危険予知活動
俺の新たな計画とは、難しいことでも奇をてらったようなことでもなく、単に外に出ようということだ。
木、土、石、なんでもいいから、【クラフト】の素材になりそうな物を拾ってこようと思っている。
このためにいくつか伏線も張っておいた。
食事量を増やして元気さをアピールし、魔物や外の世界に興味があると見せる。
これで、万一無断外出が見つかったとしても、仕方ないと思わせる事ができる――といいんだが。
ともかく、この誰も来ない時間を利用して、こっそり外出してこっそり帰って、何食わぬ顔で夕方を迎えようと思っている。
お願いすれば、外へ連れ出してくれるだろうが、それでは【クラフト】に関する実験がしにくい――というかできないだろう。
こっそり外に出ようと考えたとき、まず最初に浮かんだ懸念が、おうちの人に見つかったら怒られて困るかもなあだった。
他にも心配するべき事がたくさんあるはずなのに、そんなことが気になってしまったのだ。
健康っぷりと外への興味を示しておいて、後は何かしら書き置きでも残しておくか、と思っていたのだが、よく考えてみたら書くものも紙も何も持っていない。
まあ、伏線を張ろうが張るまいが、書き置きを残そうが残すまいが、こっそり外出したことがバレれば、面倒な展開になることは避けられないことには変わりなさそうで、結局無意味に終わりそうではある。
なんだかんだ言っても、見つからないことを祈るしかなさそうだ。
実際、気にかけるべきは他にもっとあるのだ。
よしっ! ここは一つ、外に出る前に、前世の建設業に倣って危険予知活動をしてみるか。
危険予知活動は、その日の作業における危険を予測し、その危険への対策を考えるというものだ。
本日の危険ポイントその一。攻撃的な魔物と鉢合わせ殺される。
できる対策としては――周囲の警戒と確認。ってところだろうか?
危険予知でよく出てくる、周囲の確認よいか? 周囲の確認ヨシ! である。
しかしこれ、対策としてはあまり褒められたものではない。
心掛けないよりはマシだが、所詮気の持ちようというか、意識の問題でしかなく、具体的な対策とは言えないのだ。
では、魔物に襲われない為の具体的な対策とは?
例えば、護衛を付ける、だが、一人でスキルの検証をしたいのに、人を付ける選択肢は無く、そもそも護衛を頼む人物も居ない。
あとは、武器防具を用意する、だと、そんな装備品など持っていないし、仮にあっても魔物に勝てるのか怪しい。
他には、魔法やスキルで感知する、なんてことも、人によってはできるかもしれないが、俺には無理だ。
最終的に思い付く、実現可能な対策は、慎重に警戒するくらいしか無い。
外に出ないってのもあるが、それこそ本末転倒だ。
昨日の話では、この辺りの魔物は狩られているらしいので、出逢う確率が低いのは幸いだろう。
危険ポイントその二。道に迷って帰れなくなる。
対策としては――遠出はせず、わずかな距離でも目印を用意する。だろうか。
すぐそこだとしても、木で視界を奪われれば、家の方向がわからなくなる、なんて事態が起きるかもしれない。
危険ポイントその三。ついスキルを使ってしまい、魔力枯渇状態に陥り倒れる。
対策としては――これこそ意識の問題で、家に帰るまではスキルを使わない。に尽きる。
危険ポイントその四。体力が尽きて倒れる。
今まで動かす機会がほとんどなかったこの体だ。どの程度の運動に耐えられるか未知数なのだ。
対策としては――自分の体力と相談しながら慎重に行動する。かな?
これ、気をつけるべき危険ポイントはたくさんあるけど、対策は慎重に行動するしかないのかもしれない。
現状、手持ち――実際の持ち物という意味でも、スキルや魔法という意味でも、使える環境や手段という意味でも――が無さすぎて、取れる対策がほとんど無い。
危険ポイントとしては、つまずいて転ぶ、木の枝などに引っ掛かる、草で肌を切る、石や木など尖った物が刺さる、などなどあるが、やれることは周囲を確認し、不用意な行動は慎むと意識するのが重要かつ、唯一ともいえる対策というわけだ。
よし。危険ポイントもある程度洗い出したことだし、そろそろ行くか。
家から近い範囲でしか動かない予定ではあるが、いざ出るか、となるとちょっとビビって緊張してきた。
すーはーすーはー。
心を落ち着けて行くぞ。
――いや待て、前世に倣うならもう一つやる事がある。
それをやろう。