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準備運動

 外へ出る前にやる事。


 それは――準備運動だ。


 建設現場では、朝礼の前にラジオ体操を行う事が多い。


 なので、俺も準備運動としてラジオ体操をしようと思う。


 両腕を上に伸ばし、横から下ろす動きから順番にこなしていく。


 音楽は無いが、身体――いや、この身体で行うのは初めてだから、身体ではなく魂か――が覚えているようで、スムーズに身体が動く。


 身体をねじる運動になり、左後方に大きく腕を振り上げたところで、そういえば、建設現場によってはここで、「ヨイショッ、ヨイショッ」って掛け声を入れていた。


 続く脚を開いて手を肩に、そして上に伸ばして戻す運動では、「いち、にっ、さん、しっ、ごぉ、ろく、しち、はち、にぃ、にっ、さん、しっ、ごぉ、ろく、しち、はち」と声を出すんだよなあ。


 なんてことを思い出しながら、運動を続けていく。


 ちなみに今は声を出していない。この場でヨイショヨイショと発するのはちょっと恥ずかしい。


 最後に深呼吸して終了――すーーはーー、すーーはーー。


 って、準備運動でめちゃくちゃ疲れたんですけど。はーーはーー。


 この身体、運動してなさすぎる。ふーーはーー。


 今日はもうこれでいいか。外に出るのは明日でもいいだろ――と、なりそうな雑魚メンタル持ちではあるが、さすがにビビって心の中でずっと、やらない理由を垂れ流してても無意味だろう。


 よし!


 改めて気合いを入れて、行動に移る。


 入口から普通に出ようとすると、母屋から丸見えで、こっそり抜け出すのは不可能なので、この部屋の窓から出る。


 しかし、窓から地面まで微妙に高さがあり、出るだけであれば飛び降りればいいが、それだと戻ってこれるかわからない――というか、戻ってこれないだろう。


 となると、外から帰るための足場になるものを用意する必要がある。


 まあ、深く考える必要もなく、この部屋にある椅子でいいだろう。


 今の俺には、この程度の椅子を外へ出すことも普通にやるなら難しいが、スキル【クラフト】の収納がある。


 椅子をインベントリに収納し、窓を開け窓枠に乗る。


 上半身を乗り出して、椅子を外に出す。


 うむ。いい感じだ。


 外側に背を向けるようにして、椅子の背もたれに足をかけゆっくり下り、座面に乗る。


 そして座面から地面に下りる。


 この世界に来てから初めて、土の上への一歩である。


 普通に考えれば、たかだか一歩目でしかないが、俺にとっては大きな大きな第一歩だ。


 ところで、土の上に下り立ったといっても、素足というわけではない。きちんと靴を履いている。


 この世界は――この国だけかもしれないが――家の中でも靴を履く文化なので、靴を取りに行く手間が省けた。


 いやー外だ。めっちゃ外だ。


 素材になりそうなものがそこかしこにある。


 インベントリの中に集めまくるぜ!


 早速行くぞ――っていや待て。待て待て俺。落ち着くんだ俺。


 さっき慎重に行動する。周囲の確認をするって誓ったばかりじゃないか。


 まず周りを見回す。


 人や魔物など、生き物の気配は無し――とはいえ、本当に何もいないかなんて確証はない。


 だからこそ慎重に行動しようってことを再確認する。


 まずは足場にした椅子をインベントリに収納。


 万が一ここが誰かの視界に入って、椅子が置いてあったら、不審にもほどがあるからな。


 再び周囲を見回し、家の裏手側にあり、母屋からは死角になっている、林だか森だかわからないが、木の生い茂った方へと歩き始める。


 石や枝、落葉などインベントリに収納しつつ進む。


 ちょっと進んだところで、手頃な石を一つ選び、家のある方向とは逆側の、木の根元を掘って土を回収する。


 土をゲットしつつ、掘られた跡から木を見た先に家となるよう、目印にしていく。


「ふー」


 立ち上がって周囲を見回す。確認、警戒大事。


 しかし、そのへんに落ちてる石だと地面掘るのにも一苦労だ。


 スコップとかシャベル――足で押し込めるようになってるかどうかが違いなんだっけか? どっちがどっちか知らないけど――を【クラフト】して使いたい。ついでに、ナイフや斧や鎌のような物も【クラフト】したい。


 いつになったら作れるかわからないし、作れたところで効果的に使える物になるかもわからないが。


 それにしても、家から一分もかからないような距離の場所にいるが、なんだかとても疲れた。


 この身体の体力の無さと、神経を張り詰めているせいだろう。


 距離にして十数メートル、時間にして数分しか行動していないが、早くも帰ろうと思う。


 この程度の距離のために、ビビりすぎてたし慎重すぎだと自分でも思うが、臆病者のが戦場では生き残るらしいし――と自らに言い訳しておくことにする。


 ということで、(きびす)を返し来た方へと戻る。


 家が近づいたところで警戒を強める。


 使用人の誰かが外にいて、見つかったら面倒だ。


 慎重に部屋の窓の下に歩き、インベントリに収納した椅子を設置。


 あとは窓枠に登ったところで、椅子を回収して部屋に入り、元あった場所に椅子を置き直す。


 一時間にも到底満たない冒険だったが、疲労感が半端ない。


 今後も資材集めを続けて、行動範囲を広げるために、森の中の把握、体力の向上、必要な道具の製作、を目標に掲げていこう。


 今日のところはベッドに倒れ込んで――せっかくだから拾った資材を【クラフト】でいじろうかと思う。


 せっかく拾ってきたし、石でも【クラフト】で加工してみるか――。

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