村人たち
最初に姿を見せたのは、犬系の獣人さんたちだった。
どんな関係性かはわからないが、男性一人、女性二人、子どもが三人の六人だ。
「ユーヒ、これは? 食べてもいいのか?」
男性犬系獣人さんが問う。
「あ。ああ」
ユーヒ――おそらくお父の名前――がぎこちなく頷く。
俺が用意したものだから、勝手に許可してもいいのか一瞬躊躇した感じだろうか?
みなさんで食べて欲しいと勧めたのは俺なので、当然許可してもらって構わないんだけどね。
犬系獣人さんたちは、お母から肉の載った皿を受け取ると、ステーキを手づかみで口に運んでいく。
それにしても、完全に部外者である俺の存在に気づいていないのか、気にしていないのか、俺のことなどお構い無しに肉に食らいついている。
そうこうしているうちに、他の獣人さんたちも集まってきた。
猫系、兎系、鳥系など、いくつかの種族の獣人さんたちがこの村で暮らしているようだが、俺と同じ人間は予想した通りここには居ないようだ。
彼らの苦しんでいる姿は見ていないので、本当に治ったから出てきたのかはわからないが、俺の用意した超ポーションで治ったのだろう。
一応、状態を確認するために彼らの魔力を視てみる。
魔力の流れや量に問題のありそうな人は無しっと。
彼ら獣人の魔力も、ゴウ爺や使用人と同じように色が付いているように視える。
こうしてたくさんの人の魔力を視るのは初めてだが、魔力の色は基本的に四色――赤、青、黄、緑のいずれかのようだ。
もしかすると、赤なら火、青なら水、黄なら土、緑なら風と、属性と紐づいていて、相性が良かったり、得意な属性が魔力の色で見えているのかもしれない。
基本的にといったのは、例外が目の前にいるからだ。
それがリアサ。
彼女の魔力は他に居ない紫系統の色をしており、質感も他の人たちと違ってぎゅっと詰まっているように視える。
そんな風に魔力観察をしていると、パァンと手を叩く音がした。
音のした方を見ると、お父が自身に視線を向けるための行動だった。
「食べながらでいい。聞いてくれ。
さっきの大量のポーションも、この肉も、俺が用意したものでは無い」
超ポーションについて何も説明していなかったが、お父はポーションだと村の人たちに伝えたようだ。
「じゃあ誰にゃんだい?」
猫系獣人の女性から質問の声が飛ぶ。
猫系獣人さんは「にゃ」って言うんだな。
なんてことを思っていると、急に抱き上げられる。
ライオンの物語の子ライオン状態だ。
俺は王にはならないからな。
「このオウギだ」
お父からご紹介あずかりました、オウギです。どうも。
と思っているが、衆人の目がこちらに向いていて緊張し、声に出せないので、頭だけぺこぺこ下げる。
それを受けて、村人たちがざわつく。
「子どもじゃないか?」「何者だ?」「そんなことよりもこいつは……」
どよめく村人たちを遮るようにお父が続ける。
「見ての通り人間の子どもだ」
どこにでもいる一般ぴーぽーです。
「何者なんだ?」「どこから来たんだ?」「どうやってポーションを?」「子どもがこの肉を用意したのか?」
様々な疑問が飛び交う。
「知らん!」
お父が豪快に答えた。
「知らんて」「どうなってるんだ?」「本当に何者なんだ?」「誰が連れてきたんだ?」
「リアサがどこからか拾ってきた」
拾われてきたらしいです。
「よくわからんが、神の使いかなにかだ」
神さまに遣わされたわけではないが、しかし遠からずではあるか?
「なるほど?」「それなら大量のポーションも用意できるか」「そんな凄いことができるなんて何者だ!?」「肉だって狩り放題ってわけか」
なんか納得されたらしい。
「詳しくは話せないらしいが、俺たちが助けられたのは事実だ」
お父が俺を地面に降ろす。
「この村の長として礼を言う」
「いえ。どういたしまして」
「この村は見ての通り獣人が暮らす村だ」
「はい」
「俺らは人間を避け、他の獣人のやつらからも逃れ、辿り着いたここで暮らしてる」
人間と獣人の間に何があったか、何があるのかを聞いたことはなかったが、なんとなく想像はつく。
しかし、人間のみならず獣人からも距離を取っていたとは。
「ここには誰も来ない。だから、オウギが居なかったら、村は終わってたかもしれない。
何も無い村だが、できる限りのお礼はする。何でも言ってくれ」
お父はここで周囲を見回す。
「あ、だが娘はやらん!」
「下らないこと言ってんじゃないよ!」
と、お母がお父をつねったところが、村長からの言葉終了の合図となり、村人たちはがやがやと話しながらの食事を再開させた。
俺は、揉みくちゃにされたり、拝まれたり、撫でられたり、崇められたりした後で、獣人たちの輪から少し離れた森の入り口でくつろいでいた。
もともと、飲みの席は苦手ではあったが、こういう騒ぎの場も得意ではなく、どうしても離れたくなってしまうし、現にこうして離れてしまっている。
さて、これからどうするか。
一旦治療は終わったが、根本的な原因は解決していないどころかわかってすらいない。
何が原因で病――もしくは呪い――で苦しむことになったのかがわからないことには、その原因を取り除くことなどできない。
今はみんな治って元気になっているようだが、明日また同じ症状で苦しむことになってしまうかもしれない。
リアサにはみんなを治して欲しいと頼まれたし、どうせなら原因まできっちりと片付けたい。
そこまで俺が受け持つ範囲では無いと思う自分がいるのも事実ではある。
だが、ここの人たちを完全に治すことで、色々と俺自身の役に立つのではないか? と打算的に考える俺もいる。
外部との交流を断っているこの村なら、俺の能力を披露したとして、変に広まって不利益を被るという可能性はかなり小さい。
今のところ予定はないが、人手が欲しい状況や、屋外で何かを試す時など、悪い言い方にはなるが、利用価値が高そうである。
空を見上げる。
何にしても今日はそろそろタイムリミット。すでに帰り道は全速力で飛ばす必要がありそうだ。
「オウギ、いた」
物思いにふけっていた俺は、リアサの声ではっと我に返る。
「オウギ、本当にありがとう」
ぺこりと頭を下げるリアサ。
「どういたしまして。
でも、まだ根本的な解決はしてないんだよね。みんなが苦しんでた原因も理由も何もかもわかってないし」
そのことに気付いてなかったのか、リアサの目が少しだけ驚いて見開いた気がする。
「ただ、今日は難しいから――」
また今度原因を探りに来ると言おうとしたところで、何者かの声に遮られる。
「ねえ。もしかして、余計なことをしてくれちゃったのオマエ?」
「わっしょいわっしょい」
「ありがたやありがたや」
「お前マジで何者なんだ?」
「肉うめー」
「わしゃわしゃわしゃわしゃ」
「うちの子ににゃるか?」
「遠慮しないで食っていけよ」
「絶対に娘はやらんぞ!」
「ホントに何者なんだよ?」
「うみゃいうみゃい」




