。わたしは急いで服を着替える。


 しかし、それにしても。リエラはなんて美しいのだろうか。

 

 前世のガサツな私とは大違い。頑張って化粧やスキンケアをしたけれど、それでも男一人もつなぎ留められなかった。

 だけど、今のわたしは、肌もきれいだし、目もキレている。口元もキレイだ。

 

 そもそもわたしは姉のリエラも好きなキャラの一人だった。勿論それは見た目だけの好きなのだが。



 リエラのその美貌が美しかったのだ。その美貌がわたしの元に。

それだけで、嬉しい事だ。今はそれを置いといて、懸念点が沢山あるのだが。


 鏡を五分眺めていた事に気が付き、慌てて服を着替えた。


鐘が鳴ると同時にわたしは食事場へと向かう。やはり、案の定遅刻だ。

 間に合うと思っていた。だけど、思ったよりも遠い。

 それは私の見積もりが全面的に甘かったのかもしれない。


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