授業方法
ゴウジが一歩前に出る。
「私の教え方ですが――」
ゴウジが言うには、地面に棒で書くというのが基本らしい。
黒板やホワイトボードのような物は無いし、紙も潤沢にあるわけではないので、こういう形が早くて簡単なようだ。
となると、必要なのは教科書とノート、筆記用具、それに加えるなら黒板やホワイトボードのような、部屋中から見えるサイズで書けるもの、だろうか。
黒板とチョークか、ホワイトボードと水性マジック。全て作り方どころか素材すらよくわからないものだ。
別のところでも使えるかもしれないし、機会を見て黒板とチョーク若しくは、それの代用となるものを【クラフト】してみようかな。
「それでオウギ、何か良い方法は思い付くかい?」
ゴウジが話し終え、一呼吸置いたタイミングで兄上が口を開いた。
「いえ。まだ何も思い付かないです」
と悩むフリをしながら答える。
一つすぐにでもできそうなアイデアはあるが、まあすぐに何かする必要も義理もないだろう。
自由の対価は昨日払ったしね。
「何なら、オウギが教師をやってくれてもいいよ? 報酬も出すし」
正直に言うが、教師はやりたくない!
「いやあ、僕に教師は向いてないと思います」
「オウギに向いてないなら、この世界の誰も向いてないことになると思うけどね」
「こんな子どもに教わるなんてイヤじゃないですか?」
「そんなことないと思うよ」
兄上は俺に教師もさせたいのかもしれない。
教師をすれば、改善案出しとかマニュアル作りとかまで勝手にやってくれるだろうとか考えていたりまでするのか?
「フオリ家に支払うものが何も無い時に、やらせてもらうかもしれないってくらいですね」
「やりたくなったら気兼ねなく言ってね。いつでも待ってるから」
やりたくなることはたぶん無いと思うけどなあ。
「その時はお願いします」
固辞し続けるのも面倒なので、適当に返しておく。
「ところで、お金の方は大丈夫なんですか? 教師をするなら報酬を出すと言っておりましたが、出す資金はあるんですか?」
「幸い、と言っていいのかわからないけど、魔物の大量発生時に、変異種と呼ばれる魔物も現れたようでね。それを倒して得た素材を国に売りつけた――いや、献上した結果、貢献の報酬として金銭をもらったようで、それなりにあるんだよね」
魔物の大量発生によって孤児も増えたが、対処する過程で資産も増えたということか。
「当座の資金には困らないということなんですね」
お金に困ってないのは良いことだ。
「それにしても――」
兄上はこちらをしっかりと見据える。
「昨日の父上とのやり取り、さっきのハーティックとの訓練、この場の会話。オウギは本当に普通の人間ではないんだね」
兄上にバケモノ扱いされました。
「見た目はただの子どもですよ?」
「なら頭脳は?」
俺はどこぞの名探偵のような頭脳を持っているわけではなく、この世界には無い知識と経験があるだけなんだよなあ。
「さて? どうなんでしょうね?」
「うーん。色々気になるところだけれど、細かく聞き出すことは父上から禁じられているんだよね」
父上との約束事は守ってくれるようだ。
まあ、しつこく聞かれたところで答える気はないし、執拗に続くようならばこの家から出ていくしかない。
「ともかく、良い授業方法を思い付いたり、教師をしたくなったらすぐに言ってね」
兄上はそう言って人の良さそうな笑顔を俺に向けた。
話を終え、本邸へと戻っていく兄上の背中を見ながら、俺も離れに戻るかと思ったところで、聞いておきたいことを思い出した。
「兄上」
「うん? なんだい?」
振り返る兄上。
「ガイゼさんに聞きたいことがあるんですけど、僕は勝手に本邸に入ってもいいのでしょうか? それともゴウ爺を通すべきでしょうか?」
「あー、僕は全然構わないと思うけど、父上……よりも母上か? まあともかく色々と面倒かもしれないから、ゴウジに話す方が丸いかもね」
「わかりました」
何かあって本邸に入りたくなったとしても、やはりゴウジに話を通してからにするべきか。
もしくは完全ステルス潜入か。
本邸潜入編は面白そうだし、今度やろっと。
「オウギ様、今すぐでよろしいですか?」
早速ゴウジが対応してくれるようだ。
「じゃあゴウ爺お願いします」
もういっそ今日は、本邸側の人間とあれこれする日にしよう。
とはいえこれが本日最後の用になる予定だ。
「では確認して参ります」
「お願いします」
そう言って本邸に入っていったゴウジが、数分で戻ってきたので、連れられて本邸へと乗り込む。
二日連続の本邸入りだ。
「おじゃましまーす」
そのままゴウジの案内で調理場に行くと、ガイゼが待っていてくれた。
「オウギ様、いかがなされましたか?」
「一旦ガイゼと二人で話したいんだけど」
「かしこまりました」
一礼してゴウジが調理場を出て行く。
ゴウジを追い出して、ガイゼにこれからする俺の行動をあんまり広めるなよと一応圧をかけておく。
父上に雇われている以上、報告が上がるのは仕方無いだろうけど、一応ね。一応。誰彼構わず話してくれるなよ、と。
「自分にご用件があるとか」
「はい」
俺は後ろに手を回してインベントリから、一キログラムほどに切り分けたクマの肉を取り出す。
後ろに手を回したところで、何も持たないところから肉を取り出すので、目の前で取り出すのと大して変わらない気もするが、これも一応ね。一応。
「これなんですけど」
ガイゼにクマの肉を見せる。
「美味しく調理するにはどうしたらいいですか?」
「え? は? 今、どこから? あれ?」
「まあまあまあまあ」
「は、あ」
ガイゼに肉を押し付ける。
「これ、は、クマの肉ですか」
クマの肉だとこれだけでよくわかるなあ。食材鑑定みたいな能力でもあるのだろうか?
昨日の薬草も実は食材判定で、ガイゼの能力で鑑定したということなのかな?
推測に推測を重ねすぎるのは良くないので、この辺にしておくか。――なんなら本人に聞いたほうが早そうだ。
「オウギ様がご用意されたんですか?」
「秘密だけど、まあそうですね」
「もしかしてご自身でお狩りになられた?」
「秘密ですけど」
頷く。
「お一人で?」
再び頷く。
「秘密ですよ?」
「ええっ!? どうやって? ええ?」
「秘密です」
ここでも秘密主義者させてもらってます。
「それで、良い調理方法ってありますか?」
正直なところ、自分で焼いて食べた時に、あんまり美味しいとは思えなかった。
焼き方の問題なのか、そもそもこの肉が美味しくないのか、調味料を何も持っていなくて、味付けできないのがダメなのか、その辺を料理人に聞いてみたかったのだ。
「あ、すみません。
クマの肉の調理方法ですか」
ガイゼは手に持っている肉をしげしげと眺める。
「単純に焼く、というのが一番だと思いますが……ここでやってみせましょうか?」
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