ハーティック
「はぁ疲れた」
父上の書斎を出た後、自室に戻って即ベッドに飛び込んだ。
濃ゆい一日だった。
濃すぎる一日だっただけに、反省しなければならないことがたくさんある気がする。
しかし、あまりにも疲れすぎているので、反省は明日の俺に任せて寝てしまいたい――よし、寝てしまうか。
ちゃちゃっと自らの意識を刈り取るため、ついでに魔力量強化のため、魔力を使い切ってしまおう。
こういう時は回復系のスキルを使うのが早い。
スキルを乱打して魔力欠乏状態を引き起こす。
この世界に転生したばかりの頃は、魔力欠乏状態明けでぐったりしていたが、最近はそんなことになっていない。
寝具に「回復」の『特性』を付与したことで、朝スッキリ目覚めることができるようになった。
ということでお休みなさい。
「ふぁーあ」
昨日の疲れが嘘みたいにスッキリとした朝の目覚めだ。
おはようございます。
肉体的には全くと言っていいくらいに疲労は抜けているが、精神的な疲労からか、単に朝から動きたくないだけか、しばらくベッドの上でぼーっとしていたら、使用人が朝食を持ってやってきた。
昨晩の担当が二人の使用人のうちのどちらかはわからないが、おそらくどちらにも迷惑をかけたはずなのでその場で謝る。
「いえ、滅相もございません。オウギ様がご無事でなによりでございます」
「滅相もない」って言葉もあるんだな。どんな由来があるのか詳しくは知らないが、転生先のこの世界にはあまり合わなさそうな言葉に思える。――となると、「直球」という言葉もこの世界に存在するのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えながら朝食をいただいた後、自由に外出してもいい許可ももらったし、獣人たちの村に行こうかなと思ったところで、ドアが壊れるんじゃないかというような強さで叩かれたと思われるノック音に耳――いや脳を揺さぶられた。
「はい?」
と返事をするのとほぼ同時にドアが開かれる。
ノックの意味なくね? などと考える間もなく力強い声が飛んでくる。
「オウギ様! 訓練のお時間ですぞ!!!」
昨日父上が言っていた、体育(?)の先生を務めてくれるハーティックが部屋の中に入ってきた。
昨日の今日――というか昨晩の今朝で手配早すぎじゃないですか?
ハーティックって人も、さすがにこんなすぐには無理ですと断ってくれていいんですけど。
「庭で行いますので、急いで準備をしてくだされ!」
それにしても声の大きい暑苦しい人物だ。
ハーティックが部屋に入ってきただけで、室温が十度くらい上がったんじゃないかと錯覚する。
年齢としては父上と変わらないくらいに見える。つまり俺(日本のすがた)と同世代だ。
顔は暑苦しくて濃い。――なんて表現の仕方、日本なら許されないかもしれないな。
ガッシリとした体格で、鍛練は欠かさずに行っているだろうというのがわかる。
魔力は、燃えるような赤。いやもうあれはメラメラと燃え盛る火だ。
視える魔力の色は、その人の潜在的に相性の良い属性か、使用回数の多い属性が表れているんじゃないかと思っているんだが、おそらくハーティックは火属性だろう。
こんな居るだけで気温が上がるような人間が、火属性じゃないことなんてあるだろうか? いや無い! もう決めつける。ハーティックは火属性です!
準備をして庭に連れ出された俺と、ハーティックが向かい合って立つ。
「さて、今日は……どうしたもんだ」
ハーティックは「むむむむ」と唸りながら考えている様子だ。
どんな訓練をするか、何も考えてきていないらしい。
昨晩指示されたばかりでは仕方のないことかもしれないが。
「何かする前に軽く準備運動してもいいですか?」
「準備運動?」
とりあえずラジオ体操をする。
「その動きにはどんな意味が!?」
「筋肉や関節をほぐすことで、ケガをしにくくしてます」
腕を振って脚を曲げ伸ばししながら答える。
「なるほど! それがしもご一緒しましょうぞ!」
俺の動きを真似て、ワンテンポを遅れながらもパワフルな動きを見せるハーティック。
一通り終えると、すでにホッカホカのハーティックが出来上がっていた。
「これはオウギ様が考案されたものですか!?」
「いや、違、くもない、のか?」
違うと答えると、どこで知ったかって話になるのか?
しかし、自分で考案しましたというのもなあ。
由来も成り立ちもよく知らないし。
ラジオで流して、みんなで体操して健康になりましょうみたいなことだろうとは思うけど。
「えっと、秘密です」
最近、秘密と連呼している気がする。
「そうですか! ハッハッハッハ! ではこれを、オウギ様考案準備運動として名付けて広めましょうぞ!」
隠し事されて何が面白かったのかわからない上に、笑い声がデカすぎる。
「いやそんなことはしなくてもいいというか、しないで欲しいというか……」
「ご遠慮なさらず!」
「遠慮します」
「ハッハッハッハ!」
仁王立ちで笑うハーティック。
「では身体もほぐれたことだし、今日は剣術の訓練といきますぞ!」
「剣術ですか」
どうやら準備運動の間に決めたようだ。
しかし、俺は剣なんて振ったことも握ったこともない。
剣道の授業も受けたことないので、竹刀すらも持ったことがないぞ。
ハーティックは一度庭を離れ、木剣を二本持って戻ってきた。
同じサイズのものだったので、俺にとっては大きく感じるし、ハーティックが持つには小さく見える。
「まずは好きに打ち込んできてくだされ!!」
「好きに打ち込めと言われても、全然どうしたらいいかわからないんですけど」
握り方とか構えとか、どうしたらいいのかよくわからない。
「つべこべ言わず、まずはやってみることですぞ!」
とりあえず柄を握ってみる。片手、両手――うーん……両手かなあ。
それにしてもちょっと大きくない? この剣。
「この剣、僕にはちょっと大きい気がするんですけど」
「オウギ様であれば問題なく振れるはずですぞ!」
ハーティックは俺の何を知っているというのだろうか?
とはいえこんなところで駄々をこねていても仕方ないか。
よし、構えはもうよくわからないので適当で!
そのまま剣で届く範囲まで歩いていく。
走って斬りつける方がカッコいい気もするが、勢いだけでなんとかなるものでもないだろう。
ハーティックが俺の何を見て、どんな判断を下せば納得してくれるかわからないので、とにかく剣を振り回すしかない。
「いきます!」
まずは真正面で振り上げ、斬りつけてみる。
当たり前だが簡単に防がれる。
右から横薙ぎに、左から、右から、上から、一拍置いて右から。
当然ではあるが、全て簡単に剣で防がれてしまう。
「オウギ様、腰が引けてますぞ! もっと気合いをいれてくだされ!」
左から次の攻撃――に動き出そうとしたところで、俺から見てハーティックの右側、つまり左半身側の魔力の流れが今までと変わったのを見て、慌てて左に飛び退く。
攻撃しようとしたところで動いたせいで、俺はバランスを崩して地面に倒れてしまう。
「うぁ」
情けない声が漏れ出てしまった。
自分で勝手に行動して、勝手によろけて転んでこのザマはさすがにカッコ悪すぎるか。
そんな俺の姿をハーティックは見下ろすように見ている。
しかし、その表情には驚きが見て取れた。
この人、嘘とか隠し事ができないタイプとみた。
それなりに偉いと思うんだけど大丈夫なんだろうか?
とりあえず、ハーティックから何も言われないし、まだ止まるところではないようなので起き上がり構え直す。
もしかすると、気になることを試せるかもしれないし。
「さあもう一度!」
ハーティックの合図に受け、剣を振っていく。
何度か剣を打ち込んだところ、またハーティックの身体に流れる魔力に変化があったので、一旦後ろに跳んで様子を見る。
「む」
怪訝な表情を浮かべるハーティック。
突然後ろに下がったのが気に食わないのか?
それとも、あの魔力の変化がハーティックの次の動きに繋がっていて、それを見破られたことに納得がいかないのか?
「オウギ様! 一つ質問よろしいですかな?」
「はい?」
「オウギ様にはなにが見えていらっしゃるのですかな?」
シヨム――フオリ家、現当主。
マウト――フオリ家長男。次期当主。
???――フオリ家次男。王都にて祖父祖母と生活中。
オウベ――フオリ家三男。次男と共に王都にて生活中。
オウギ――フオリ家四男。
ハミャ――シヨムの妻、オウギの産みの母。
ホワネ――シヨムの妻、フオリ家の長男、次男、三男の産みの母。
ここで唐突クイズです。
二男の名前は何でしょうか?
正解した方には――特になにもないのですが、心の中で当たったぜと有頂天になっちゃってください!
今回も読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけたら幸いです。




