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魔物解体書

「では本日は、こちらの本を読んでいただきましょう」


 そう言いながら老執事、ゴウジが持ち込んできたのは、『魔物解体書』という本だった。


「うーん?」


「まものかいたいしょ、と読みます。意味としては魔物について調べたことを記したもの、というところでございましょうか」


「なるほどなるほど」


 解説されなくてもわかるが、解説されずにわかっているのは現時点ではやりすぎだと判断して、わからないフリをしておく。


 そのうちボロが出てしまうだろうが、出るまでは何も知らないひきこもりのオウギ君であり続ける所存だ。


 とりあえず表紙を開いて見てみる。


 魔物解説の最初ページに記されていたのは「スライム」だった。


 日本人には定番の魔物だが、この世界でも最初のページに出てくるくらいには、ありふれているのかもしれない。


 わからなかったものはなかったが、難しそうな言葉をゴウジに聞きながら読んでいく。


 この本によると、スライムというのは核があり、その回りを水と魔力の膜で包み込んでいるらしい。


 スライムは何でも溶かして取り込むようだが、一瞬で溶かすようなことはできず、時間をかけて対象を溶かしていく。


 攻撃性は高くないようだが、敵対した場合、攻撃手段は相手を溶かすなんてことはせず、鞭のようにしならせるか、棍棒のような形にして、打撃を与えるのがメインだと記されている。


 スライムの他にも、ゴブリン、ウルフ、ホーンラビット、デビルスパイダー、トレント、キラーバード、さらにはグリフォンやドラゴンといった、レアそうな魔物まで図解入りで記述されている。


 興味深い内容が羅列されており、一気に読んでしまいたくなるが、ゴウジのいるこの場では自重するしかない。


 それにしても、ここまで詳細な魔物解説をするためには、魔物に対する長時間、長期間の観察が不可欠だろう。


 これほどまでの情熱を注いで、魔物の研究を行っていた――もしくは現在進行形で行っているのかもしれない――人物がいるということか。 


「二百年ほど前に、ブッキーという人物によって書かれたようです」


 著者についてゴウジに訊いてみたところ、そう教えてもらった。


 さすがに二百年も前の人となると、現在進行形ではなさそうだ。


 そんなこと(著者について)はともかく、魔物について気になることをゴウジに確認しておく。


「この本に載っているような魔物って、ここの周りにもたくさんいますか?」


「いえ。たくさんはおりません」


「この辺りだと魔物が出てきにくいんですか?」


「そういうわけではございません」 


「えっと? じゃあどうしてですか?」


「フオリ家には優秀な戦士がおりますゆえ」


「ハーティックさん、だっけ? が倒してくれてる?」


「はい。その通りでございます」


 ゴウジが頷いてみせる。


「正しく申しますと、ハーティック殿率いる警備隊が、魔物の駆除を行っております」


「ハーティックさんは強いんですか?」


「最近はようやく落ち着いてきましたが、五年以上、魔物の大量発生や、凶暴化、特異化が起きておりまして、ハーティック殿の力抜きでは、この地域を守ることは叶わなかったでしょうな」 


 オウギ君の記憶を探ってみるが、魔物による異常事態に関するものは何も無かった。


 しかし、時折母屋の方で、バタバタと騒がしく、慌ただしくしているのを感じたことはあったようで、もしかすると、それが魔物に対応する様子だったのかもしれない。


 魔物に異変が起きていたことは知らなかったが、現状この周辺には魔物が少ないというのは、()()()()()()()()()朗報だ。


 その後、いくつか魔物についての記述を読んで、本日のお勉強は終了となった。


「失礼いたします」


 ゴウジが『魔物解体書』を手に部屋から出ていった。


 一人の時間にノビノビ――じっくりと読みたい本ではあるが、今のところ本の内容を完全には理解できないことになっているので、持ち帰られてしまうのも致し方ないところだろう。


 それに、俺の()()()()を考えると、突然本が必要になったから取りに来る、という展開が起きない方が助かるので、今日のところは良しとしよう。


 できればいつかは手元に置いておきたい本なので、タイミングをみてゴウジに頼んでみるとしよう。


 この日は、夕飯までダラダラと過ごし、夕食の後にスキル【クラフト】を使い、魔力切れを起こして意識を失うように眠りについた。


 ――そして翌日。


 いつものように朝食を終え、食器を下げてもらったところで、新たな計画を行動に移す。

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