第二ラウンド
今日一日――時間にしたら半日にも満たない――でずいぶんとリアサの好感度、親愛度を稼いでしまったようだ。
好意を持ってもらえるのは悪い気はしない――いや、嬉しいんだが、どうにも俺の使える特殊な能力が貰い物すぎて、申し訳なさが先立ってしまう。
こればっかりは、努力、研鑽を積み重ねて、自分自身に自信を持つよりないんだろう。
それに、オウギ君とリアサは同世代と思われるが、俺の自認はいい歳をしたおっさんである。
リアサは可愛い女の子だと思うが、今のところ幼い子やペットを見て思う可愛いだ。
将来的に俺の感情がどうなっていくのかは未知ではあるが、現状はそういう風にしか見ることができない。
そのうち、肉体年齢の方に精神が引っ張られていくなんてことがあるかもしれない。
現に今日の俺の行動は、だいぶ無茶をしているしなあ。
慎重さに欠ける今日の俺は、肉体の方に精神が引っ張られつつあるから、ということにしておきたいくらいだ。
さて。気持ちも幾分落ち着いたところで――落ち着く必要があるくらいには、やはり好意を抱いてもらったことに嬉しさはあった――、おそらく本日の第二ラウンドが待ち受けているであろう家に帰らねば。
【クラフト】道具で明かりを確保しつつ、付けておいた印に合わせて橋を架け、谷の向こうへと戻り、橋をしまう。
トンネルに入ってしまえば一本道をひたすら進むだけだ。
道中に「回復」を付与した炭酸ジュースで喉を潤し、少しでも体力を回復させる。
自室に繋がる出口を越え、大岩の出入口から出る。
さすがにこの時間に部屋の底から出て行ったら、誰かと鉢合わせになる可能性がある。
それを避けるためにも、家には外から入る。
一応こっそりと窓から入るとして、その前にインベントリから強い魔力を蓄えている薬草を取り出して手に持っておく。
さて、どうなることやら。
俺の部屋の窓を開け、足場になる物を置いてまずは中を覗き込む。
すると――
「オウギ様、そのようなはしたない真似はお止めいただいて、入り口から入ってくださいませ」
執事のゴウ爺こと、ゴウジが待ち構えていた。
「は、はーい」
ずいぶんと冷静に待ち構えていたなあ。
ゴウジに言われた通り、この離れのちゃんとした入り口に回る。
もしかすると、こっちから出入りするのも初かもしれない。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
部屋に入った俺は、ゴウジに謝罪する。
「勝手に、遅い時間まで出歩いていてごめんなさい」
頭を下げる。
「薬草取りに夢中になってしまいました」
一応言い訳を入れておく。
「ゴウ爺が持ってきてくれた本に載ってた薬草が、こんなにあって」
先ほどインベントリから取り出した薬草をゴウジの前に差し出す。
今までに採集した、強い魔力をもつ薬草たちのようやくの出番だ。
俺の言い訳のためだけにすまん。薬草たち。
「謝罪も弁明も、私ではなく、旦那様にしてくださいませ」
ゴウジが恭しく頭を下げる。
「その前に。さすがにその服のままとはいきませんので、お着替えをお願いいたします」
汚れを落とすこともできたが、ちゃんと薬草集めをしていたという主張のために、服の汚れはあの時地面を転がったそのままだ。
良い服に着替え終えたところでゴウジが言う。
「それでは旦那様のもとへ参りましょう」
ゴウジに続いて本邸へと向かう。
父上に会うのも初めてだし、本邸に入るのも初めて。今日は昼間から初めてだらけの日だ。
消費カロリー高すぎ。
「オウギ様」
「はい」
「旦那様との交渉は、ご自身で行ってくださいませ」
うん?
交渉は自分でしろということはつまり、交渉できるということか。
俺は謝罪、弁名をして、父上の審判を仰ぐだけではなくて、手札を使い、欲しいもの、必要なものを引き出せ――引き出せるぞと、ゴウジは暗にそう言っている、と受け取っていいんだよな?
「ええっと……、ゴウ爺は父上に、俺のことをどんな風に報告しているのか訊いてもいいですか?」
「旦那様には、私が見て思ったことをそのままお伝えしております」
なるほど。
見たままを伝えているわけではなく、見て思ったことを伝えていると。
元の世界でやったら、それってあなたの感想ですよね? となりかねない。
しかし、この世界ではこれが一般的な可能性もあるし、我が家独自のやり方の可能性もある。まあ、俺の件に限ってという可能性もあるか。
いずれにせよ、ゴウジの感覚で伝えてくれている方が助かる。
ゴウジが俺のことをどう見ているのか、正確に全てを把握することは不可能だが、わかることもあるからだ。
そのヒントが前にゴウジに勧められた『フアン冒険記』だ。
おそらくゴウジはこの昔話の主人公と俺を重ねて見ている。
では、この『フアン冒険記』の主人公、「フアン」とはどういう人物なのか。
「フアン」は、十歳の時に突然、様々な知識や強力な能力が発現し、後に魔王を倒して英雄となる人物だ。
知識や能力に目覚めた理由は主に二パターンで、神がフアンの身体に乗り移ったものと、神によって授けられたものがある。
ゴウジはこの「フアン」に起きたことが「オウギ」にも起きたとみている――気がする。
ところでこのおとぎ話だが、この世界の創造神的なやつが俺のために作って広めたんじゃないかと思っている。
俺――オウギ君――をこの世界で受け入れやすくするための、予習用教材として生み出された気がしてならない。
名前だって、センス(扇子)にオウギ(扇)にフアン(ファン、Fan)だぜ? これで無関係ってことあるか?
もし無関係だとしたら、自意識過剰で恥ずかしすぎてこの世界で生きていけなくなるかもしれないレベルだ。
あるとすれば、このおとぎ話がこの世界で起きた事実をもとにしていて、今より遥か以前にやって来た転生者について書かれたもの、ということだろうか。
『フアン冒険記』の由来がなんであれ、こいつとゴウジの報告によって、父上に俺が受け入れられる下地はできているはずだ。
よし! と気合いを入れる。
さすがにこれが激動の今日という日のラスボスになるはずだ。
「旦那様、よろしいでしょうか?」
「ああ」
「失礼いたします」
ゴウジがドアを開けて部屋の中に入ったのに続き、俺も足を踏み入れる。
「失礼します」
転生して約一年。
初めて直に拝む、父親の顔がそこにあった。
読んでいただきありがとうございます。
次回も読んでいただければ幸いです。




